雪花の負け犬
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「雪柱を務めることと相成りました、冬坂聖です。よろしくお願い致します」
不死川実弥は、柱合会議で冬坂聖を始めてみてたとき、なんだコイツ、仲間に顔を見せる気もないのか、と憤慨した。
白い顔布のせいで表情も何も見えず、何を考えてるか全く分からない聖を、気に食わなかった。
「聖! 柱就任、おめでとう!」
「煉獄さん、ありがとうございます」
「祝いは何が良い?」
「いえ……、気を遣っていただかなくても大丈夫ですので……」
煉獄は、ヤケに親しげに接しているが、当人は困った風な声で顔を俯かせていた。
「おう! 聖!! 派手にメシに行こうぜ」
「派手なご飯ってなんですか……天元さん」
「そういえば、嫁も会いたがってたぞ」
「じゃあ、また今度、美味しいものを持って会いに行きますね」
「そうしてくれ! またあの派手なプリン? を作ってくれ」
「プリンアラモードですね。わかりました」
宇髄天元と仲良くなったようで、よく一緒にメシを食べに行っているのを見かけるようになった。嫁とも仲がいいらしい。
「悲鳴嶼さん!」
「ああ、冬坂。……これから滝に行くのだが」
「お供しても良いですか?」
「もちろんだとも」
悲鳴嶼行冥とも、仲良くなったようで、よく滝行を共にしている。
「冬坂さん、この間のプリンが皆さんに好評だったので、また作って頂いてよろしいですか?」
「はい、胡蝶さん。喜んで。もし良ければ、作り方をお教えしますよ」
胡蝶しのぶとも、関係は良好なようだ。
「聖君! あのね! この間、伊黒さんと一緒に行った甘味屋さんがとても美味しかったの!! 今度一緒に行こうね!!」
「はい、甘露寺さん。是非。……い、伊黒さん……どうされましたか……?」
「ちょっとこっちに来い。冬坂」
甘露寺蜜璃とも仲が良いが、その分、伊黒小芭内には嫌われているようだ。
「……ねぇ、あの雲ってなんて名前?」
「確か、かなとこ雲だよ」
「ふーん……」
「もうすぐ土砂降りになるから、雨宿りできるところを探そうか」
「……ん」
時透無一郎とは、まるで兄弟のように接している(当人達は無意識らしい)。誰にでも敬語の聖が、珍しく素であろう話し方で時透と話しているのをよく見る。
「……」
「……」
「……富岡さん?」
「……狐面は、どうだろうか」
「なんの話ですか……?」
富岡義勇ともそこそこ話しているのを見かける。(聖は始終戸惑ってる)
では、不死川実弥とは?
答えは、”全く話さない”だ。業務連絡のような事務的な会話しかしたことがない。対面するときは、いつも気弱そうにおどおどとされて、その態度に苛立ち、舌打ちをする。
そんな不死川をどうにも苦手なようで、最低限しか近寄って来ない。
もちろん、仕事に支障が出るときは無いが、(伊黒は除く)他の柱とは円滑な人間関係を築けているのに、何故俺には話し掛けない。
「いや。別に俺、アイツとなんか仲良くしたくねぇし」
「知らねぇよ」
宇髓は、頭を抱えていた。軽い気持ちで酒の席に誘った不死川が、思ったよりも面倒くさい酔い方をしたのだ。
「なんで手前等は、あんな顔も知れねぇ奴を信用できんだよ」
「は? 見たこないのか?」
「あ?」
「アイツの顔だよ」
「……見たこと、あんのか?」
宇髄は、ぐび、と度数の派手な酒を呑み込む。以前、無理やりあの顔布を剥ぎとったことがあるのだ。
基本的に、嫁以外にはデリカシーと言うものは持ち合わせていない宇髄は、なんの容赦も無く「なんとなく気になるから」と言う理由で、聖の顔を見た。秘められたものを暴きたくなるのは、元忍の性分だろうか。それとも宇髄個人的なものだろうか。
「どうせ地味な面だろう」と高を括っていたが、出てきたのは、整った顔つき。隠したがる理由が分からない。俺ほどではないが、それなりな顔してんじゃねえか。
「僕の顔は、呪われているので……」そうゴニョゴニョ呟いていてが、妻帯者、それも愛妻家の宇髄には、その呪いとやらは、効かなかったようだ。
それが分かってからは、じわじわと仲良くなっていき、他人のことは名字で呼ぶ聖が、宇髓の事だけは「天元さん」と名前で呼ぶ。
宇髄にとって、聖は、可愛い弟のようなものだ。
「それで、どんな顔だった……?」
「ああ? まぁ、整ってるぜ。だが、地味だ。もっと派手にすりゃあ良いのにな。俺みたいに」
「はぁ?」
んだよソレ……とさらに酒を煽る。宇髄は、もうそろそろコイツから酒を取り上げたほうがいいんだろうかと思い始めたが、面倒くさいのでそのまま見てることにした
「なんで俺だけ……チッ」
「なんだぁ? この間、怪我させちまったのをまだ気に病んでんのか? あいつは、気にしてねぇって言ってただろ」
「……」
聖は、件の柱合会議で、鬼になってしまった竈門炭治郎の妹、禰豆子が入った箱を滅多刺しにしようとした不死川の間に割って入り、不死川の刀で怪我を負った。
当人は、「自分が怪我を負ったのは、不死川さんのせいではありません。僕が不甲斐無かったからです」と言っていた。
「ああ? 気にしてねぇよ。……怪我、もう治ったのか?」
「バッチリ気にしてんな。治ったかぐらい自分で聞けよ。傷付けた本人だろ」
ぐぬぬぬ、と不死川は唸った。話し掛けられないのに、どう聞けと。
「いや、向こうが話し掛けて来ねぇんだ」
「は?」
だいぶ酔が回ってるらしい。意味不明なことを一人でごちりだした不死川に、宇髄は面倒くささが募ってきた。そろそろお開きにして、嫁と寝るか。
「とりあえず、聖に謝りてぇなら、早いうちに謝れよ。俺達は、いつどうなるかなんてわかねぇんだから。地味に悩むより、派手に散れ」
「あぁ?! 散れって何だよ散れって!!」
「じゃあな、」
「なんで帰んだよッ!おいっ!」
「……わかった、じゃあ代わりのやつ呼んでやる。待ってろ」
半刻後。その場に現れたのは、学生帽の下に白い顔布を垂らし、顔を隠した青年。雪柱、冬坂聖だった。
「天元さん? こんな時間にどうしたんですか? ……あれ、不死川さん?」
「……あ?」
「僕、天元さんに呼ばれて来たんですけれど……」
「あいつなら、帰った」
「かえっ、た?」
動揺した声色で、聖は呆然と立っていた。
「入れ違いに、なってしまったと言うことでしょうか……」
「……おい、冬坂。こっち来い」
「へ? は、はい……」
恐る恐るといったふうに、不死川に近付いていく。だが、遠い所で止まってしまった。その縮こまった様子に、不死川は苛立つ。
「もっとこっちに来い」
「……はい、」
じりじりと距離を詰める。だが、さらに近寄れと手を取られ、引き寄せられた。
「う、わっ、」
「……」
「不死川さん、どうし、」
至近距離で布越しに顔をのぞき込まれる。酒の臭いが濃い。相当酔っているのが、よく分かる。
「顔、見せろ」
「え」
がっ、と聖の手を握る手に力を込めて、逃げられないようにすると、もう片方の手で布を掴もうとする。しかし、聖も掴まれていない方の手で、その手を拒む。
「突然、どうしたのですか!」
「良いから見せろ」
「嫌です!」
軽く揉み合いになる。だが、腕力は不死川のほうが上である。終いには、ぐらりと聖の身体が後方に傾き、その上に覆い被さるように不死川が陣取った。
傍から見れば、不死川が聖を押し倒しているような姿勢である。だが、不死川は酔っているので、その絵面の不味さには気が付いていない。
「不死川、さん……!?」
「あ? あー……」
ついに、聖の顔布は退けられた。まるで花嫁のヴェールのように上に避けられた布の下から、聖の整った顔が見えた。
白磁の肌に、艷やかな黒髪。瞳は神秘的な翡翠色。眉を寄せて、息を切らせ蒸気した顔で上目気味に不死川を見つめている。
「……」
不死川は、無言で聖の上から退き、無言で退出していった。一人残された聖は、ぽかんとその方向を見つめ、顔布をもとに戻し、冷や汗を流す。
(しまった。見られた)
僕の顔は呪われているのに。見られてしまった。だが、不死川さんは普通だった。……いや、様子は確かにおかしかったが、お酒を沢山召し上がられてたようだから、そのせいだろうか。
もしかしたら、天元さんのように、想い人が既にいて、呪いが効かない人なのかもしれない。……そうだったら良いのだけれど。
一方その頃、不死川実弥は、道の端に蹲っていた。
真っ赤な顔を両腕で覆って、目をぐるぐると渦巻いて。先程見た聖の素顔を思い出していた。
なんだあれは、なんだあれは!!!
「〜〜〜〜ッ!!!」
潤んだ翡翠色の瞳。悩ましげに寄せられた形の良い眉。赤らんだ頬と艷やかな唇がよく映える白磁の肌。床に散らばった黒髪。
その情景が頭を離れない。
「、は」
__不死川さん……
ガンッ、と額を地面に打ち付ける。
いや、違う。違う。違う。違ったら違う。
「……」
「別にお前なんか好きじゃねぇから!!!」
「……へ?」
後日、不死川は、聖を目の前にして、そう叫んだ。聖はわけがわからないと言った顔できょとんとしている。
偶々そこに居合わせた宇髄は全てを悟ったようで、にまにまとソレを見学していた。
「わかったか!?」
「は、はい」
あまりの眼光の強さに後退る。ああ、でも不死川さんも、天元さんと同じように僕の呪いが効かない人だったのか。
「そっか……」
聖は、口元を緩めた。
「不死川さん、今度、お食事でもいかがですか?」
「はぁ!?」
「……ご迷惑でしたら、」
「迷惑じゃねぇ、行く」
「……はいっ、ありがとうございます」
「勘違いすんなよ! 別にお前なんか好きじゃねぇからな!!」
「? はい、存じてます」
「……」
全てを悟った宇髄だけが、にやにやと笑っていた。
あー、派手に面白ぇ。
不死川実弥は、柱合会議で冬坂聖を始めてみてたとき、なんだコイツ、仲間に顔を見せる気もないのか、と憤慨した。
白い顔布のせいで表情も何も見えず、何を考えてるか全く分からない聖を、気に食わなかった。
「聖! 柱就任、おめでとう!」
「煉獄さん、ありがとうございます」
「祝いは何が良い?」
「いえ……、気を遣っていただかなくても大丈夫ですので……」
煉獄は、ヤケに親しげに接しているが、当人は困った風な声で顔を俯かせていた。
「おう! 聖!! 派手にメシに行こうぜ」
「派手なご飯ってなんですか……天元さん」
「そういえば、嫁も会いたがってたぞ」
「じゃあ、また今度、美味しいものを持って会いに行きますね」
「そうしてくれ! またあの派手なプリン? を作ってくれ」
「プリンアラモードですね。わかりました」
宇髄天元と仲良くなったようで、よく一緒にメシを食べに行っているのを見かけるようになった。嫁とも仲がいいらしい。
「悲鳴嶼さん!」
「ああ、冬坂。……これから滝に行くのだが」
「お供しても良いですか?」
「もちろんだとも」
悲鳴嶼行冥とも、仲良くなったようで、よく滝行を共にしている。
「冬坂さん、この間のプリンが皆さんに好評だったので、また作って頂いてよろしいですか?」
「はい、胡蝶さん。喜んで。もし良ければ、作り方をお教えしますよ」
胡蝶しのぶとも、関係は良好なようだ。
「聖君! あのね! この間、伊黒さんと一緒に行った甘味屋さんがとても美味しかったの!! 今度一緒に行こうね!!」
「はい、甘露寺さん。是非。……い、伊黒さん……どうされましたか……?」
「ちょっとこっちに来い。冬坂」
甘露寺蜜璃とも仲が良いが、その分、伊黒小芭内には嫌われているようだ。
「……ねぇ、あの雲ってなんて名前?」
「確か、かなとこ雲だよ」
「ふーん……」
「もうすぐ土砂降りになるから、雨宿りできるところを探そうか」
「……ん」
時透無一郎とは、まるで兄弟のように接している(当人達は無意識らしい)。誰にでも敬語の聖が、珍しく素であろう話し方で時透と話しているのをよく見る。
「……」
「……」
「……富岡さん?」
「……狐面は、どうだろうか」
「なんの話ですか……?」
富岡義勇ともそこそこ話しているのを見かける。(聖は始終戸惑ってる)
では、不死川実弥とは?
答えは、”全く話さない”だ。業務連絡のような事務的な会話しかしたことがない。対面するときは、いつも気弱そうにおどおどとされて、その態度に苛立ち、舌打ちをする。
そんな不死川をどうにも苦手なようで、最低限しか近寄って来ない。
もちろん、仕事に支障が出るときは無いが、(伊黒は除く)他の柱とは円滑な人間関係を築けているのに、何故俺には話し掛けない。
「いや。別に俺、アイツとなんか仲良くしたくねぇし」
「知らねぇよ」
宇髓は、頭を抱えていた。軽い気持ちで酒の席に誘った不死川が、思ったよりも面倒くさい酔い方をしたのだ。
「なんで手前等は、あんな顔も知れねぇ奴を信用できんだよ」
「は? 見たこないのか?」
「あ?」
「アイツの顔だよ」
「……見たこと、あんのか?」
宇髄は、ぐび、と度数の派手な酒を呑み込む。以前、無理やりあの顔布を剥ぎとったことがあるのだ。
基本的に、嫁以外にはデリカシーと言うものは持ち合わせていない宇髄は、なんの容赦も無く「なんとなく気になるから」と言う理由で、聖の顔を見た。秘められたものを暴きたくなるのは、元忍の性分だろうか。それとも宇髄個人的なものだろうか。
「どうせ地味な面だろう」と高を括っていたが、出てきたのは、整った顔つき。隠したがる理由が分からない。俺ほどではないが、それなりな顔してんじゃねえか。
「僕の顔は、呪われているので……」そうゴニョゴニョ呟いていてが、妻帯者、それも愛妻家の宇髄には、その呪いとやらは、効かなかったようだ。
それが分かってからは、じわじわと仲良くなっていき、他人のことは名字で呼ぶ聖が、宇髓の事だけは「天元さん」と名前で呼ぶ。
宇髄にとって、聖は、可愛い弟のようなものだ。
「それで、どんな顔だった……?」
「ああ? まぁ、整ってるぜ。だが、地味だ。もっと派手にすりゃあ良いのにな。俺みたいに」
「はぁ?」
んだよソレ……とさらに酒を煽る。宇髄は、もうそろそろコイツから酒を取り上げたほうがいいんだろうかと思い始めたが、面倒くさいのでそのまま見てることにした
「なんで俺だけ……チッ」
「なんだぁ? この間、怪我させちまったのをまだ気に病んでんのか? あいつは、気にしてねぇって言ってただろ」
「……」
聖は、件の柱合会議で、鬼になってしまった竈門炭治郎の妹、禰豆子が入った箱を滅多刺しにしようとした不死川の間に割って入り、不死川の刀で怪我を負った。
当人は、「自分が怪我を負ったのは、不死川さんのせいではありません。僕が不甲斐無かったからです」と言っていた。
「ああ? 気にしてねぇよ。……怪我、もう治ったのか?」
「バッチリ気にしてんな。治ったかぐらい自分で聞けよ。傷付けた本人だろ」
ぐぬぬぬ、と不死川は唸った。話し掛けられないのに、どう聞けと。
「いや、向こうが話し掛けて来ねぇんだ」
「は?」
だいぶ酔が回ってるらしい。意味不明なことを一人でごちりだした不死川に、宇髄は面倒くささが募ってきた。そろそろお開きにして、嫁と寝るか。
「とりあえず、聖に謝りてぇなら、早いうちに謝れよ。俺達は、いつどうなるかなんてわかねぇんだから。地味に悩むより、派手に散れ」
「あぁ?! 散れって何だよ散れって!!」
「じゃあな、」
「なんで帰んだよッ!おいっ!」
「……わかった、じゃあ代わりのやつ呼んでやる。待ってろ」
半刻後。その場に現れたのは、学生帽の下に白い顔布を垂らし、顔を隠した青年。雪柱、冬坂聖だった。
「天元さん? こんな時間にどうしたんですか? ……あれ、不死川さん?」
「……あ?」
「僕、天元さんに呼ばれて来たんですけれど……」
「あいつなら、帰った」
「かえっ、た?」
動揺した声色で、聖は呆然と立っていた。
「入れ違いに、なってしまったと言うことでしょうか……」
「……おい、冬坂。こっち来い」
「へ? は、はい……」
恐る恐るといったふうに、不死川に近付いていく。だが、遠い所で止まってしまった。その縮こまった様子に、不死川は苛立つ。
「もっとこっちに来い」
「……はい、」
じりじりと距離を詰める。だが、さらに近寄れと手を取られ、引き寄せられた。
「う、わっ、」
「……」
「不死川さん、どうし、」
至近距離で布越しに顔をのぞき込まれる。酒の臭いが濃い。相当酔っているのが、よく分かる。
「顔、見せろ」
「え」
がっ、と聖の手を握る手に力を込めて、逃げられないようにすると、もう片方の手で布を掴もうとする。しかし、聖も掴まれていない方の手で、その手を拒む。
「突然、どうしたのですか!」
「良いから見せろ」
「嫌です!」
軽く揉み合いになる。だが、腕力は不死川のほうが上である。終いには、ぐらりと聖の身体が後方に傾き、その上に覆い被さるように不死川が陣取った。
傍から見れば、不死川が聖を押し倒しているような姿勢である。だが、不死川は酔っているので、その絵面の不味さには気が付いていない。
「不死川、さん……!?」
「あ? あー……」
ついに、聖の顔布は退けられた。まるで花嫁のヴェールのように上に避けられた布の下から、聖の整った顔が見えた。
白磁の肌に、艷やかな黒髪。瞳は神秘的な翡翠色。眉を寄せて、息を切らせ蒸気した顔で上目気味に不死川を見つめている。
「……」
不死川は、無言で聖の上から退き、無言で退出していった。一人残された聖は、ぽかんとその方向を見つめ、顔布をもとに戻し、冷や汗を流す。
(しまった。見られた)
僕の顔は呪われているのに。見られてしまった。だが、不死川さんは普通だった。……いや、様子は確かにおかしかったが、お酒を沢山召し上がられてたようだから、そのせいだろうか。
もしかしたら、天元さんのように、想い人が既にいて、呪いが効かない人なのかもしれない。……そうだったら良いのだけれど。
一方その頃、不死川実弥は、道の端に蹲っていた。
真っ赤な顔を両腕で覆って、目をぐるぐると渦巻いて。先程見た聖の素顔を思い出していた。
なんだあれは、なんだあれは!!!
「〜〜〜〜ッ!!!」
潤んだ翡翠色の瞳。悩ましげに寄せられた形の良い眉。赤らんだ頬と艷やかな唇がよく映える白磁の肌。床に散らばった黒髪。
その情景が頭を離れない。
「、は」
__不死川さん……
ガンッ、と額を地面に打ち付ける。
いや、違う。違う。違う。違ったら違う。
「……」
「別にお前なんか好きじゃねぇから!!!」
「……へ?」
後日、不死川は、聖を目の前にして、そう叫んだ。聖はわけがわからないと言った顔できょとんとしている。
偶々そこに居合わせた宇髄は全てを悟ったようで、にまにまとソレを見学していた。
「わかったか!?」
「は、はい」
あまりの眼光の強さに後退る。ああ、でも不死川さんも、天元さんと同じように僕の呪いが効かない人だったのか。
「そっか……」
聖は、口元を緩めた。
「不死川さん、今度、お食事でもいかがですか?」
「はぁ!?」
「……ご迷惑でしたら、」
「迷惑じゃねぇ、行く」
「……はいっ、ありがとうございます」
「勘違いすんなよ! 別にお前なんか好きじゃねぇからな!!」
「? はい、存じてます」
「……」
全てを悟った宇髄だけが、にやにやと笑っていた。
あー、派手に面白ぇ。