【特別篇】—愛の物語—
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おはなし箱内全共通のお名前変換「夢語ノ森」では基本、おはなしの中で主人公の娘っこの性格や年齢を書き綴っていく形にしていますが、特別設定がある場合もございます。
そういったおはなしでは説明頁の設置や特記事項がありますので、ご参考までにどうぞ。
当森メインの夢創作を楽しめますよう、先ずは是非、井宿さんにお名前を教えていって下さいませ
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「…井宿ッ!!」
「華音、大丈夫か…?!」
皆が駆け寄ってこようとも。
皆が声を掛けてくれようとも。
華音は全ての感覚がマヒしてしまったかの如く動けない。
指輪と芳幸の姿を交互に見つめていた華音の顔がやがて、くしゃりと泣き顔に歪む。
「…簡単に身体の状態を診るから…少し離れられるか?」
「や、だ…っ、嫌…!」
「華音、落ち着きなさい。頭が混乱しているかもしれないが、お前の我が儘が通る場面じゃない」
思わず芳幸の身体に抱き縋ろうとしたところを、父に止められた。
肩に置かれた手が“さぁ”と言わんばかりに、少しだけ後方に引かれる。
父の手の力に促されて、指輪を拾ってから立ち上がる。
すると、力強く抱きしめられた。
「…お父…さ、ん…」
「大丈夫だ。芳幸くんはお前を一人置いて先にいったりはしない。信じよう」
「……う、ん」
「――脈に異常はないし、吐血した量もそう多くない。自分でつけていた傷も浅く済んでいる。…身体に負荷がかかり過ぎた、といったところだろう。数日休んで体力が完全に回復すれば大丈夫そうだ」
「…芳幸さんが…倒れたのは私のせい、ですよね…」
「誰のせいでもない――」
父の腕の中で漏らした問いには、素煇からすぐに答えが返ってきた。
「――って、芳幸さんなら言うと思います。というか、そう言いたかったんだと思います」
これはあくまで僕の憶測なんですけど、と、前置きをした上で、素煇が考えた事をぽつりぽつりと言葉にしていく。
――芳幸さんが自ら僕たちに頼ろうとしなかったのは…いえ、“頼ろうとしなかった”んじゃなくて、“信頼して任せてくれていた”んだと、今ならそう思うんです。芳幸さんが自ら”お願いしたい”と頼ってしまえば、万が一芳幸さんのフォローをしきれなかった時に誰かしらは自分を責めるでしょう。
そういう気持ちにさせたくなかったから…敢えて何も言わずに僕たちに判断を任せてくれたんじゃないでしょうか。そうすれば、自分の意思で動いたからあれで良かったんだ、と思えるし、何より、芳幸さんがちゃんと“生きて帰ってくれば”何も問題なくいられますから。
“もしもの時”の場合もなかったとはもちろん言い切れませんけど、芳幸さん自身も何処まで自分の力が出し切れて何処まで反映できるのか、不安な部分はあったかと…。ですから、多少の身体への負担は承知だったと思います。
たとえ、それで華音さんの心を芳幸さん自身が砕く事になったかもしれなくても、“戻って来る意志”は強かったんだと思いますよ。戻ってきさえすれば…華音さんも安心できるでしょう?
それに…と、華音に向けての言葉が紡がれる事が分かって、素煇の方へ顔を振り向かせる。
「華音さんに何処まで聞こえていたかは分かりませんけど。華音さんは芳幸さんが来てくれるのを“待ってる”だけじゃなくて、“俺の為に最後まで抗おうとしているのは俺には視えている。
それに俺は応える”“弱さを履き違えるな”って、相当怒っていました。“朱雀七星士井宿”は“気の流れを読み取る”事を得意としますから」
「……うん?…あれ?…ってことは、木をばーん!ってあれだけすっごくつよいちからでこわしても、のんちゃんちゃんはぜったいにたすかるって、わかってたってこと?井宿にいちゃんがけっかいでまもったんだとおもってた、ぼく」
「…いや、腹いせにわざとど派手に“木だけを”吹っ飛ばした可能性もあんじゃね?華音が絶対に助かるなら、怖いものなしだろうし」
「俺らより体力ないとか言うてたけど…十分バケモンやろ」
「だな。怒らせちゃいけない最強の術者だ」
苦笑交じりの会話が聞こえてくる一方で、華音はふと父に問い掛けてみる。
「…お父さんも見てたの?」
「あぁ。お前の事が心配だったからな。母さんも愛羅も気にしていたよ」
「…芳幸さん、かっこよかった?」
「そうだな。お前の事をどれだけ愛してくれているのか…よく分かった。お前だけじゃない。大切な人を皆、護りたいんだな、芳幸くんは。芳幸くんが今までどんな生を歩んできたのか…私は知らないが、相当な努力はしてきているだろう」
「そういう人なの。辛いところなんて滅多に見せないのに……あんなに苦しそうな顔して倒れるなんて、すごく辛かったんだと思うの。寿一さんが大丈夫って言ってるなら大丈夫だと思うけど…でも……」
「人には見せない部分をお前の前で見せてくれるなら、受け止めてあげればいい。苦しみや辛さを“誰かが知っていてくれる”だけでも、心は救われるものなんだよ」
「……うん。芳幸さんがもう一度指輪を嵌めてくれるの、待ってる…」
「…そうだな…」
「もう…いい?」
「うん?」
「芳幸さんのところに…行ってもいい?寿一さんも診てくれたし…もう邪魔にならないよね…?」
「…あぁ、行っておいで」
一目散に父の元から飛び出す娘の背中。
いつの間にあんなに大きく“女性”として成長していたのだろうと、芹沢家の主はひどく寂しい思いに駆られた。
**§**
「…華音の様子はどう?」
「一睡もせずにずっと傍についてる。先に彼女の身体が参ってしまわなければいいが…」
「そうね…」
寝室の扉の向こう側で交わされる花娟と寿一の言葉たちは、華音にも聞こえているようで聞こえていなかった。
あれから、父の車で芳幸を運んで、マンションへと無事に戻って来た。
父も含め、他の皆はそれぞれに帰ったが、寿一は残ると言ってくれて一緒に居る次第だ。
一晩明けた今朝などは、華音の事も心配してくれている花娟が様子を見に来てくれたらしい。
昨夜から一晩が明けるまでも長かったが、長いと感じる時間は、今この時もまだ一秒ずつ増え続けている。
華音はその間ずっと、芳幸の右手を自分の頬に宛がいながら握り込み、右手では時折、芳幸の頬を指先で撫でていた。
カーテンの隙間から毀れる、少しずつ強くなっていく朝の陽ざし。
それさえも刺激にならないのか、芳幸の瞳は閉ざされたまま―――…
――であるかのように見えた。
男性といえども長さがある睫毛が微かに震え、紅がかった瞳が露わになる。
「…す…まない…」
意識が覚めてからの彼の第一声は謝罪だった。
瞼が重く感じるのか、すっきりとは開ききっていない瞳が切なげに細められる。
「……君の…身体にも……負担をかけさせていて…」
「……っ」
ふるふると首を横に振った。
その動きで、芳幸の手が華音の頬から外れ、重く沈み込みそうになったので、慌てて自らもう一度芳幸の手を握り直した。
華音の手の下で、芳幸の親指も微かな動きを見せ、唇の傍を少しだけ撫でた。
「…もう…苦しくは…ないんですか?今は疲れてる…だけ?」
「……?」
華音の言葉には不思議そうに返される反応に、華音は思わず驚きに目を見開く。
あれは自分の勘違いだったというのだろうか。
それとも、あまりにも必死の最中で無意識に出ていた表情だったのか…?
「…え…倒れる前、あんなに辛そうにしてたのに…」
芳幸は思考を巡らせているようだった。
そしてかち合う記憶があったのか、僅かに口元が綻ぶ。
「……いいところでもあり…君の悪い癖が…俺にもうつったらしい…。それだけ…一緒に居る時間が増えている、からな…」
今度は華音の方が首を傾げる番だった。
「あの瞬間が…苦しそうに見えたなら…それは華音の“苦しみ”なのだよ」
「…わ、たし…?」
「…確かに身体的な苦しさも多少はあったが…あの時の俺は…そうだな、華音の事しか頭になかった。“気”の回復をする為に…このまま眠りについてしまえば……俺が目を覚ますまでの間…少なからず苦しい思いはするだろうな、とか…そんな事を考えていた」
「……!」
――苦しみや辛さを“誰かが知っていてくれる”だけでも、心は救われるものなんだよ――
父の言葉が頭に思い浮かんだ。
瞬間、華音の頬に次から次へと熱い雫が零れ落ちる。
芳幸が目を覚ますまでの時間を“苦しい”とは感じていなかった。
けれども、芳幸は、華音が苦しい思いを抱えるだろう事を懸念していたという。
苦しみはなかったはずなのに、何故こんなにも心の痞えが取れた気持ちになるのだろう。
「…俺がいつも…そうやって心が救われている事を…君は知らないだろう、な。愛してる、華音。…愛、して…る…」
すー…と、静かに言葉から寝息へと代わり、芳幸の手がシーツの波に沈み込む。
その傍らで、華音は泣き続けた。
芳幸が休む邪魔になるかもしれない、とか、寝室の外にも泣き声が聞こえてしまう、とか、そんな事に構うことなく、涙が流れるままに声を上げながら泣く。
様子がおかしいと、寝室の中へと入って来た寿一と花娟が、泣きじゃくる華音の姿を見て二人そろって困惑の表情を浮かべた。
「ちょっ、何でそんなに泣いてんの…っ、華音?」
「…ひっ、く…ぅ、ぇ……っ、この、人…ずるい、の」
「“この人”って…芳幸の事?」
まるで幼い子供が泣いて訴えるかのような華音の様子に戸惑いながらも、花娟は優しく声を掛けてくれた。
聞かれた事に頷いてから、涙と共に溢れて止まない“思い”を、芳幸の仲間の前で口にしていく。
「ま、だ…言いたいこといっぱい…あった、のに…っ、私の苦しみを引き出す、だけ引き出し…て…また眠っちゃ、った」
「…華音…」
「…っいつも、な…ら…慰めてくれる、のに……指輪を…嵌めてくれるのも…待ってた…のにっ、素煇くん…責任感じてるみたいだったから…謝った方がいいんじゃない?とか…何、で…今だけは何にも…聞いてくれない、の…っ」
「…そうね」
花娟の腕が華音の身体を優しく包み込む。
「ありがとう…と…私も大好き…って…伝えて、ない…っ」
「焦らなくても伝えられるから、大丈夫」
「や、だ…今がいい…!」
「…華音のめったにない我が儘なのにねぇ。後であたしも一緒に怒ってあげる」
「芳幸の事だから…案外、眠りながら聞いているかもしれないぞ」
言いたいことを言っているだけなのに…。
花娟も寿一も華音の気持ちに寄り添ってくれて。
悲しくても切なくても…嬉しくて、温かくて。
散々泣き腫らした後には、疲れて私は……
いつの間にか眠ってしまったらしい―――…
「まさかとは思うけど…。わざとこれだけ泣かせたんじゃないでしょうねぇ?」
「…休ませる為にか?」
「ありえるわよねぇ…っていうか、それしかないわ。もう、ほんっとーに!頼り方が芳幸も不器用なのよ!どこまで似たもの夫婦なんだか」
「とりあえず…華音を何処で休ませるか、だな」
「あたしが傍につきながらリビングの隣の部屋で休ませとくわ」
「分かった」
華音も芳幸も眠りに落ちる中、そんな二人の会話がなされていたのはここだけの話だ。
「…花娟」
「何?」
「……いや、何でもない…」
訝しむ花娟の顔が寿一の方を一度見やったものの、華音を運ぶ事を優先させてか、その身体を腕に抱き上げて花娟は寝室を出て行った。
パタン…と、扉が閉まる音を聞きながら、寿一は無言でしばらく芳幸の背中を見下ろしていたが、やがてぽつりと言葉を落とす。
「…起きているか?」
「………華音がずっと泣いている声を聞いて意識が醒めないわけがない」
「お前が泣かせたんだろ」
「…そうでもしなければ、華音はずっと俺の傍についている。俺のせいで憔悴させるわけにはいかない」
「なら、分かっているよな?何が最善か」
「……華音と離れろと言いたいのか…」
「“芳幸の身体を休める為だ”と、華音には俺から伝えよう」
「…伝えなくていい…」
「芳幸」
「…っ…分かっている…!自身の身体の事なのだからそれくらい…っ。それでも…離れたくないんだ…もう一時も……!!…っそれに…、また泣かせる…。“寂しい”と、心の内で我慢させて泣かせてしまうっ」
「それなら尚更だな。早く回復して寂しさを募らせないように迎えに行ってやればいい。そのためにも“互いの場所で互いに静養しろ”。これは“医者としての判断”だ」
「……っ!」
若干の力が入っていたように見えた芳幸の肩から、ふ…っと力が抜け落ちたように見えた。
芳幸はもう、それ以上は何も言わなかった。
**§**
寿一の宣言通り、翌日には華音は実家へと帰り、芳幸と華音の二人は早々に互いの休養の為に互いから離れての生活を余儀なくされた。
華音が何も言わず…そして芳幸に顔さえも見せずに実家に行った事にさえも、芳幸は特に言及しなかった。
…というよりも、寿一からの宣言が為されてからというもの、そもそも言葉を発する事自体がほとんどないに等しい。
「はい」
ひと眠りした後の芳幸へ、花娟が一杯の野菜スープを手渡した。
意気消沈している様子があるとはいえ、回復の為の食事を拒むほど投げやりになっているわけでもない。
そういう部分は、華音への想いもある故か、すんなりと素直に椀を受け取り、口をつける。
その瞬間、芳幸の顔に驚きの表情が広がっていく。
「これ、は…。君が作ったのだ?柳宿」
「そう、作ったのはあたしだけど、味付けの加減は華音の案を拝借したってところかしら。キッチンを借りていたら、偶然そういうメモ書きを見つけちゃった」
「………」
「ねぇ、井宿」
気兼ねなくいられる相手の前だからこそ、今は仕事間でなくとも関係なく、何よりも慣れ親しんだ呼び名で会話は為されゆく。
「あの娘〔こ〕は本当に井宿の事が大好きよねぇ?あんたの為のあの娘なりの細やかな気遣い、気づいてた?」
「……何の事なのだ…?」
「あんたはぁ、お人好しなくらいに優しい性格だし、加えて華音の手料理なら何でも喜んで口にするでしょうけど…。料理によって辛みの具合が絶妙に加減されていて、
しかもその辛みはあんたの好みにちゃんと合わせてるって気づいてる?…純和風な朝食が食卓に並ぶこと、今ではもうないんじゃない?」
「…っま、さか…っ」
「大好きなあんたの事だから、食した具合から読み取って華音なりに研究したんでしょ。ノートを見るだけであの娘の結婚当初の努力が
垣間見れるようだったわ…。あたしでも…たとえ星宿様の為だとしてもあそこまでは無理かもね」
「……ッ」
「華音からしたら知られたくない事かもしれないけど…つい、ね、あんたに言わずにはいられなかった」
――…すみません、芳幸さん…。香辛料を買い過ぎてしまったみたいで……今日からしばらくは少し辛めの味付けでも大丈夫ですか?――
――粉類は多めに買っておきましょう?粉もののお料理は、冷凍保存用にも作っておけますし――
言われて思い返してみれば、蘇る一時の会話の記憶。
それは全て芳幸の為に繋がっていたのかもしれないと考えると、何とも言えない気持ちになった。
ポタ……と、一粒の雫が芳幸の手元に降り落ちる。
一粒だけでは留まらず、次から次へと頬を滑り落ちていく熱い涙を隠すようにして、スープがまだ入っている椀を後ろ手にサイドテーブルに置き、
両立膝をしている上に在る掛け布団と顔との間に腕を挟んで突っ伏す。
「…華音…っ」
会いたい…会いたい、会いたい。
己の妻となってくれた彼女に。
いつから、誰かが傍にいてくれる事がこんなにも心地よくなっていたのだろう。
十八の歳の頃からしばらくは、独りでもいたというのに…。
「泣き止んだらーぁ、さっさとスープ飲んでまた寝なさいよーぉ?一日でも早く華音に会いに行かなくちゃなんだし」
「…あぁ…」
花娟の言葉にはただ素っ気なく短い返答をして―――…。
芳幸は、只管に華音への想いを募らせた。
**§**
――ピンポーン。
「はーい…!」
昨夜、携帯電話に連絡があった。
最後に記憶に残っている声色よりも、すっかり取り戻された覇気のある声色で“明日迎えに行く”と。
故に、このインターフォンは、彼が来た事を知らせるものだと確信できた。
数日ぶりに顔を合わせられる期待と緊張感を持って、華音は玄関の扉を開ける。
「…芳幸さんっ…」
予想通りの姿を目にするや否や、嬉しい気持ちが溢れて思わず抱き着いてしまった。
「待たせてすまなかったのだ、華音」
力強く抱き留めてくれる芳幸の腕の中で、ふるふると首を横に振る。
そもそも、芳幸は華音の事を護ってくれたに過ぎないのだ。
その為に身体を酷使して離れざるを得なくなったのだから、華音が不満を言えるはずもない。
「ゆっくり休めましたか?」
「お蔭様で。協力してくれてありがとうなのだ」
「…いえ。…あの…」
「うん?」
一旦身体を自ら離して、首元に着けていた細身のネックレスチェーンを外す。
身体の回復が叶った芳幸と顔を合わせたらとにかく、先ずは指輪を嵌めてもらおうと決めていた。
「これ…お願い出来ますか?」
チェーンを取り払った指輪を乗せた両掌を、おずおずと芳幸の方へ差し出すと、芳幸の手が丁重に指輪を持ち上げた。
ゆっくりと静かに、華音の左薬指へ納まる指輪。
それを見届けていた華音は、安堵の気持ちと共に口元を綻ばせる。
はにかむような笑顔ながらも、心底嬉しさが滲んでいるようでもある華音の笑顔を見た芳幸もまた、同じような微笑みを浮かべた。
「――まぁ、華音、駄目じゃない。ちゃんとこちらまでお通ししないと」
「…今から行こうとしてたところだったもん」
“夫婦の時間を邪魔された”とでも言いたげな不満な表情に瞬く間に成り代わった華音が、奥から出てきた母親の方を振り返るも、母親の方は人当たりの良い笑顔を浮かべているだけ。
「ご心配とご迷惑をおかけしました」
「いいえ。お父さんから話は聞いたわ。こちらこそ、華音の事を護って下さってありがとう。お茶の用意がもうすぐ整うから、華音の荷物の片づけを手伝って頂く前に、ひと休憩してちょうだい」
「ありがとうございます、お邪魔します」
芳幸の温もりが華音の頭を軽く撫で、やんわりと肩を押すように促されては、華音も動かないわけにはいかない。
芳幸が玄関先で靴を脱ぐのを待ってから、控えめに芳幸の腕へ自分の手を添え二人並んで歩き出す。
――やがて、足早に夕暮れ時が過ぎ去り、家の内で灯りが点る頃になると、芹沢家では五人で食卓を囲む団欒の時が始まった。
また一つ、私の前で“奇跡”が光り輝く。
くるくると廻って綺麗な模様を成す、万華鏡のように。
それは縁〔えにし〕と共に、私の心にずっと刻まれ続ける何よりも愛しい物語―――…
◇あとがき◇
私と私の息子、二人でポケモンの映画を観に行った事が、このお話を書くきっかけとなりました。
胸が熱くなる場面に差し掛かると、スクリーンに映る映像とは別に、海上から凄まじい煙の柱が噴き上がる様子がふと頭を過ったんです。
何とはなしに、“あぁ、井宿が戦ってるなぁ”って思いました。
何故でしょうか…今回に限らず、ポケモンの胸が熱くなるシーンって、困った事に管理人的には、井宿さんの戦闘シーンが思い浮かびます。
勿論、ポケモンはポケモンという作品で楽しんではいるのですが、“井宿も念でポケモンと話せそう”とか、どうにも思考がそっちにずれていくというか何というか…(苦笑)
クロスオーバー作品なんかも出来ちゃったりするのでは、とも時々考えますが、ポケモンの世界観を書くのはなかなか難しくも感じて、結局手が出せずじまいでいます。
話が脱線していきそうなので“ふし遊”の世界観に戻しますが…。
最近になって特に思うのは、井宿には“好き好き、大好きー!!”って飛び込んでいく子が実は合っているのかな、とも思ったり。
“人を愛する事”に臆病になっている井宿でもあるでしょうから、“絶対的に信頼できる気持ち”があれば、より安心感もあるのではないでしょうか。
となると、ですよ。
当サイトの中で、井宿の事が大好きで仕方なくて一番懐いている娘っこって“芹沢嬢”だと思うんです。
だからこそ、すごくいちゃらぶさせやすい二人(笑)
井宿目線からも、好いてくれている事は十分過ぎる程に伝わるので、どうしようもなく可愛くて仕方がなくて構ってしまう彼…永遠のループですね…。
さて、リメイク版としたこのお話は、映画から思いついたネタでもあったので、テーマ音楽なるものは今回はなしかなと思っていたのですが。
戦いを終えた後日の場面を書き進めている内に、KOKIAさんの「愛のメロディー」という曲がどんぴしゃだと気が付いた管理人。
芹沢嬢の心理描写を書いていたら、“あれ?こんな歌詞の歌なかったっけ…?”と、よく似た言葉を無意識に書き殴っていたわけです。
人の記憶力って恐ろしいですね…忘れる事柄もすごく多いのに……( = =) トオイメ目
そんな事もあり、お話のお供には是非お勧め致します♪(←すすめんで宜しい)
“朱雀探偵事務所へようこそ!”ネタが地味に多くもありますが、お付き合い頂きありがとうございますm(*_)m
2023年3月現在、Twitterの方でもサイトに関する事もぽつぽつと呟いておりますので、そちらでも引き続き宜しくお願い致します。
最後まで目を通して頂き、ありがとうございました!
―管理人*響夜月華音―