雪花の負け犬
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「聖か!」
「れ、煉獄さん……」
「水臭いな! 杏寿郎と呼んでくれといつも言っているだろう?」
「……善処しますね」
煉獄杏寿郎は、冬坂聖の顔を知っている、数少ない人間である。そして、心底聖に惚れ込んでいる。
初めて出会ったのは、任務で鬼を殺していたときだった。それは増殖する鬼で、最初に派遣されていた階級の低い隊員達だけでは対処しきれず、柱である煉獄が助太刀に来たのだった。
当時壬 だった聖は、背後で、傷を負った一般人を護りながら、静かに刀を振るい、誰一人死なすことなく、増援を待っていた。
「雪の呼吸 壱ノ型 銀華の息吹」
呟くように吐息を洩らして、広範囲の鬼の膝下を低姿勢で撫でていく。雪の呼吸の特徴は、敵の動きを封じ込める事に長けているということである。頸を最初から狙わず、的確に動きを止めてから、確実に首を落とす。
「ぁ、あ。なんで、脚が」
刀は、向こう側の風景が透けて見えるほど、薄い。だが、恋柱の甘露寺の愛刀のようには撓らず、普通に振るえば簡単に折れてしまうほどに脆い。例えるなら薄氷だ。だが、力を入れる方向さえ間違わなければ、敵が痛みすら感じないほどの斬れ味を誇る。
体制を崩した鬼の首を着実に落とすが、一向に敵は減らない。
(これも外れだ……やはり本体を斬らなければ、こいつらは増え続けるのか? だけど、)
ちらりと後ろを見る。そこには真っ青な顔の少女達がガタガタと震えていた。
「美味しそうなにおひ、におひがする……」
「ひっ!」
(本体を探しに行っている暇がない!)
雪の呼吸には、一撃必殺の技が無い。故に確実性はあれど、長時間の殲滅戦等には向かない流派だった。それが、事態の好転を阻んでいる。
「あっ、」
2体の鬼の長い舌が、同時に少女達へと伸びる。それを斬り落とそうと、刀を振るうと、もう一体も同じように舌を伸ばし、こんどは聖の左腕を捕えた。段々と鬼に統率が取れはじめてきている。先程までは、馬鹿な獣程度だった知恵が、戦いが長引くにつれて跳ね上がってきている。
「、」
消化液のようなもので、隊服が溶かされる。手首が焼けるように痛い。思わず顔布の下の顔が歪む。すぐに舌を斬って逃れるが、次々と舌が伸びてくる。斬り落としていく途中、消化液がとんできて顔布を留めていた紐が溶かされ、ひらりと布が落ちた。
「しまっ、」
「美味しそうな、顔」
一瞬気を取られてしまい、反応が遅れる。刀で斬るよりも避けた方が速いのだが、避けた先には一般人がいる。それに、彼らに顔を見られるわけには行かない。
「いただきま、」
「炎の呼吸 ___」
「よく頑張ったな!」
「……ありがとうございます」
駆け付けた炎柱の煉獄が、あっという間に全ての鬼を斬り伏せ、一般人も無事に家に返すことができた。
「君が頑張ってくれたおかげで、一般人から死者が出なかった!」
「いえ……僕は、」
「それにしても何故顔を隠す?」
溶けてしまった顔布の代わりに、羽織を頭から被せて顔を隠している聖に、煉獄は不思議そうに首を傾げる。それに、先程から視線も合わない。
「……それは、その」
「顔に怪我でもしたのか? 見せてみろ」
なんの躊躇いもなく、羽織を退かして聖の顔を覗き込む。そして、雷にでも打たれたようにぴしりと固まり、目をカッ開いたまま、動かなくなった。
そんな煉獄の様子に、聖は顔を青くする。しまった。やってしまった。
「……」
「れ、煉獄さん……」
がしり、と力強く聖の手を握る。そして優しく両手で包み込み、熱に浮かされる顔をそっと近づけた。
「杏寿郎と、呼んでくれないか!」
炎柱、煉獄杏寿郎。この世に生を受けて二十と余年。生まれて初めての一目惚れだった。
「このあと、飯でもどうだろうか?」
「……このあとは、先約が、……」
「誰だ?」
「宇髄さんです……」
では失礼します。と控えめに頭を下げて、距離を取る。聖は、一刻も早くここから立ち退きたかった。もちろん宇髄と約束しているのは嘘ではないし、後ろめたいことなど何もない。だが、
「そうか……」
聖は、寂しそうに眉を下げる煉獄の顔がどうにも苦手だった。
「すみません……今度、一緒にお食事に行きましょう」
「、ああ!」
自分の顔が呪われてさえいなければ。そう思い、布の下でそっと唇を噛んだ。
「れ、煉獄さん……」
「水臭いな! 杏寿郎と呼んでくれといつも言っているだろう?」
「……善処しますね」
煉獄杏寿郎は、冬坂聖の顔を知っている、数少ない人間である。そして、心底聖に惚れ込んでいる。
初めて出会ったのは、任務で鬼を殺していたときだった。それは増殖する鬼で、最初に派遣されていた階級の低い隊員達だけでは対処しきれず、柱である煉獄が助太刀に来たのだった。
当時
「雪の呼吸 壱ノ型 銀華の息吹」
呟くように吐息を洩らして、広範囲の鬼の膝下を低姿勢で撫でていく。雪の呼吸の特徴は、敵の動きを封じ込める事に長けているということである。頸を最初から狙わず、的確に動きを止めてから、確実に首を落とす。
「ぁ、あ。なんで、脚が」
刀は、向こう側の風景が透けて見えるほど、薄い。だが、恋柱の甘露寺の愛刀のようには撓らず、普通に振るえば簡単に折れてしまうほどに脆い。例えるなら薄氷だ。だが、力を入れる方向さえ間違わなければ、敵が痛みすら感じないほどの斬れ味を誇る。
体制を崩した鬼の首を着実に落とすが、一向に敵は減らない。
(これも外れだ……やはり本体を斬らなければ、こいつらは増え続けるのか? だけど、)
ちらりと後ろを見る。そこには真っ青な顔の少女達がガタガタと震えていた。
「美味しそうなにおひ、におひがする……」
「ひっ!」
(本体を探しに行っている暇がない!)
雪の呼吸には、一撃必殺の技が無い。故に確実性はあれど、長時間の殲滅戦等には向かない流派だった。それが、事態の好転を阻んでいる。
「あっ、」
2体の鬼の長い舌が、同時に少女達へと伸びる。それを斬り落とそうと、刀を振るうと、もう一体も同じように舌を伸ばし、こんどは聖の左腕を捕えた。段々と鬼に統率が取れはじめてきている。先程までは、馬鹿な獣程度だった知恵が、戦いが長引くにつれて跳ね上がってきている。
「、」
消化液のようなもので、隊服が溶かされる。手首が焼けるように痛い。思わず顔布の下の顔が歪む。すぐに舌を斬って逃れるが、次々と舌が伸びてくる。斬り落としていく途中、消化液がとんできて顔布を留めていた紐が溶かされ、ひらりと布が落ちた。
「しまっ、」
「美味しそうな、顔」
一瞬気を取られてしまい、反応が遅れる。刀で斬るよりも避けた方が速いのだが、避けた先には一般人がいる。それに、彼らに顔を見られるわけには行かない。
「いただきま、」
「炎の呼吸 ___」
「よく頑張ったな!」
「……ありがとうございます」
駆け付けた炎柱の煉獄が、あっという間に全ての鬼を斬り伏せ、一般人も無事に家に返すことができた。
「君が頑張ってくれたおかげで、一般人から死者が出なかった!」
「いえ……僕は、」
「それにしても何故顔を隠す?」
溶けてしまった顔布の代わりに、羽織を頭から被せて顔を隠している聖に、煉獄は不思議そうに首を傾げる。それに、先程から視線も合わない。
「……それは、その」
「顔に怪我でもしたのか? 見せてみろ」
なんの躊躇いもなく、羽織を退かして聖の顔を覗き込む。そして、雷にでも打たれたようにぴしりと固まり、目をカッ開いたまま、動かなくなった。
そんな煉獄の様子に、聖は顔を青くする。しまった。やってしまった。
「……」
「れ、煉獄さん……」
がしり、と力強く聖の手を握る。そして優しく両手で包み込み、熱に浮かされる顔をそっと近づけた。
「杏寿郎と、呼んでくれないか!」
炎柱、煉獄杏寿郎。この世に生を受けて二十と余年。生まれて初めての一目惚れだった。
「このあと、飯でもどうだろうか?」
「……このあとは、先約が、……」
「誰だ?」
「宇髄さんです……」
では失礼します。と控えめに頭を下げて、距離を取る。聖は、一刻も早くここから立ち退きたかった。もちろん宇髄と約束しているのは嘘ではないし、後ろめたいことなど何もない。だが、
「そうか……」
聖は、寂しそうに眉を下げる煉獄の顔がどうにも苦手だった。
「すみません……今度、一緒にお食事に行きましょう」
「、ああ!」
自分の顔が呪われてさえいなければ。そう思い、布の下でそっと唇を噛んだ。