「私は何も言ってないです…」
どうやら自分が思っているよりもこの見合いは深刻らしい
付き合いで一度顔合わせしてやっぱり違いましたはいさようなら、で終われないのだ

「まぁあれで俺を気に入ったって言い出したらそれ、相当のマゾですよね」
あはは、なんて楽しそうな声が聞こえたけどこの人今の現状分かってるのかな？ってちょっとイラついた

「自分が失礼な人間だって自覚はあるんですか？」
嫌味のつもりで言ったはずなのに返ってきた言葉に衝撃を受けた

「そりゃありますよ。わざとなんで。」


「はぁ〜〜〜？？？？？」

わざと、って聞こえて咄嗟に反応してしまった私は気づいたらソファから立ち上がっていた
声うるさっ、って笑ってる声が聞こえたけどそんなことどうでもいい

いや、性格悪すぎない？
笑い事じゃないんですけど？

「いや〜、面倒臭いでしょ。こういうの。アンタも乗り気じゃなさそうだったし、こっちがちょっと失礼な態度とっておけば上手く断ってくれるんじゃないかな〜と期待してました」

しかもご丁寧に理由まで述べてくれるらしいまだ出会ったばっかりだとかお偉いさんのご紹介だと相手がNO.2ヒーローだとかそんなことどうでもいい
私はすでに遠慮なんてなくなってた
「こっちだってね！上からの紹介なんですよ！？やんわり断っても聞いてもらえないし、そんなことしたらこっちの印象が悪くなるじゃないですか？」
自分の膝をバンバン叩いて力説する私とは裏腹に彼はとてものんびり座っている
その余裕がまた私をイライラさせる要因だ

「それ、そっくりそのまま返しますよ。俺からした返事は「俺には勿体無いくらい素敵な方でした」、これだけです。」


「それ、断ってないじゃないですか！」

半分はただの八つ当たりだ
軽い気持ちで顔合わせした私も悪い
でも断れなかったのも事実だった
どうしようもないこの気持ちを目の前の知り合ったばかりの失礼な男にぶつけることしか出来ない

「じゃあ自分はちゃんと断ったんですか？断ってないですよね？」

その通りだった
口喧嘩でこの男に勝てる気がしない
グゥの音も出ない私は悔しくて下を向く


「聞いてます？みょうじなまえさん。」

不意に自分の名前が聞こえて顔を上げた


「な、なんで名前知ってるんですか…。」

確か、彼は初対面の時、名乗ろうとした私に"興味ないんで名乗らなくていい"と言った
今思い出しても腹が立つ

「さっきここの事務所に入る時に名乗ったでしょ。あと見合いの釣書にも書いてたと思いますよ、読んでませんけど」


「釣書？？？」


何の話をしてるんですか？？？