事件編【File1~10】

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「夢語ノ森」では基本、おはなしの中で主人公の娘っこの性格や年齢を書き綴っていく形にしていますが、特別設定がある場合もございます。
そういったおはなしでは説明頁の設置や特記事項がありますので、ご参考までにどうぞ。

当森メインの夢創作を楽しめますよう、先ずは是非、井宿さんにお名前を教えていって下さいませ
君の名前は?





あれはとても不思議な縁だった、と。


誰もが口を揃えて言う出来事が存在する。


偶然が重なり合い、色鮮やかに繋がった一つの糸。


それは―――…






**§**




銀杏並木に鮮やかに黄色の葉が色づく、そんな季節のある日の事だった。


朱雀探偵事務所の入り口を入ってきた一人の女性に、芳幸たちは誰からともなく動きを止めた。

彼女に視線が惹きつけられる。

まるで、それは時の錯覚を思わせるようだった。



「…えっと…あの…?入ってきてはいけませんでしたか…?」

「…いえ、ごめんなさいね。私たちが知る子にとても良く似ていたから、びっくりしてしまって…。どうぞ?」



一度頭を下げた後、花娟の後ろを歩く女性。

その女性が歩く度に、漆黒の真っ直ぐな髪がふわりと揺れる。

しとやかで柔らかな物腰。

顔立ちもそっくりという程ではないが、何処となく似ているといえば似ているかもしれない。

強いて違う事と言えば、年頃くらいか。

高校生である彼女が成長すれば、今、此処に居る女性のイメージとぴったり重なりそうだ。

それ程にも女性の纏う雰囲気が、芳幸たちが知る彼女と本当に良く似ていた。



「何か御困り事でも?」

「人を…探して貰いたいんです」



応接用の席に通された女性から紡がれる話に、自然と耳は傾いた。



「もう七年前になります。私の結婚が決まった当時、私の祖父だけがその結婚に反対していました。今では主人となりました彼は、私よりも十以上も歳が上ですし、芸術家を目指していましたから、
厳格な祖父からは成功するかも分からない仕事をしている彼を信用する事が出来なかったんだと思います。私も仕事を続けて彼を支えていく覚悟もある事を伝えましたが、そんな苦労をさせるような男はやめろと、
認めて貰う事は叶いませんでした。祖父とはそれきり、和解する事も出来ないまま今まできてしまったんですが…。ここ一ヶ月の間に祖母を亡くしてから、
四十九日も明けない前に、私の両親と住んでいた祖父が、突然家を出て行ってしまって…」

「そのお祖父様を探して欲しいと」

「はい。祖父には心臓に持病があるのでそれも心配しているんです。ですが、まだ祖母の事も完全には落ち着いていないし、私たちで探すのにもどうしても限度があるので、どうか手を貸して頂けないでしょうか」

「分かりました、お引き受けします」

「ありがとうございます」



急を要するという事もあって、即座に決まった依頼。

だが、これはまだほんの一つの糸に過ぎなかったのだ。


一つ二つ…と、数本の糸が織り交ざり、確かな一つの物語として繋がっていく―――…。






**§**




学校から自宅までを繋ぐ道の途中には、小さな公園が一つ在る。

いつもの光景の中に、違う光景が混ざっていて、ふと視線を惹かれた。

ハッとして、華音は駆け足で公園内へと進んでいく。



「…大丈夫ですかっ?」



木製のベンチの上で身体を折り、胸元を抑えて苦しそうにしている老人に声を掛ける。



「…持病の…発作だよ…薬を飲めば治る…」

「薬は…っ」

「ポーチの中だ…」



腰元にそれがある事に気がつき、一言断りを入れてから中のものを取り出す。

本人に薬の確認をしてから、薬を老人の口元まで運んだ。

背中を擦りながら様子を見ていると、胸元を抑えていた手はゆっくりと降ろされ、表情も穏やかになっていく様子が窺えて、ほっと胸を撫で下ろす。



「ありがとう、お嬢ちゃ…――!」



老人の顔が上げられ、視線が交わると同時に老人は驚いた表情を浮かべた。



「桜子…」

「……?」

「桜子じゃないかっ。その姿で私の所に戻ってきたのか…!」



馴染みのない名前が紡がれ、腕の中に身体を囲われる。

それでも、嬉しそうにその名を呼ぶ老人を拒む事は出来なくて、為すがままに身を任せていた。




それから――老人との出会いがあってから二日間、放課後に公園へ通う日が続いた。

老人と過ごす時間は日が暮れるまでのほんの数時間だったが、とても楽しいものだった。



「桜子、学校は楽しいか?」

「えぇ、とても」



きっと老人も分かっているに違いない。

これは一時の真似事に過ぎないという事を。



「お祖父様は?今日の身体の調子はどう?」

「不思議な事に、桜子と会ってからは調子が良いんだ」

「ふふっ、良かった」

「桜子」

「…はい?」

「ありがとう、本当に。お前に会えて私は嬉しい」



桜子と華音

どちらに向けられた言葉だったのか…。

もしかしたら、二人に向けられたものだったのかもしれない。



「私も、お祖父様に会えてとても嬉しい」



手に触れてくる温もりを、そっと握り返す。

老人の手に皺は刻まれていても、華音よりもずっと大きくて温かかった。


運命の悪戯か。

それとも、縁を繋げる為の必然か。


老人と出会って間もない三日目に…糸は確実に手繰り寄せられ始める。






**§**




――トゥルルルル―――…――


依頼遂行の為に、デスクの空席が半分以上ある中で事務所の電話が鳴った。



「――朱雀探偵……華音?」



電話を取った賁絽の言葉が最後まで紡がれる前に、その名が上げられる。

綺麗に整った眉が瞬時に顰められた事に気がつき、事務所の残り組みとなっていた芳幸と寿一も視線をそちらに向けた。



「寿一はいるが……すぐに変わる。――軫宿、華音がお前に変わって欲しいと。相当緊迫した様子のようだ…」



賁絽から手早く受話器を受け取った寿一が口を開く。



「俺だ。…華音、今何処に居るんだ。人手が必要なら俺と井宿で――意識がないのか…それはまずいな。心臓マッサージだけでも出来るか?指示するから、携帯のスピーカー機能オンにして処置を施してみろ」

「…取り乱している様子はなかった。落ち着いていたとは思う。ただ、必死に何かをせねば、というような気迫は伝わってきた」



電話口で受け応えをする寿一から離れ、賁絽は芳幸の傍らに立ち、電話先での彼女の様子を話してくれた。



華音も何かとトラブルに巻き込まれやすいのだ…自然と人を惹き込むオーラを持っているのかもしれませんのだ」

「そうかもしれないな。両親の教養と生まれ持った素質と…やはり令嬢としてのオーラは容易に隠しきれるものではないのであろう」



賁絽が言うと、妙に納得出来てしまう。



「――…意識が戻ったか。良くやった、華音。後は呼びかけながら救急車を待っていればいい。…あぁ、井宿に伝えておく」



安堵のため息が寿一の口から漏れた後、程なくして電話は切られた。

寿一が芳幸と賁絽の方に向き直る。



「井宿。華音が明日、事情を説明しに来る、と。早くても夕方になるそうだ。後…頼みたい事もある、とも言ってたな。…それにしても…」

「…軫宿?」



最後の方の言葉は小さく紡がれて、何かを考え込むように口が噤まれてしまった。

首を傾げる芳幸に、寿一は少し間を置いてから首を横に振る。



「……いや…何でもない…」



この時、きっと寿一の中では、少しだけ真相が見えかけていたのかもしれない。

その答えを、翌日に事務所を訪れた華音が運んできたのだった。






**§**




日も暮れかけた頃に華音が朱雀探偵事務所へ足を運んだ時、花娟が接客をしている事に気付き、静かに芳幸たちの方へと足を進めた。



「お客様がいらっしゃっているんですね。お話は後の方が良いでしょうか」

「静かに話をする分には構わないのだ」



芳幸からのその言葉に、まずは芳幸の向かいにデスクを置く寿一へと礼の言葉を述べる。



「寿一さん、昨日はありがとうございました。お蔭で大事に至らずに済みました」

「実際に頑張ったのは華音だ。落ち着いてよく行動できたな」

「…いえ…。状況は違ったけど、私も普段、芳幸さんや寿一さんに身体の事を気にかけて貰っている事は凄く有難い事なんだって実感しました」



今度は芳幸の方へ身体を向けて口を開く。



「芳幸さん…お願いがあります。人を…探して貰えませんか?」



息を呑んで芳幸の動きが止まった。

それでいて、華音を見つめる視線が一切外される事はない。

やはり正式な依頼でなければ迷惑事にしかならないか…不安を抱いて、口早に言葉を紡いでいく。



「ごめんなさい…やっぱり依頼じゃないのに、こんな事――」

「違うのだ…。本当に似ていて……それで誰を探すのだ?」



言葉に引っかかりを感じたものの、問われた事に答えを返そうとした。



「名前は――」

「…というわけで…。ごめんなさいね、桜子さん。まだ見つからないのよ…もう少し御時間頂けるかしら?」



芳幸に口を開きかけて、聞こえてきた内容にハッとする。

まさに今、自分が紡ごうとした名が聞こえてこなかっただろうか…?



「…桜子?お客様、桜子さんっていうの?もしかして…谷本桜子さん?」

「どうして華音が彼女の名を…」

「――華音、お前が昨日一緒に居た人はまさか…」



華音も芳幸も…そして話を聞いていた寿一までもが、お互いの内容を確認し合うように疑問を抱いたその時。


――プルルルル♪


通学鞄の中で携帯電話の着信音が鳴った。

華音は手早く携帯を手に取り、芳幸たちから僅かに距離を取ってから背を向ける。



「はい」

『…もしもし、大学病院ですが、谷本さんの携帯でいらっしゃいますか?』

「…はい、そうです」

『谷本さんの容態が急変しました。すぐに来て下さい』

「分かりました。今から行きます」



相手との電話を手短く終えて、華音は再び芳幸たちに向き直り、頭を下げる。



「すみません、説明は後で必ずしますっ」



足先の方向を変えて、事務所内を小走りで移動し、花娟と向き合うその人の腕に手を触れる。



「…お話中に失礼します。私、芹沢華音と言います。谷本桜子さんですよね?」

「…え?あ、はい。――っあ、あなた…」



視線が合うと、先ほどの芳幸と同様に、彼女ははっと息を呑んで一瞬だけ動きを止めた。



「お願いします。今から私と一緒に大学病院まで来て下さい。お祖父様の具合が思わしくありません」

「……っ!」



彼女が弾かれたように立ち上がる。

だが、何かに躊躇するように、そこから動こうとはせずに立ち止まったままであった。



「私が変わりになる事はいくらでも出来ます。でも、それで本当に良いのでしょうか…?私は、あの方の心を救えるのは桜子さんだけだと思っています。今のあなたが、お祖父様を助けてあげて下さい」

「…っ行きます」



華音よりも少しばかり背丈がある彼女の顔を下から見上げ、言葉を紡ぐ華音に彼女は頷いてくれた。



「ありがとうございます」

華音、オイラと張宿も行くのだ」



彼女と会話を交わしている僅かな時間で話が纏まったのか、芳幸と素煇が支度を整えて後方で待機していた。

花娟にも視線を向けると、瞳で“行ってらっしゃいな”とそう告げられているような気がした。



「桜子さん」



華音が彼女の背に手を添えると、彼女は歩き出す。

次第に、その足は華音、芳幸、素煇と共に自然と早まっていった。


目的の病室の目前まで辿り着いた華音たちを迎えたのは、昨日、老人が大学病院に搬送された際に一緒についていた華音の事を気にかけてくれていた、一人の看護師だった。



「谷本さん…!」



そう言って看護師が駆け寄ったのは、当然ながら華音の元。

華音は、先頭を歩いていたその場から身を引く。



「ごめんなさい。私の本当の名前は谷本ではありません。お孫さんである谷本桜子さんはこちらの方です」

「…えっ?あ、えっと……と、とりあえず、中へ…っ…」



こういう反応ばかりだ。

忙しなく華音と彼女へ交互に視線を彷徨わせていた看護師だったが、すぐに緊急を要する場である事に我に返ったようで、華音たちを病室の中へ誘う。



「お祖父様っ…!」



彼女が老人の元に駆け寄る中で、華音たちは医師や看護師らの後方…どちらかといえば、部屋の入り口に近い場所で事の成り行きを見守った。



「…桜…子…?…本当に…桜子…なのか…?」

「ええ、そうよ、お祖父様。桜子です。…ごめんなさい、お祖父様…私、ずっとお祖父様と向き合うのが恐くて…逃げてばかりで…」

「お前は…何も悪くない…。彼と…上手くいかなければ…すぐ帰ってくるだろうと思っていた…。だが…お前は…帰ってこなかった…。もう分かっていたはずだった…それでも…お前があの家から離れていくのを…認めたくなかったんだよ…すまなかった」

「お祖父様…」

「…文乃〔ふみの〕が…引き合わせてくれたのかもしれんな…」



老人の表情が苦しげに歪むのが、遠目からでも見て取れた。

一段と医師と看護師の動きが慌しくなる。

華音は祈る思いで、指先が白くなる程に掌を握り合わせる。


看護師によって口元に酸素マスクが取り付けられ、薬の投与も行われている様子だった。

数十分程緊迫した状態が続いていたが、やがて医師から落ち着いた口調で言葉が紡がれる。



「とりあえず容態は落ち着きましたが…。次に大きな発作が起きた時には…覚悟なされた方が良いかと」

「…ありがとうございました…」



緊迫の状態からは切り抜けられた…その事にほっと安堵する。



華音っ」

「ごめ…なさ……気が抜けて…」



力が入らなくなった身体を芳幸に支えられる。



「無理もないですよ。昨日の事もありますし。…少し休まれた方が良いでしょう。私たちが仮眠室として使っている部屋があるので、案内します」

「…僕は桜子さんと少しお話しをしたい事がありますので、後から行きますね」

「すまないのだが、頼むのだ、張宿」

「はい。華音さん、行ってらっしゃい」



芳幸と会話を交わした後で、小さく華音に手を振る素煇へ、芳幸に抱き上げられる中で頷いた。






**§**




小振りでシンプルな造りのベットが設えられた部屋に通され、帰る時にナースステーションへ一言声を掛けてくれれば良いので…との説明をするなり、早々に看護師が去って行った空間。



「…すみません、芳幸さん。少し眠っても良いですか?実は、昨日はあまり眠れてなくて…」

「休んでいる間に、オイラから愛羅さんに連絡を入れておくのだ」

「ありがとうございます。…谷本さんの事もまだ何も話せていないままなのに、ごめんなさい」

華音の身体を休める事の方が大事なのだ。それに、何となく事の予想は出来ているから、あまり心配しなくていい」



髪を撫でてくれる温もりを感じながら、そっと瞼を閉じた。






**§**




「こんにちは、お邪魔します」

「桜子さん…」



丁寧に頭を下げながら事務所に入ってくる姿に、華音は歩み寄った。

彼女もまた、こちらに足を向けて華音の前で歩みを止める。



「土日ならあなたも居るって聞いたので…」



彼女は肩を小さく揺らして、ふわりと微笑む。



「あなたが祖父の命を救ってくれなかったら、私はお祖父様に会う事が出来ませんでした…。本当にありがとう。今のままで状態が落ち着いていれば、来週には退院も出来るそうです」

「退院…そうですか」

「はい」



す…と、彼女の手が伸びてきて、華音の微かに乱れていた服の部分を直していく。

そうしながら、彼女――桜子は静かに言葉を落とした。



「…芹沢華音さん。祖父が名前を聞いて驚いていました。大切な御令嬢に何て事をさせてしまったんだって。…でも、これも何かの縁があっての事だったのだと、あなたと過ごした時間を嬉しそうに話してくれました。本当に不思議な縁ってあるんですね」



華音から細長く綺麗な指が離れていき、桜子が持つ鞄へと移る。

再び華音の方に伸びてきた手には、一枚の写真が収まっていた。



「高校生時代に、私がお祖父様と撮った写真です」



良かったら見てみて?と、首を傾げながら差し出される写真を手に取る。



「……!」



あまりにもの驚きで声が出なかった。


鏡で自分の顔を見た事くらいはある。

写真に写るその人は、華音自身なのではないかと錯覚が起きてしまう程に、華音でも見覚えのある顔がそこに存在していて、ただただ驚く事しか出来なかった。



「…同じ年頃だとそっくりなのだ…。彼が華音の事を求めた気持ちも分かる」



桜子のようにお下げの髪型はした事はなくても、自分に慣れ親しんだその髪型の姿でも容易く想像できる程で、すぐ傍で上がった芳幸の声に頷く。


書類提出か何かの為か、一度花娟が居る受付へと行き戻ってきた桜子に写真を返した。



「名のある家の御令嬢ともなれば、色々大変な事もあるかもしれないけど…好きな人への想いだけは、どうか貫き通してね。頑張って」



写真を受け取った桜子は、今度はまた違うものを華音に差し出してくる。

それを両の掌で受け取り首を傾げた。



「これは…?」

「お祖父様からあなたに。御礼だそうです。ピアノがお好きなんでしょう?」



華音の掌の上で、グランドピアノをモチーフにした栞が金色に輝く。



「はい。でも…」

「お祖父様の気持ちです。受け取って?」



ピアノを弾く事が好きという話を出したのは、会話の中でほんの一瞬だった。

自分の中に違う人の存在を見ている彼に、あまり自分に関する話は自らしない方が良いだろうと思っていたからだ。

だというのに、彼はたったの数日という本当に短い期間の中でもちゃんと華音の事も見ていてくれた。


少し躊躇したものの、彼の気持ちをとても嬉しく感じ、栞を大事に掌の中に包んだ。



「ありがとうございますと、お祖父様に伝えて下さい」



華音が桜子に笑顔を向けると、彼女も微笑む。

その後、一度深く頭を下げ、彼女は事務所を後にしていった。



「…あら?大変、そういえばA4のコピー用紙を切らしてたの忘れてたわ」



一つの依頼が解決して早々に、花娟からそんな声が上がる。



「じゃあ、あたしと唯ちゃんと華音ちゃんと、三人で買出しに行って来るよっ。確かお茶ももう少しでなくなりそうだったから」

「そう?じゃあ頼むわ。経費を用意しておくから上着を取ってきなさいな」

「はーい!行こっ、華音ちゃん、唯ちゃん」



唯と二人で頷き、美朱のすぐ後を追った。




朱雀探偵事務所を後にしてからあまり間を置かずに、車道を挟んだ、桜子が歩く道とは反対側の道を三人の少女が会話をしながら歩いていく姿を見つける。

その中から縁が在った彼女の姿を瞳に捉えて、桜子は独り言葉を紡ぐ。



「…ありがとうございます、ですって。聞いていましたか?お祖父様。これで良かったんでしょう?だって…私の中で…それにきっとあの娘〔こ〕の中でも、お祖父様はずっと生き続けるのだから」



瞳から零れた一筋の涙を誤魔化す様に口元に笑みを浮かべる。

歩く道の方向へと身体を戻した際に、桜子の肩に掛けられた鞄の持ち手部分で揺れるチャーム。

パレットと筆のモチーフで作られている金色のそれは、陽の光の反射を受けてキラリと光を放った。





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ありがちなネタかもですが、久しぶりに依頼らしいお話が書けました。

日本人らしい名前の響きが凄く好きな管理人です。
それだけで癒されます(笑)

前回のあとがきで何気に仄めかしておきながら、一話分挟みます(汗)
次からはいよいよ最終回です!
前編・後編、二週に分けてお送りします。

12月になったら新連載を始められるかな…(ぼそっ)
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