むっすー―――…。
無邪気、素直、お人好し、思い切った行動力…etc。
彼女の事は大抵、幼少の頃からの長年の付き合いで知り得ていると思う。
だが、今、自分の隣に居る彼女からは、“親友”という間柄である自分でなくとも、多大な不満が表情に出ているという事は誰でも見て取れるに違いない。
六人の男衆と一人の女性を前にし、幼馴染であり親友でもある彼女――夕城美朱は、一向にその不満顔を崩そうとしなかった。
そんな状況を見兼ねて、美朱の親友の本郷唯は、ついに口を開いた。
「美朱…彼らにだって事情があったんだろうし、いい加減に機嫌直しなさいよ」
「うー、だって!こんな近くに皆いたのに、それを知らなかったなんてなんか悔しいっ…!!」
「はいはい、あんたの気持ちはよく分かってるってば」
「唯ちゃん!これは普通の事じゃないんだよ!?すっっごく大事なんだよ?!」
「…まぁ、そだね…」
美朱の言い分も実際によく分かる。
唯とて、正直なところ、狐に抓まれたような気分にあるのだ。
唯自身でもそうであるのだから、美朱は唯以上に色々な感情を抱えているのだろう。
時間は少し遡ること、数時間前。
今日一日の高校での勉めを果たし、美朱と二人で校門を出た直後の事だった。
「み、美朱ーっ…!」
「ん?あれ?魏だ…なんか慌ててる…?」
「…うん、全力疾走してきた感じだね」
「どうしたんだろ…」
息を上げ、自分たちに向かって懸命に走り寄ってくる一人の青年。
“宿南魏”という名の美朱の彼氏だ。
「た、大変なんだよっ…ちょっと一緒に来いっ」
「ちょっ…魏!?待って…っうぇーん、唯ちゃーんっ」
必死に手を伸ばして助けを求められても困るわけだが、魏の慌てぶりからして何か相当な事があったのか…。
さすがに自分だけここで帰ってしまうというわけにもゆかず、手を引かれて走らざるを得ない美朱の後を追うように、唯もせかせかと足を動かす。
都内の街中を通り抜け、中心の通りから少し外れた街通り。
そこの一角に在る建物の前で漸く唯たちの足は止まった。
しかし、一息つく間もなく、美朱が何かに気づいたようだった。
あっと息を呑み、穴が開くのではないかと思われる程に一部分を凝視している。
「朱雀…探偵事務所って……朱、雀っ…?」
そこで少しだけ、魏の伝えたい“何か”が見え始めた気がした。
「問題はこんだけじゃ終わんねぇ…!ほら、入るぞっ」
再び足を動かし始め、何だか重厚感漂う木製の看板が掲げられた建物の入り口を潜った先には―――…。
「…お、たま~、忙しいやっちゃなぁー。慌てて出て行きよった思うたら、また戻ってきたんかぁ?」
建物内に所狭しと並べられ…そして積み上げられているダンボールの箱の隙間から、派手な髪色がひょっこり覗いた。
「呑気に会話振ってくんなっ…!状況を説明しろよ、翼宿!何でお前が此処にいるんだよ!!」
「…た…す、き…?」
「たまちゃんったらいけずぅ~。そないに邪険にせんでも仲間なんやから仲良くしよやぁ~」
「翼宿、口を動かしてもいいのだが手もちゃんと動かすのだ」
「え、…ちちり…?」
「そうだ。新たな土地で新たに事を始めるのは容易い事ではない。まだまだやらねばならない事は山ほどあるのだからな」
「…ほとほり…?」
「なるべく短時間でここを整えなければなりません」
「ちり、こっ?」
「もうっ!れっきとした乙女がこんなに重いものばっか運んで…手が痛いわ~」
「ぬりこ!」
「…いや、お前が一番元気に多くの荷物運んでるぞ…」
「みつかけ!」
「あぁ、美朱。すまぬな、ごたごたしていて。美朱の友人であったか…そなたもようこそ――」
「「「「「「我らが探偵事務所へ」」」」」」
「…ってゆーても、この通り仕事開始にはまだまだやけどなぁ~、はっはっはー」
「……っっ…」
自然な流れ…なのだろうか。
ポンポンとリズミカルに飛んでくる声に―――そして、次々と現れる姿たちに、一人一人の名を呼んでいた美朱だったが、急に言葉を失ってしまった。
それも仕方のない事だと思う。
唯は、目の前に広がる光景に先程から何も声を発せられなかった。
ただただ驚く事だけしか出来なかった。
だが同時に…。
羨ましいという気持ちも込み上げてくる。
「…唯ちゃん…?」
「……っあ…っ」
心苦しくて悲しくて居たたまれなくて…。
抱えきれない複雑な感情が次々と胸の内から溢れ出すのを現すように、唯の目の前がじわりと滲み出したかと思えば瞳からは涙が止めどなく零れ出す。
「……ごめっ…ごめん、美朱っ…。嬉しい事なのに、ね……ごめん……ごめんなさ、い…っ」
必死に手の甲で涙を拭えども、拭い切れずに零れ続ける涙。
「…ううん、あたしの方こそ…その…ごめん…ね…」
あぁ、まただ。
喜びの中で笑顔になるべくはずの親友は…唯の気持ちを汲み取って自分と同じく謝罪の言葉を紡ぐ。
これでは、“あの本の中”で互いに戦いの場に身を置いた時とまるで一緒ではないか。
美朱からたくさんのものを奪ってしまった、嫉妬の心…それはこんなにも深い闇であるのか、と、改めて自分の気持ちに打ちのめされる思いだった。
でもあの時の自分と今の自分は何かしらが違うはず。
だって、物語を終えてこの世界に舞い戻ってきて、“気づいた事”が一つでもあるのだから―――…。
すぅ、はぁ…。
深呼吸を大きく、二つ三つと繰り返してから、今度こそ己の手の甲で零れていた涙を全て拭い切り、勢いに任せて頭を下げる。
「ごめんなさいっ!」
部屋中に響き渡らせる声量で、美朱にではなく、目の前に存在している者たちへの謝罪を口にする。
「あたしが自分の気持ちを見失っていたばかりに…美朱の事を妬むばっかりで美朱と向き合うこともしないで自分の思いのままに突っ走って…。あたしは謝っても謝り切れないくらいに取り返しのつかない事をしてしまったっ。本当にごめんなさいっ」
「唯、ちがうよっ、あたしだって唯の気持ちに気づかなかったから…自分の事ばっかりで…だからっ!」
「羨ましいのだ、君たちの事が」
不意に、割り込んできたその声音は、優しくありながらも何処か強張ってもいた。
故に、唯は謝罪とともに下げた頭をついと上げて声の主の方を見る。
「オイラはもう、互いにぶつかり合う事も出来なければ、謝る事も出来ない。オイラも自分で何もかもを奪い、取り返しのつかない事を…それだけの事をしたのだ。
誰よりも大切に思っていたはずだったのに…失ってからやっと気付いた、いや、否が応でも気付かされた。…尤も…それではもう遅いのだが…」
だから君たちの事が羨ましいのだ、と、最初にかけられた言葉を再び繰り返す彼は、悲しみを含ませた微笑を浮かべていた。
「…井宿……――って…あれ…?…ん?あ!目のき……っむ、むぐぅ?!」
「美朱っ…、あんたそうやって素直に思った事を口に出すのやめなさいってば…っ」
感傷に浸れない。
いや、浸りたいというわけでもないのだが、親友の為す事がついと目につき、馬鹿正直とも言えるだろう…その素直過ぎる彼女の口元を咄嗟に自分の掌で覆う。
まあ、その純粋無垢な性格に救われる事も多々あるという事は、唯自身、身をもって知っているわけでもあるのだが…。
今、美朱が無意識にふれようとする話題は、どちらかと言えばなるべく踏み込んでいく事を躊躇するべき事柄だろうと考えての判断だった。
そんな自分たちのやり取りが行われる事の意図は見透かされているかの如く、彼はほんの少し口元を綻ばせ気味に言う。
「美朱ちゃんなら遅かれ早かれそうくるだろうと思ったのだ。…とはいえ…自分でもまだ慣れなくて説明しようにもし難い、というのが本心なのだ。だが…そろそろオイラの中でも消化しなければならない頃合いかもしれないのだ」
「………。…辛気臭い話の中で悪いんだけど?あたしの事も突っ込んでくれないわけ??」
「…へ?柳宿も?って…ああああぁぁ!!!!本当だ!ねぇ、ちゃんと胸があるよ!?どうしちゃったの?!」
…これもまた親友のお得意技といったところか。
唯の手元から俊敏な動きで逃れ、向かった先は声をあげた主の元。
何処か感慨深げにその人の胸元へと手を伸ばしている。
そのような馴れ合いに、美朱には嬉々とした空気も取り巻いているように感じられ、仕方ない…という意味合いも込めた溜め息を一つ、唇から落とす。
「…お前の気持ちもさ…みんなそれぞれ理解してくれてっからよ、あんまし悩むな」
コツ…と、拳でやんわりと頭を小突いてきた魏が、唯の傍らに立って話しかけてくる。
――羨ましい。
でも温かい。
自分もここに居てその空気を感じていいんだ、と、許されたような気持ちになり笑みが零れた。
「…うん。ありがと、鬼宿」
感謝の気持ちを伝えながら、そっと左耳に在る耳飾りに触れる。
――唯様――
己の欲望を満たす為とはいえ、低音の響きでそう呼び、常に傍で慕う姿勢を見せてくれていた彼の声が、唯の胸の内で蘇った。
そして、しばらくしたこの後に美朱の機嫌が下がっていき冒頭に繋がっていく、といった具合がこの日の流れだったのは言うまでもない。
**§**
“朱雀探偵事務所”。
その名を掲げ、都内の一角で始めた彼らの事業も一先ず軌道にのり、客足も順調に入り始めた頃。
“あたしも手伝う!”と、意気揚々と事務所での雑用をしに行く美朱に便乗させてもらい、唯も積極的に、美朱と一緒に彼らの事業に携わる事をしていた。
そんな中、新たな一つの風が吹いた。
「…すみません、お願いしたい事があるのですが」
客人が出入りするにはすっかり馴染みの出来たガラス戸を潜り、顎のラインまである緩やかなウェーブがかった濃い茶色の髪を揺らして、
物腰優美なスーツ姿の一人の女性が受付前に立った。
受付担当の柳宿が事務的な言葉をかけて、応接席へとその人を誘う。
事務所の建物の面積そのものはとてつもなく広い造りでもない故に、応接席で交わされるやり取りは、事務所内に居れば誰でも把握することが叶う具合だ。
「…唯ちゃん唯ちゃん…っ。すっごく綺麗なひとだねっ。どういう事に困ってるんだろう?」
「美朱。面談の邪魔にならないようにしてなさいよ?」
「分かってるもん~」
どうにも突拍子もない事をするのではないか、と、内心はらはらしてしまう心配が拭い切れない。
それを知ってか知らずか、美朱はまた拗ねたような様子を見せながらも、面談の様子を気にしているようだった。
「…私、こういう者です」
「ご丁寧にありがとうございます。名刺を拝見させて頂き――っ芹沢グループ代表取締役補佐…っ?…芹沢グループって、食事業界や衣服のブランド業界、様々な業界を手掛けて事業を成し遂げている大手会社っ?」
「………その芹沢グループ社長の娘、芹沢愛羅と申します。……新しい事業様という事であまり情報は少ない所かと失礼ながらに思っていたのですが…。やはりうちの会社は何処でも名が通っておりますのね。
…こちらの見当違いで勝手に訪問させて頂いて申し訳ありませんが、他をあたってみます。失礼いたしました」
「っごほん。申し訳ございません、個人的に興味を持っていた会社でしたので、少々取り乱してしまいましたわ。たぶん…私以外はあまり、というかほぼ全く詳しくないかと思いますので、宜しければお話を聞かせて頂けません?」
空気がピリリと張り詰め、客人の事務所の様子を窺うかのような視線が突き刺さる。
立ち退こうと浮かしかけていた客人の腰が、再び応接室のソファー上に沈んだ。
同時に、今までの空気を一掃するほどの上品な笑顔を、女性はその端正な顔に浮かべる。
「こちらの失礼にお付き合い下さり、ありがとうございます。望みが少し持てたような気がします」
鞄から手早く取り出したものをテーブルに置く仕草を見せる女性。
柳宿がそれを手に取って眺めている様子から見ると、どうやら写真のようだった。
「…これは家族写真?」
「えぇ、両親と私、そして妹の
華音です」
更にもう一枚、芹沢愛羅というらしい彼女が続けて柳宿に手渡した。
「あら?妹さん、随分と表情が違うこと」
「そうですね。お願いしたい事というのはここに関係してくるんです。一枚目に見て頂いた写真では、私たち家族の中でも無表情…ですが、二枚目では大分表情が和らいだ雰囲気がありますでしょう?
私は、妹に二枚目のような雰囲気を持っていて欲しいと願っていて…。
今では家族間でなら何も問題はないのですが、妹は幼い頃から身体が弱いという事もあって、外に出てしまえば、大げさに聞こえるかもしれないですけれど、多くの事が未知の世界に等しい事でしょう。
なので、妹にとって一つでも成長出来る機会が欲しいんです。こちらの方〔ほう〕で…消極的な妹に付き合い、根気強く家の外での事を学ばせてくれるような方〔かた〕を紹介して頂けないでしょうか…」
切実とも言える真剣な言葉。
そう感じたのは唯だけではなかったようで、事の成り行きを見守っていた美朱も、事務所内のメンバーに遠慮がちに視線を送っていた。
「うちでは確かに個性的な面々が揃っているとは思いますけども…。誰が適任かというのは、簡単に決めてしまえるものでもなさそうですわね。…芹沢様の方でメンバーの一人一人と対談でもして頂いた上で考えてみますか?」
「必要ない」
思考を巡らせながら、客人の話に応える柳宿に、客人の愛羅ではなく、事務所の事業を纏め仕切っている星宿が簡潔に答えた。
彼は事務所に置かれる自身のデスクから移動し、柳宿と愛羅が座る応接席の方へ歩んでいく。
「事務所の所長を担っている、星野だ。こういう案はどうであろう?妹君である芹沢
華音にこの事務所で働いてもらう、というのは」
「まぁ、さすが星宿様ですわ!それも一つの方法としてありますわね!」
「…あ、あの…ですが、妹の
華音は、お話ししましたように体調を崩しやすい傾向にあるので、そのような形では多大なご迷惑がかかるかと……」
「身体的〔しんたいてき〕にも精神的にも負担がかかりやすいのであれば、尚のこと皆で関わる方が良いのではないか?幸い、此処には美朱や唯、妹君と同年代の彼女らも居れば、妹君から見て上の年代も下の年代も居る。
多方面からのサポートが可能である事は間違いない。それに、多くの事を学ばせる、というそちらの主要条件には十分に適っている形であろう」
最早、提案の一つというより、それ以上の得策はないだろうと言わんばかりの星宿の言い切り方に、愛羅がはっと息を呑み星宿から視線を逸らせないでいるようだった。
後は愛羅が星宿の案を受け入れるか否か…答えを待つだけとなっている事務所側は誰も言葉を発さず、しばし沈黙の時間が続く。
「…私も、やはり父の娘ですね…。仕事柄、理に適った…いえ、それ以上の理想案を掲げられてしまっては、必ずや成功の道に繋げていくべく胸を躍らせる…。大切な家族の事を想えば尚の事、私の期待は既に大きいものとなりつつありますが、それでもそうと言って下さいますか?」
苦笑と共に吐き出された愛羅の言葉は、全くもって星宿の考えを左右させる要素にはなり得なかったようだ。
「むろん、二言はない。姉君のそなたの期待にどう応えるか、は、こちらの事務所ではなく妹君次第、という事は理解ある上であろう?それならば、こちらは場を整え、妹君を最善の形で迎え入れるだけの事」
「…えぇ、えぇ。所長、星野様の仰る通りです。是非とも、こちらで妹の事を宜しくお願い致します」
「では依頼成立だ。花娟、そのまま書類上の手続きを進めておいてくれるか?」
「はい、承知致しました。芹沢愛羅様、依頼者としての手続きに移ります。手始めに、依頼遂行の為、本事務所との契約内容及び、注意事項に目を通して頂き、了承のサインをフルネームでお願いします」
「ああ、その前に一つ。先の写真を借りても良いだろうか?メンバーにも早々に情報共有させて貰いたいのでな」
柳宿――この世界で名乗っていく名では一柳花娟――が、応接席の机の下の棚から取り出した書類の一つに、進められる流れに沿おうと手を伸ばしかけた愛羅が、先ずは星宿――星野賁絽の要望に応えてから、改めて書類と向き合った様子だった。
写真を手にし、皆のデスクが並ぶスペースへと戻ってきた賁絽の元へ、美朱も興味津々に寄っていった。
唯も無関係ではいられない。
先程の賁絽が提案した内容からそう考えて、美朱に倣い、皆の元へ静かに足を運ぶ。
賁絽から魏、翼宿――侯野翼、張宿――張間素煇へ…そして、唯と美朱へ…更に、軫宿――軫寿一、井宿――沢井芳幸へ、と、順に写真が回り、
最後の二人が写真を手にした瞬間。
まるで示し合わせるかのように彼らの表情が明らかに曇った。
「井宿?軫宿?」
「……美朱ちゃん、唯ちゃんと同年齢の娘…。昔の写真は中学頃の時か…。そのくらいの年の娘がこんな表情をするものなのだ?まるで…」
「…昔のお前みたいだな。あの時のお前と同じ目をしている」
「…そう、思うか…?ならば、この娘から感じ取れるものは…」
「絶望、といったところか」
「家族写真、なのに?」
「家族写真だからこその変化かもしれませんね?」
「あ、二枚目の?」
こくり。
小さく頷く素煇の傍らで、美朱が首を傾げる。
「わだかまりが取れた、といった感じでしょうか」
「わだかまり…そっかー……そっ、か…」
それまで写真を見つめていた美朱の視線が不意に唯に向けられ、じっとそのまま見つめられた。
「な、なに?」
「んーん、なんでもなーい!…えへへっ、唯ちゃん、だーいすきっ!!」
がばっと、これも唐突に美朱は唯の首元に抱きついてくる。
心なしか頬ずりもされているような…。
「…大好きだよ、唯ちゃん。戻ってきてくれてありがとう」
珍しくも真剣な声音で紡がれた言葉に、はっとした。
「…美朱…」
この親友は…写真の彼女の表情に“私”を重ねたのだ、おそらく。
美朱の気持ちが伝わってしまったからには、もう彼女の素直さからくる愛情表現なるものを冗談でも突っぱねる事が出来ないではないか…。
だから…。
「もう、しょうがないなぁ…今日だけだぞっ」
美朱みたいには素直になりきれないから、言葉だけでも反抗をしながら。
親友の頭を撫でて、無邪気に抱きついてきてくれるその身体をそっと抱きしめ返した。
**§**
――美朱の親友の本郷唯です――
芹沢愛羅の依頼が決まった日と同週の事務所内にて、写真で見た芹沢
華音を目の前にし、皆に倣って唯もそう自己紹介をした。
後からその場に合流した寿一と芳幸…そう、どちらかといえば芳幸の姿を目に留めてから、芹沢
華音の表情が…雰囲気が和らいだものへと変化した瞬間が今でも忘れられない。
そうやって私は、同い年という事と人間関係の環境上において、彼女の表情の移り変わりを目にしていく事になるんだ。
彼女に、美朱と仲たがいをした時の事を話ながら…重ねながら。
そして何よりも…。
――芳幸さん――
――
華音――
美朱と鬼宿――宿南魏が恋に落ちたように。
彼女と彼もまた、一緒に歩んでいく人を見つけたから―――…。
願わくばどうか…。
みんなの幸せが末永く続いていきますように。
**§****§****§**
立ち位置的に、
唯ちゃんと井宿。
人間関係における成長過程でいえば、
唯ちゃんと芹沢嬢。
何処か重なるところが
あるように感じる管理人です。
飽き足らず今回のお話を執筆していて
唯ちゃん視点って結構書きやすい!
という事に気が付きました←