雪花の負け犬
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冬坂聖の意識が戻ったと言う知らせは瞬く間に広がった。
一ヶ月も眠っていたため、回復には時間がかかるらしいが、鬼殺隊は続けられるようだ。
「あの、兄様。僕の顔布を知りませんか……」
「あ? 横になってんのにあんな白い布を掛けとくわけねぇだろ。縁起悪ぃ」
「でも、」
「水柱の野郎がなんか狐面を置いていったぞ。あいつの師匠が拵えたらしい。これ被っとけ」
「冨岡さんの?」
「厄除けの面だとよ」
翡翠色の目をした白い狐面は、どことなく聖に似ている。以前に冨岡さんが言っていた「狐面」とはこれのことだったか。
着けてみると、案外しっくりときた。
「別に顔なんか隠さなくてもいいと思うけどな」
「……」
「まぁ、好きなようにしろ。兄ちゃんは次の仕事あるから、もう行くぞ。あとはあの炎柱に任せるからな」
最後にぽんぽんと頭を撫でて、部屋を出ていった。会うのは5年ぶりほどだが、驚くほど普通で、まるでつい最近も一緒にいたような違和感のなさだった。
入れ替わるように、着流しを着た煉獄が入室する。
「聖、調子はどうだ」
「煉獄さん。ええ、少しダルいぐらいです。明日には起き上がっていいそうです。煉獄さんは……」
「俺も快調に向かっている」
暫く穏やかに談笑をしていると、ふと聖の指先が煉獄の包帯が巻かれた片目を撫ぜた。狐面をつけていて、表情はわからないが、指先が震えているのがわかった。
煉獄は、その手に自分の手をそっと添える。
「片目はもう駄目だそうだ。摘出手術を受けた」
「そう、ですか」
「左腕も麻痺している。今までのように刀は握れないとのことだ」
「……そう、ですか」
「柱は、引退することになった」
「……」
黙り込んでしまった聖にそっと近づき、狐面越しに顔を突き合わせる。
「だが、生きている。君のおかげだ」
「……」
そっと、狐面を外すと今にも泣きそうな顔の聖と目があった。眉を寄せて、瞳を潤ませて、口をきつく結んでいる。
「俺はこうして、君とまた話せて嬉しい」
「……」
するり、と今度は煉獄が聖の頬を撫でる。聖は、目を瞑って煉獄の手の温もりを受け入れた。ほろり、と涙が頬を伝う。
煉獄は、そんな聖をみて、泣いて欲しくないと思うと同時に、ひどく愛しく思った。
「聖。俺は君が好きだ」
その言葉に、聖は目を開く。ほろほろと涙が次々に頬を濡らしていく。それを優しく手で拭うと、すり、とその手に頰を摺り寄せてきた。
「……僕の顔は、呪われています」
「……」
「……この呪いは、僕の顔を見た人を可怪しくしてしまいます」
聖は、煉獄に幼少期のことを、あの鬼のことを、健彦のことを話した。煉獄は、優しく頷きながら聞いていた。
「……それが、君が背負っていたものか」
「……」
「ならば、俺は、その呪いから君を守ろう」
「ですが、」
「聖、君は俺が可怪しいと思うか?」
「……いえ、」
聖は、ゆるく首を振る。
「俺は、君と生きていたい」
「煉獄、さん」
「君が眠っていた一月は、俺にとって地獄だった。怖くて怖くて堪らなかった。君のともう語らえないかもしれないと思ったら、指の先から凍えていった」
煉獄が、優しく聖を抱き締める。
聖は、抵抗することなく煉獄の肩口に顔を埋めた。暖かい。生きている。また、涙がじんわりと滲み、煉獄の羽織に吸い込まれていった。
「俺は君が好きだ」
同じ台詞を、繰り返す。
「……僕には、わかりません。僕には、好きとか嫌いとか、そういうものがわかりません。……知るのは、怖い」
「聖……」
「でも、煉獄さんなら……杏寿郎さんなら、不思議と……怖くないような、そんな気がするのです」
聖は、煉獄の肩口に顔を埋めたまま、鼻声でそう言った。煉獄は、始めて呼ばれた名前に目を見開くが、そのまま耳を傾けた。
「僕に、教えてください。杏寿郎さんのこと、たくさん」
ゆっくりと、顔を上げ目を合わせる。濡れた瞳が艷やかに輝いた。そしてゆっくりと瞬きし、微笑む。
「よもや……、よもやだ」
「?」
「どうやら、俺は更に君に惚れたらしい」
そう言って、煉獄は顔から火が出そうなほど赤くなっていった。
「はは、すまない。ちょっと見ないでくれ。情けない顔をしている。穴があったら入りたいぐらいだ!」
「ふふ、」
花が綻んだように笑う聖に、煉獄は更に顔を熱くさせる。そして、狐面を聖の顔に被せると、そっと目を逸らした。
「君に見つめられると、焦げてしまいそうだ」
「それは、きっと僕の台詞なんでしょうね」
穏やかな時間が、ゆったりと流れていた。
「なにこれ、入れなくない?」
扉の前で、全てを聞いてしまった善逸が、一人立ち竦んでいたことを、二人はまだ知らない。
一ヶ月も眠っていたため、回復には時間がかかるらしいが、鬼殺隊は続けられるようだ。
「あの、兄様。僕の顔布を知りませんか……」
「あ? 横になってんのにあんな白い布を掛けとくわけねぇだろ。縁起悪ぃ」
「でも、」
「水柱の野郎がなんか狐面を置いていったぞ。あいつの師匠が拵えたらしい。これ被っとけ」
「冨岡さんの?」
「厄除けの面だとよ」
翡翠色の目をした白い狐面は、どことなく聖に似ている。以前に冨岡さんが言っていた「狐面」とはこれのことだったか。
着けてみると、案外しっくりときた。
「別に顔なんか隠さなくてもいいと思うけどな」
「……」
「まぁ、好きなようにしろ。兄ちゃんは次の仕事あるから、もう行くぞ。あとはあの炎柱に任せるからな」
最後にぽんぽんと頭を撫でて、部屋を出ていった。会うのは5年ぶりほどだが、驚くほど普通で、まるでつい最近も一緒にいたような違和感のなさだった。
入れ替わるように、着流しを着た煉獄が入室する。
「聖、調子はどうだ」
「煉獄さん。ええ、少しダルいぐらいです。明日には起き上がっていいそうです。煉獄さんは……」
「俺も快調に向かっている」
暫く穏やかに談笑をしていると、ふと聖の指先が煉獄の包帯が巻かれた片目を撫ぜた。狐面をつけていて、表情はわからないが、指先が震えているのがわかった。
煉獄は、その手に自分の手をそっと添える。
「片目はもう駄目だそうだ。摘出手術を受けた」
「そう、ですか」
「左腕も麻痺している。今までのように刀は握れないとのことだ」
「……そう、ですか」
「柱は、引退することになった」
「……」
黙り込んでしまった聖にそっと近づき、狐面越しに顔を突き合わせる。
「だが、生きている。君のおかげだ」
「……」
そっと、狐面を外すと今にも泣きそうな顔の聖と目があった。眉を寄せて、瞳を潤ませて、口をきつく結んでいる。
「俺はこうして、君とまた話せて嬉しい」
「……」
するり、と今度は煉獄が聖の頬を撫でる。聖は、目を瞑って煉獄の手の温もりを受け入れた。ほろり、と涙が頬を伝う。
煉獄は、そんな聖をみて、泣いて欲しくないと思うと同時に、ひどく愛しく思った。
「聖。俺は君が好きだ」
その言葉に、聖は目を開く。ほろほろと涙が次々に頬を濡らしていく。それを優しく手で拭うと、すり、とその手に頰を摺り寄せてきた。
「……僕の顔は、呪われています」
「……」
「……この呪いは、僕の顔を見た人を可怪しくしてしまいます」
聖は、煉獄に幼少期のことを、あの鬼のことを、健彦のことを話した。煉獄は、優しく頷きながら聞いていた。
「……それが、君が背負っていたものか」
「……」
「ならば、俺は、その呪いから君を守ろう」
「ですが、」
「聖、君は俺が可怪しいと思うか?」
「……いえ、」
聖は、ゆるく首を振る。
「俺は、君と生きていたい」
「煉獄、さん」
「君が眠っていた一月は、俺にとって地獄だった。怖くて怖くて堪らなかった。君のともう語らえないかもしれないと思ったら、指の先から凍えていった」
煉獄が、優しく聖を抱き締める。
聖は、抵抗することなく煉獄の肩口に顔を埋めた。暖かい。生きている。また、涙がじんわりと滲み、煉獄の羽織に吸い込まれていった。
「俺は君が好きだ」
同じ台詞を、繰り返す。
「……僕には、わかりません。僕には、好きとか嫌いとか、そういうものがわかりません。……知るのは、怖い」
「聖……」
「でも、煉獄さんなら……杏寿郎さんなら、不思議と……怖くないような、そんな気がするのです」
聖は、煉獄の肩口に顔を埋めたまま、鼻声でそう言った。煉獄は、始めて呼ばれた名前に目を見開くが、そのまま耳を傾けた。
「僕に、教えてください。杏寿郎さんのこと、たくさん」
ゆっくりと、顔を上げ目を合わせる。濡れた瞳が艷やかに輝いた。そしてゆっくりと瞬きし、微笑む。
「よもや……、よもやだ」
「?」
「どうやら、俺は更に君に惚れたらしい」
そう言って、煉獄は顔から火が出そうなほど赤くなっていった。
「はは、すまない。ちょっと見ないでくれ。情けない顔をしている。穴があったら入りたいぐらいだ!」
「ふふ、」
花が綻んだように笑う聖に、煉獄は更に顔を熱くさせる。そして、狐面を聖の顔に被せると、そっと目を逸らした。
「君に見つめられると、焦げてしまいそうだ」
「それは、きっと僕の台詞なんでしょうね」
穏やかな時間が、ゆったりと流れていた。
「なにこれ、入れなくない?」
扉の前で、全てを聞いてしまった善逸が、一人立ち竦んでいたことを、二人はまだ知らない。