雪花の負け犬
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月影さやかな夜。我妻善逸は、それに出会った。
善逸は、一人、廊下を歩いていた。
先日まで蜘蛛の鬼の毒により、手足が縮み、寝たきりだった善逸だが、蟲柱の胡蝶しのぶを始めとした蝶屋敷の人々の手厚い看病のかいもあって、一人で厠に行けるようになった。
なったのだが、今、善逸は、ピンチだった。
めちゃくちゃ漏れそうなのである。
女の子の淹れてくれるお茶を飲むのが嬉しすぎて、ついつい飲み過ぎてしまった。
利尿作用もあったようで、膀胱が悲鳴を上げている。
だが、漏らせば女の子達を幻滅させてしまうどころか、炭治郎や伊之助に笑われてしまう。
いや、炭治郎は長男なので、生暖かい目で「大丈夫だ。慣れてるから」とか言うに決まってる。俺、年上なのに。幼い弟のように扱われたら、繊細な心が折れる。
「厠、遠いんだよ……」
松葉杖をついて一歩々々、前に進むが、病み上がりの手足では、牛よりいや、蝸牛より遅い。漏れるのが先か、厠に着くのが先か。生か死か……
畜生、畜生……悪態をつきながら、ふらふらと進んでいく。
「あの、大丈夫ですか?」
「ヒェッ」
ちびった。
いや、ほんの少しだけ。驚いた拍子にちょろっとだけ出た。
すんでの所で、持ち堪えたが、時間の問題である。それより俺を驚かせやがった奴に文句も言ってやりたい。
そう思って、声がした方に顔を向けて、またちびりそうになった。月明かりに照らされて、ぼんやりと白いモノが人の頭ぐらいの位置に浮かんでいる。
「驚かせてしまってすみません。こんな時間に、ふらふらと歩いてるものですから、心配になって……」
「ひ、ひぇ……」
音が何もしなかった。人間は生きていれば、鼓動や呼吸音やら、衣擦れの音やら、足音やら何かしらの音がしているはずなのに、その目の前の白いモノは、何一つ音がしなかった。善逸の耳であれば、殆どの音が聞き取れる筈なのに。
「もし? どうされました? お加減でも悪いんですか?」
「……お、おば、おばけだァァァァァァァァァ!! ア゛ーーーーーっ!!! 南無阿弥陀仏!! 南無釈迦牟尼仏!! 南無妙法蓮華経!! 南無大師遍照金剛!! えっと、アーメン!!!」
「な、何宗なんですか……」
動かしにくい筈の手足を無理矢理動かして、もと来た道を呼吸まで使って爆走し、伊之助と炭治郎が寝ている部屋に戻り、自分の布団に潜り込んだ。
なんだったんだ、あれは。きっとお化けだァ……。そうだ、だってこの蝶屋敷は、負傷者が運び込まれる所だ。きっとここで亡くなった人もいる。きっとソレだ。死んだ隊士の亡霊だ………。
「あ、」
厠……………。
「大丈夫だ、善逸。慣れてるから」
翌日、炭治郎は、予想通りの生暖かい目で善逸を見ていた。
「まだ、身体が本調子じゃないんだ。気に病むことはない。……まぁ、うん」
「違うんだってぇ……これは違うんだってぇ……お化けが、お化けが出たんだってぇ……」
「うんうん、そうだな。怖い夢を見たんだな。それで漏らし」
「言うなよッッッ!!!」
泣いた。
「蝶屋敷 に、幽霊が出たんですって。冬坂さん」
「……」
「なんでも、衣擦れの音も、足音もしなかったのに後ろに立っていたとか。暗い廊下になにやら白いモノが、ぼんやりと浮かんでいたらしいですよ? それを怖がった隊士がお粗相をしてしまいまして……」
困ったものですね。と、まったく目が笑っていない胡蝶しのぶが、冷や汗をかいた聖に話し掛ける。
「うふふ、稚児じゃあ無いんですからねぇ。ねぇ? 冬坂さん?」
「……そう、ですね」
絞り出すような声で弱々しく返事をする。聖には、その話に心当たりがある。めっちゃある。
「すみません……」
「あら、どうして冬坂さんが謝るんです?」
聖は、雪の呼吸の特性上、存在感が希薄である。
歩くときは、足音一つしないし、衣擦れの音もなにも出ない。鼓動音もしている筈なのだが、微小である。
それが、雪の呼吸の特性である、普段の生活から、物音一つ立てないように訓練されているのだ。
「まさか、あんなに驚かれるとは、思わなかったんです」
その後、聖は、病み上がりでも食べられる美味しいモノを持って、善逸に謝りに行った。
善逸は、「デタッッッ!!」と絶叫し気を失ってしまい、困惑したが、起きるまで待たせてもらうことにした。
伊之助は、大きなイビキをかいて寝ている。
「ああ、竈門さん。この間ぶりですね」
「えっと、確か」
「はい。雪柱の冬坂聖です」
件の柱会議で出会った二人は、気絶した善逸を横目に、頭を下げ合う。炭治郎は、ベットの上だが、ペタリと三つ指をついて、さらに深く頭を下げた。
「あの時は、禰豆子を庇っていただいてありがとうございました」
あの日、聖は、禰豆子を不死川実弥から庇い軽傷だが怪我を負ったのだ。炭治郎は、それを心底気に病んでいる。聖は、顔布の下で眉を下げた。
「どうか、顔を上げてください。子供に頭を下げられるのは、どうにも胃に悪いのです」
「ですが、」
「……お願いします。僕が彼女を庇ったのは、僕が優しいとか、そういうのでは無いんです。もっと打算的な考えからなんです」
「…………」
「……良かったら、食べませんか?」
「土鍋?」
「ポッディング……プリンです」
手に持っていた土鍋の蓋を開けると、つややでぷるりとした、黄色いものが顔を覗かせた。甘い香りが炭治郎の鼻孔を擽り、その香りだけで、幸せになれそうな気がする。
「わぁっ! いい香りですね!」
「ええ、僕が作りました」
「えっ! すごいですね!!」
「卵と牛乳、砂糖が入っているので、栄養価が高いですし、なめらかで食べやすいので、病気の人や怪我をした人にとても良いんですよ。今よそいますね」
お玉で掬い、皿に盛るとぷるんっと可愛らしく揺れた。匙と一緒に炭治郎に渡してやると、目がキラキラと輝いた。別の容器に入れていたカラメルソースをかけてやると、甘い香りの中に、カラメルソースのほろ苦い香りが加わり、不思議な匂いになった。
「いただきます」
「どうぞ」
すっと、匙を通し、そのなめらかさに驚く。口に含むと濃厚な卵の味とほろ苦いソースが広がっていき、余りにも美味しいのでほっぺたがじーんとした。
「美味しいっっ!!」
「良かった……、まだ沢山あるから良かったらおかわりしてくださいね」
「はいっ! あ、そうだ……善逸!! 伊之助起きろ!! 一緒に食べよう!!」
頬を叩き、二人を起こす。伊之助は、ダルそうにしていたが、プリンの匂いに気が付き、何だコレ! と土鍋に飛びついた。同じように盛ってやると、匙を投げて(文字通り)、素手でプリンを掴んで食べ始めた。炭治郎が「行儀が悪いぞ」と叱るも、ガン無視して、そのまま食べすすめていた。
善逸は、「夢でまたあのお化けが出た」と寝ぼけながら起き上がり、聖と目が合う(布越し)と、汚い高音の悲鳴を上げて、部屋の隅に逃げ込んだ。しかし、炭治郎の説得でなんとか誤解を解き、プリンを食べさせると夢中で食べ始めた。
「冬坂さん、本当に生きてる人間……?」
「……生きてますよ」
「だって、音がなんにもしないからッ、」
「呼吸や身のこなしで、音などいくらでも消せますよ」
「ええ………やっぱ柱ってバケモンだ……」
土鍋を空にした三人は、ベッドに腰掛けたまま駄弁り始めた。余りにも善逸がビビっていたため、落ち着かせるために、聖の胸元に善逸の耳を当て、鼓動の音を聞かせると、やっと安心してくれた。
「え……めっちゃ心地良い……」
「それは、良かった? です」
生きてることを証明できたようで、よかった。と聖も安心し、昨晩の事を謝ると善逸も失礼な事を言ったと謝罪した。
「なぁ、なんでお前、顔を隠してんだ?」
手についたプリンをペロペロと舐めながら、伊之助が突然ぶち込んだ。
言わずもがな、聖の地雷である。
「……ない、しょ」
絞り出すような声で、苦しげに言う聖に、炭治郎は、言いたくない事なんだなと察した。できた長男なのである。
だが、伊之助は何だよそれーーーッ!と憤慨し、顔布を奪おうと躍起になる。(顔を隠してるのは自分も同じだが、棚に上げてる)
しかし、聖は、これでも柱である。新人の隊士に顔布を取られるほど甘くはない。
ましてや病み上がりの伊之助が、顔布を取れるわけがない。
軽くあしらい、「じゃあ僕はこれで」と空の土鍋を持って、そそくさと部屋を出ようとすると
「ぷりん、美味しかったです! ありがとうございました!」
と炭治郎が、太陽のように笑いながら言ったので、また作ってあげますねと約束して彼らと別れた。
「やっぱり、これ。鬼滅の刃の世界なんだよなぁ……」
一人、誰もいない廊下で、転生者である聖は、呟いた。記憶は少しずつ薄れているが、先日、柱会議にて、主人公の顔を見て、原作を少しだけ思い出した。そのおかげで実弥が禰豆子の入っている箱を滅多刺しにするのを回避することができた。
結果、少し怪我をしたが、幼気な少女が傷付くのは、職業柄いただけないため、耐えることができた。
実弥には散々文句を言われたが、煉獄の助け合って、険悪にならずに済んだのである。
「……煉獄さん、」
あの悲劇の未来をどう回避すればいいのか。そのことだけを考えていた。
善逸は、一人、廊下を歩いていた。
先日まで蜘蛛の鬼の毒により、手足が縮み、寝たきりだった善逸だが、蟲柱の胡蝶しのぶを始めとした蝶屋敷の人々の手厚い看病のかいもあって、一人で厠に行けるようになった。
なったのだが、今、善逸は、ピンチだった。
めちゃくちゃ漏れそうなのである。
女の子の淹れてくれるお茶を飲むのが嬉しすぎて、ついつい飲み過ぎてしまった。
利尿作用もあったようで、膀胱が悲鳴を上げている。
だが、漏らせば女の子達を幻滅させてしまうどころか、炭治郎や伊之助に笑われてしまう。
いや、炭治郎は長男なので、生暖かい目で「大丈夫だ。慣れてるから」とか言うに決まってる。俺、年上なのに。幼い弟のように扱われたら、繊細な心が折れる。
「厠、遠いんだよ……」
松葉杖をついて一歩々々、前に進むが、病み上がりの手足では、牛よりいや、蝸牛より遅い。漏れるのが先か、厠に着くのが先か。生か死か……
畜生、畜生……悪態をつきながら、ふらふらと進んでいく。
「あの、大丈夫ですか?」
「ヒェッ」
ちびった。
いや、ほんの少しだけ。驚いた拍子にちょろっとだけ出た。
すんでの所で、持ち堪えたが、時間の問題である。それより俺を驚かせやがった奴に文句も言ってやりたい。
そう思って、声がした方に顔を向けて、またちびりそうになった。月明かりに照らされて、ぼんやりと白いモノが人の頭ぐらいの位置に浮かんでいる。
「驚かせてしまってすみません。こんな時間に、ふらふらと歩いてるものですから、心配になって……」
「ひ、ひぇ……」
音が何もしなかった。人間は生きていれば、鼓動や呼吸音やら、衣擦れの音やら、足音やら何かしらの音がしているはずなのに、その目の前の白いモノは、何一つ音がしなかった。善逸の耳であれば、殆どの音が聞き取れる筈なのに。
「もし? どうされました? お加減でも悪いんですか?」
「……お、おば、おばけだァァァァァァァァァ!! ア゛ーーーーーっ!!! 南無阿弥陀仏!! 南無釈迦牟尼仏!! 南無妙法蓮華経!! 南無大師遍照金剛!! えっと、アーメン!!!」
「な、何宗なんですか……」
動かしにくい筈の手足を無理矢理動かして、もと来た道を呼吸まで使って爆走し、伊之助と炭治郎が寝ている部屋に戻り、自分の布団に潜り込んだ。
なんだったんだ、あれは。きっとお化けだァ……。そうだ、だってこの蝶屋敷は、負傷者が運び込まれる所だ。きっとここで亡くなった人もいる。きっとソレだ。死んだ隊士の亡霊だ………。
「あ、」
厠……………。
「大丈夫だ、善逸。慣れてるから」
翌日、炭治郎は、予想通りの生暖かい目で善逸を見ていた。
「まだ、身体が本調子じゃないんだ。気に病むことはない。……まぁ、うん」
「違うんだってぇ……これは違うんだってぇ……お化けが、お化けが出たんだってぇ……」
「うんうん、そうだな。怖い夢を見たんだな。それで漏らし」
「言うなよッッッ!!!」
泣いた。
「
「……」
「なんでも、衣擦れの音も、足音もしなかったのに後ろに立っていたとか。暗い廊下になにやら白いモノが、ぼんやりと浮かんでいたらしいですよ? それを怖がった隊士がお粗相をしてしまいまして……」
困ったものですね。と、まったく目が笑っていない胡蝶しのぶが、冷や汗をかいた聖に話し掛ける。
「うふふ、稚児じゃあ無いんですからねぇ。ねぇ? 冬坂さん?」
「……そう、ですね」
絞り出すような声で弱々しく返事をする。聖には、その話に心当たりがある。めっちゃある。
「すみません……」
「あら、どうして冬坂さんが謝るんです?」
聖は、雪の呼吸の特性上、存在感が希薄である。
歩くときは、足音一つしないし、衣擦れの音もなにも出ない。鼓動音もしている筈なのだが、微小である。
それが、雪の呼吸の特性である、普段の生活から、物音一つ立てないように訓練されているのだ。
「まさか、あんなに驚かれるとは、思わなかったんです」
その後、聖は、病み上がりでも食べられる美味しいモノを持って、善逸に謝りに行った。
善逸は、「デタッッッ!!」と絶叫し気を失ってしまい、困惑したが、起きるまで待たせてもらうことにした。
伊之助は、大きなイビキをかいて寝ている。
「ああ、竈門さん。この間ぶりですね」
「えっと、確か」
「はい。雪柱の冬坂聖です」
件の柱会議で出会った二人は、気絶した善逸を横目に、頭を下げ合う。炭治郎は、ベットの上だが、ペタリと三つ指をついて、さらに深く頭を下げた。
「あの時は、禰豆子を庇っていただいてありがとうございました」
あの日、聖は、禰豆子を不死川実弥から庇い軽傷だが怪我を負ったのだ。炭治郎は、それを心底気に病んでいる。聖は、顔布の下で眉を下げた。
「どうか、顔を上げてください。子供に頭を下げられるのは、どうにも胃に悪いのです」
「ですが、」
「……お願いします。僕が彼女を庇ったのは、僕が優しいとか、そういうのでは無いんです。もっと打算的な考えからなんです」
「…………」
「……良かったら、食べませんか?」
「土鍋?」
「ポッディング……プリンです」
手に持っていた土鍋の蓋を開けると、つややでぷるりとした、黄色いものが顔を覗かせた。甘い香りが炭治郎の鼻孔を擽り、その香りだけで、幸せになれそうな気がする。
「わぁっ! いい香りですね!」
「ええ、僕が作りました」
「えっ! すごいですね!!」
「卵と牛乳、砂糖が入っているので、栄養価が高いですし、なめらかで食べやすいので、病気の人や怪我をした人にとても良いんですよ。今よそいますね」
お玉で掬い、皿に盛るとぷるんっと可愛らしく揺れた。匙と一緒に炭治郎に渡してやると、目がキラキラと輝いた。別の容器に入れていたカラメルソースをかけてやると、甘い香りの中に、カラメルソースのほろ苦い香りが加わり、不思議な匂いになった。
「いただきます」
「どうぞ」
すっと、匙を通し、そのなめらかさに驚く。口に含むと濃厚な卵の味とほろ苦いソースが広がっていき、余りにも美味しいのでほっぺたがじーんとした。
「美味しいっっ!!」
「良かった……、まだ沢山あるから良かったらおかわりしてくださいね」
「はいっ! あ、そうだ……善逸!! 伊之助起きろ!! 一緒に食べよう!!」
頬を叩き、二人を起こす。伊之助は、ダルそうにしていたが、プリンの匂いに気が付き、何だコレ! と土鍋に飛びついた。同じように盛ってやると、匙を投げて(文字通り)、素手でプリンを掴んで食べ始めた。炭治郎が「行儀が悪いぞ」と叱るも、ガン無視して、そのまま食べすすめていた。
善逸は、「夢でまたあのお化けが出た」と寝ぼけながら起き上がり、聖と目が合う(布越し)と、汚い高音の悲鳴を上げて、部屋の隅に逃げ込んだ。しかし、炭治郎の説得でなんとか誤解を解き、プリンを食べさせると夢中で食べ始めた。
「冬坂さん、本当に生きてる人間……?」
「……生きてますよ」
「だって、音がなんにもしないからッ、」
「呼吸や身のこなしで、音などいくらでも消せますよ」
「ええ………やっぱ柱ってバケモンだ……」
土鍋を空にした三人は、ベッドに腰掛けたまま駄弁り始めた。余りにも善逸がビビっていたため、落ち着かせるために、聖の胸元に善逸の耳を当て、鼓動の音を聞かせると、やっと安心してくれた。
「え……めっちゃ心地良い……」
「それは、良かった? です」
生きてることを証明できたようで、よかった。と聖も安心し、昨晩の事を謝ると善逸も失礼な事を言ったと謝罪した。
「なぁ、なんでお前、顔を隠してんだ?」
手についたプリンをペロペロと舐めながら、伊之助が突然ぶち込んだ。
言わずもがな、聖の地雷である。
「……ない、しょ」
絞り出すような声で、苦しげに言う聖に、炭治郎は、言いたくない事なんだなと察した。できた長男なのである。
だが、伊之助は何だよそれーーーッ!と憤慨し、顔布を奪おうと躍起になる。(顔を隠してるのは自分も同じだが、棚に上げてる)
しかし、聖は、これでも柱である。新人の隊士に顔布を取られるほど甘くはない。
ましてや病み上がりの伊之助が、顔布を取れるわけがない。
軽くあしらい、「じゃあ僕はこれで」と空の土鍋を持って、そそくさと部屋を出ようとすると
「ぷりん、美味しかったです! ありがとうございました!」
と炭治郎が、太陽のように笑いながら言ったので、また作ってあげますねと約束して彼らと別れた。
「やっぱり、これ。鬼滅の刃の世界なんだよなぁ……」
一人、誰もいない廊下で、転生者である聖は、呟いた。記憶は少しずつ薄れているが、先日、柱会議にて、主人公の顔を見て、原作を少しだけ思い出した。そのおかげで実弥が禰豆子の入っている箱を滅多刺しにするのを回避することができた。
結果、少し怪我をしたが、幼気な少女が傷付くのは、職業柄いただけないため、耐えることができた。
実弥には散々文句を言われたが、煉獄の助け合って、険悪にならずに済んだのである。
「……煉獄さん、」
あの悲劇の未来をどう回避すればいいのか。そのことだけを考えていた。