雪花の負け犬
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煉獄杏寿郎は、冬坂聖を好いている。
柱合会議で会うときは、必ず隣を陣取る。飯に誘えたときは、顔布の下で行儀良く食事をしているのをじっと見つめ、慈しむ。共に戦うときには、荒々しい自分とは対象的なその静かな剣技に、魅了される。
きっかけこそ一目惚れであったが、その仕草や戦い方、彼を構成する全てが愛おしく思える。
だが、煉獄は未だ一言もその想いを伝えていない。
「煉獄さん、」
「ああ、聖! 同じ任務か!」
「……ええ」
列車の中、聖と煉獄は向かい合うように座っていた。うまい! うまい! と駅弁を大量にかきこむ煉獄を、聖はぼうっと見つめていた。
聖は、朧気な記憶を手繰り寄せ、これから起こることを脳裏に描いていた。
夢を魅せる鬼、列車、そして上弦の鬼。
「聖も食べるか?」
「いいえ、鬼を斬る前は何も食べないようにしているんです」
「……そうだったな」
「はい、」
沈黙。聖は口が達者な方ではない。気の利いた小粋なトークなんてものは出来ないし、無理にするものでも無いだろう。
煉獄と共にいるときは、煉獄の話を静かに聞くか、こうして双方黙って、(煉獄が一方的に)見つめ合うことが多かった。
「あ、冬坂さん!」
「竈門さん」
いよいよだ。そう心の中でつぶやき、現れた主人公組と席を共にした。
「切符を拝見致します」
そこは、生まれ育った実家だった。
「聖、おかえりなさい」
「ははうえ、」
生地の良い着物を身に着けた、黒髪の美女が上品に笑って、聖を手招いた。聖の母である。
「あらゝ、顔に泥なんてつけて。また兄様達にいじわるされたの?」
「…………」
「違うよ、聖が勝手に転んだんだ」
「そうだよ。な、健彦」
「うん」
長男の清兄様と、次男の巴兄様、それに健彦。みんな顔立ちが幼い。自分の掌を見てみると、ぷにぷにとした可愛らしい紅葉があった。
ぺたりと顔に触れると、顔布が無かった。
「ほら、拭いてあげるから。こちらにいらっしゃい」
母の白魚のような手を取った。
「母上、僕、お家でなくてもいいの?」
「何を言ってるの、聖。ずっと居てもいいのよ」
「本当?」
「ええ、ずうっと、ここに居てね。聖」
「ごめんなさい。母上、兄様……健彦」
聖は、いつの間にか持ってた日輪刀で自分の頸を掻っ切った。
原作を知っていたが、あの懐かしさに躊躇してしまった。
もう何年も会っていない家族と、もう会えないあの人。
禰豆子と目が合う。他の人たちはまだ目が覚めていないようだった。
「……皆を頼みます」
早くしなければ。眠る煉獄の頬をするりと撫でる。反応は無いが、もうすぐ目覚めるだろう。聖は一刻も早く眠り鬼を倒して、なるべく無傷で次に備えなければならない。
「ああ! 会いたかったよ。美しい人」
対峙した鬼は、うっとりとした顔で舐めるように聖を見た。
途中、邪魔をしてきた人間は、全て当て身をして後方に投げた。
「君の夢、もう少し見ていたかったけれど、随分と攻略が速かったね」
「…………」
「うふふ、まるで“知っていた”ようだった。……嗚呼、君の絶望に歪んだ顔が見たいんだ、僕は。どうしたら見せてくれるかな? きっと、その顔の君は、もっと美しいんだろうなぁ」
「……本体は、この列車ですね」
スラリ、と薄氷の如き刀を抜く。
「わかってるんだ? いいの? 今乗客は全員僕の腹の中だよ」
「乗客は、全員家に返します」
雪の呼吸 肆ノ型 風花の舞
眠り鬼、魘夢の身体に複数の風穴が開く。
しかし、魘夢はどこ吹く風といった様子で、にまにまと笑っている。
血鬼術 強制昏倒催眠の囁き
魘夢の手から生えた口が「お眠りィ」と囁く。一瞬で夢に誘う術だ。しかし、聖は即座に意識を覚醒し、音もなく刀を振るう。
「何回もそんなに自害して、辛くないの?」
「いえ、一時期、死ぬ事ばかりを考えていた時があったので」
「そのときに会いたかったなぁ」
「残念でしたね」
ぞろり、と周辺に触手のようなのが生え、聖を取り囲む。
聖は、静かに刀を構えた。
「え、」
次の瞬間、聖を取り囲んでいた触手が全て寸々に断ち切られた。
雪の呼吸 伍ノ型 淡雪
「そろそろ、ご退場願います」
柱合会議で会うときは、必ず隣を陣取る。飯に誘えたときは、顔布の下で行儀良く食事をしているのをじっと見つめ、慈しむ。共に戦うときには、荒々しい自分とは対象的なその静かな剣技に、魅了される。
きっかけこそ一目惚れであったが、その仕草や戦い方、彼を構成する全てが愛おしく思える。
だが、煉獄は未だ一言もその想いを伝えていない。
「煉獄さん、」
「ああ、聖! 同じ任務か!」
「……ええ」
列車の中、聖と煉獄は向かい合うように座っていた。うまい! うまい! と駅弁を大量にかきこむ煉獄を、聖はぼうっと見つめていた。
聖は、朧気な記憶を手繰り寄せ、これから起こることを脳裏に描いていた。
夢を魅せる鬼、列車、そして上弦の鬼。
「聖も食べるか?」
「いいえ、鬼を斬る前は何も食べないようにしているんです」
「……そうだったな」
「はい、」
沈黙。聖は口が達者な方ではない。気の利いた小粋なトークなんてものは出来ないし、無理にするものでも無いだろう。
煉獄と共にいるときは、煉獄の話を静かに聞くか、こうして双方黙って、(煉獄が一方的に)見つめ合うことが多かった。
「あ、冬坂さん!」
「竈門さん」
いよいよだ。そう心の中でつぶやき、現れた主人公組と席を共にした。
「切符を拝見致します」
そこは、生まれ育った実家だった。
「聖、おかえりなさい」
「ははうえ、」
生地の良い着物を身に着けた、黒髪の美女が上品に笑って、聖を手招いた。聖の母である。
「あらゝ、顔に泥なんてつけて。また兄様達にいじわるされたの?」
「…………」
「違うよ、聖が勝手に転んだんだ」
「そうだよ。な、健彦」
「うん」
長男の清兄様と、次男の巴兄様、それに健彦。みんな顔立ちが幼い。自分の掌を見てみると、ぷにぷにとした可愛らしい紅葉があった。
ぺたりと顔に触れると、顔布が無かった。
「ほら、拭いてあげるから。こちらにいらっしゃい」
母の白魚のような手を取った。
「母上、僕、お家でなくてもいいの?」
「何を言ってるの、聖。ずっと居てもいいのよ」
「本当?」
「ええ、ずうっと、ここに居てね。聖」
「ごめんなさい。母上、兄様……健彦」
聖は、いつの間にか持ってた日輪刀で自分の頸を掻っ切った。
原作を知っていたが、あの懐かしさに躊躇してしまった。
もう何年も会っていない家族と、もう会えないあの人。
禰豆子と目が合う。他の人たちはまだ目が覚めていないようだった。
「……皆を頼みます」
早くしなければ。眠る煉獄の頬をするりと撫でる。反応は無いが、もうすぐ目覚めるだろう。聖は一刻も早く眠り鬼を倒して、なるべく無傷で次に備えなければならない。
「ああ! 会いたかったよ。美しい人」
対峙した鬼は、うっとりとした顔で舐めるように聖を見た。
途中、邪魔をしてきた人間は、全て当て身をして後方に投げた。
「君の夢、もう少し見ていたかったけれど、随分と攻略が速かったね」
「…………」
「うふふ、まるで“知っていた”ようだった。……嗚呼、君の絶望に歪んだ顔が見たいんだ、僕は。どうしたら見せてくれるかな? きっと、その顔の君は、もっと美しいんだろうなぁ」
「……本体は、この列車ですね」
スラリ、と薄氷の如き刀を抜く。
「わかってるんだ? いいの? 今乗客は全員僕の腹の中だよ」
「乗客は、全員家に返します」
雪の呼吸 肆ノ型 風花の舞
眠り鬼、魘夢の身体に複数の風穴が開く。
しかし、魘夢はどこ吹く風といった様子で、にまにまと笑っている。
血鬼術 強制昏倒催眠の囁き
魘夢の手から生えた口が「お眠りィ」と囁く。一瞬で夢に誘う術だ。しかし、聖は即座に意識を覚醒し、音もなく刀を振るう。
「何回もそんなに自害して、辛くないの?」
「いえ、一時期、死ぬ事ばかりを考えていた時があったので」
「そのときに会いたかったなぁ」
「残念でしたね」
ぞろり、と周辺に触手のようなのが生え、聖を取り囲む。
聖は、静かに刀を構えた。
「え、」
次の瞬間、聖を取り囲んでいた触手が全て寸々に断ち切られた。
雪の呼吸 伍ノ型 淡雪
「そろそろ、ご退場願います」