神座宝の章
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そういったおはなしでは説明頁の設置や特記事項がありますので、ご参考までにどうぞ。
当森メインの夢創作を楽しめますよう、先ずは是非、井宿さんにお名前を教えていって下さいませ
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「…井宿様っ…鬼宿様はそちらにお出でですかっ?」
如何なる時も、穏やかな時間とはやはりそう長く続くものではなく、華音は焦燥感を覚えて彼らが居るであろう部屋の扉を叩く。
開いた扉から顔を覗かせた井宿に口早に探し求める彼の所在を尋ねた。
「どうしたのだ、華音」
「鬼宿様はどちらにっ…」
「鬼宿ならば…――」
華音から部屋の窓辺の方へと移された井宿の視線を追いかけた先に、鬼宿の姿を見つけ、扉の前にて居住まいを正して一度だけ深呼吸をした。
そうしてから、窓の外へ視線を向け続ける鬼宿に静かに語りかける。
「鬼宿様…巫女様が御一人だけでこの屋敷を離れたようですが…行方をご存知ありませんか」
「美朱ならあそこの塔に行くってさっき言ってったな」
「…鬼、宿っ、お前、美朱だけで行くのを止めんかったんか!?」
華音と鬼宿の会話を聞いて彼の方へと歩み寄ろうとした翼宿の行動を、名を呼んで制した。
「翼宿様」
「…華音?」
「翼宿様、井宿様、軫宿様、張宿様。私の前方をお開け下さいませ」
鬼宿の姿を瞳に収めながら、自分の中に流れる気を体中に纏う。
身体が白い光に包み込まれるのを感じて、華音は鬼宿に向けて再び言葉を放つ。
「鬼宿様。私と勝負を致しましょう」
「……っ…?」
華音の言葉にか、それとも、華音が発する只ならぬ気を察したのか、漸く鬼宿が華音を振り返った。
「私が作り出す空間をお破りになさいませ、鬼宿様。それが出来ましたらあなた様の勝ちでございます。――尤も。私には井宿様の結界もあります故に、朱雀七星の御仲間である鬼宿様とて、そう簡単には打ち破れぬでしょうが」
「…当たり前、だろ…井宿の結界に加えて華音の力なんて破れるわけが…」
「巫女様への想いはその程度にございますか?御二方には“愛”があるのでございましょう?私と井宿様の間に“愛”はございません。ですが、愛がなくとも、“繋がる心”は在ると信じております。私と井宿様を繋ぐ“思い”に、巫女様と鬼宿様の“想い”は勝てませぬか?」
「…何が言いてぇんだ、華音…」
「論より証拠。あなた様の御力で、私に施された井宿様の結界と私の力をお破りなさい」
「上等じゃねぇか…其処まで言うならやってやろうじゃん!俺、今、気持ちが整理されてないから歯止めが利かなくてもしらねぇかんなッ」
窓辺を離れ、華音に近づいてくる鬼宿を見てか、翼宿からわっと声が上がった。
「華音、お前何がしたいんじゃっ!俺が華音を責めよった時でも黙って受け止めてくれたやないかっ。こないな事して何の意味があんねん!」
「…翼宿。華音は本気なのだ。オイラたちには今の彼女に近づく事さえも出来ない…」
「なっ!?――な、何やこれ…っ」
「身体が動かない…っ?」
「鬼宿様以外の七星士様方の存在は、私が作る空間の中にこの部屋ごと取り込ませて頂きました。御怪我をさせてしまうわけにはいきませんので、ご容赦下さい」
井宿たちの姿を視界の隅に収めつつも、華音は自分で作り出した空間の前で動かず、佇み続ける。
華音の空間と、駆り立てられる“想い”だけで自身の気を漲らせる鬼宿の身体とが衝突しあい、ビリビリと空気までもが揺れた。
自分へと懸命に向かってくる鬼宿。
そんな彼を見つめて、言葉を落とす。
「…私は…信じたいだけなのです。巫女様と鬼宿様の…何をも飛び越えていくその“愛”で、“奇跡”は起こせるのだと、私に信じさせて下さいませ」
「華音、まさかお前知って…」
「私の使命にも関わる事でございます。私も昴宿様に教えて頂きました。今までどれだけ理不尽に離されようとも、巫女様と鬼宿様はお互いへの想いを貫いてきたではありませんか」
華音の思いに応えるかの如く、鬼宿の手が華音の肩へと伸びる。
そして―――…。
とうとうその手は、朱色と白色の光を突き破り華音の元へと辿り着いた。
最後の力の反発か、華音と井宿、そして鬼宿の三つの力が華音の前で弾け飛び、全ての力の余波を受け止める事となった華音の身体は部屋の壁へと打ち付けられようとしていた。
だが、寸前のところで自分の身体は朱色の光に受け止められる。
「…ありがとうございます、井宿様…」
鬼宿の手が触れた肩の部分が熱い。
その部分を自身の手で押さえ込み、ずるりと力なく床に座り込む。
「“想い”だけで力は十分な程に宿るのだと…そう私に教えて下さったのは柳宿様でした」
「華音…」
「力に為る固く強い想いが在るのです。何を迷う事がございましょう?」
「美朱を迎えに行って来るのだ、鬼宿」
「…華音だって…翼宿や俺の気持ちを受け止めてくれるくらいなんだからよ…十分強いだろ…?…悪ぃ、華音の事は任せた」
差し伸べられる手の力を借りて華音が立ち上がるのを見届けて、鬼宿は部屋を後にする。
「…肩の怪我、見せてみろ」
「軫宿様の御力を頂く事は出来ません。…頭に浮かぶ巫女様の文字に…大きな影が…。私は大丈夫ですので、今は力を蓄えておいた方が賢明かと」
そう、鬼宿が巫女を迎えに行く事が“終わり”ではない。
華音には、この先で更なる混沌とした世界が大きく口を開いて自分たちを待ち構えているように思えてならない。
そんな華音の予感を裏付けるように、バタバタと騒々しい二つの足音が響き、開け放たれたままであった扉の前で止まる。
「まずいことになったぞ!」
「白虎廟で神座宝を護ってた仲間の婁宿が、連れて行かれたって話が…!!」
駆け込んできた白虎七星士の二人から語られた事の次第に、華音たちは顔を見合わせた。
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久々の長編更新です!
そして今回の一話分ですが少し長めだったので二分割した事もあり
二頁分でのupです
さて。
前半部分で美朱が主人公に言った“力がなくてもいい”という言葉
実はこの言葉…井宿さんもハッとさせられたんじゃないかな、と思います
背景を細かく描写出来ていないのでここで補足しちゃいますが…
井宿が主人公に向けた微笑みにはそういった意味合いも込められていたりします