交響詩「愛紡ぎ」
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美朱と魏は元の世界へ。
翼宿は厲閣山へ。
柳宿、星宿、軫宿、張宿は、新たな生を受けるために大極山で。
それぞれが、それぞれの道をまた歩み始める。
シャン…と、芳准の錫杖の音は、降り立った地に集う人々の声に溶け込んだ。
「ここで良かったのだ?」
「はい」
皆との別れを惜しみながらも、大極山を去る際に華音が口にした、“行きたい場所があるの”との願いに。
皆まで言わずとも分かっている、というかの如く、芳准は優しく微笑んで応えた。
芳准が錫杖を一振りした事により、大極山の景色から一変したそこは…。
「…祝言の日は、今日だったのですね」
――おめでとうございます
――おめでとうございます
多くの祝福の声に包まれる、屋敷の庭。
華音が此処を去ってから、それ程の月日は経っていないというのに、何だかとても懐かしい気持ちになる。
人々の中心に、屋敷の主であるその人の姿を見つけて、華音は微笑んだ。
今は無き二胡の代わりに、小さな声で旋律を紡ぐ。
キラキラ…と、雪のように空から舞い降り始める、たくさんの金色の小さな光。
華音の隣で芳准もまた、錫杖の音を小さく響かせると、光と共に花々が舞った。
「…わっ、綺麗!」
「これ、雪?」
「凄い、こんなの初めて!」
「魁李様の門出を祝っているみたい」
「…微かに聴こえてくる歌声は、誰…?」
「とても縁起が良いわね、魁李?」
「…華音…」
「え?」
「いや、何でもない。全てのものが俺たちを祝福してくれているのだな。幸せな事だ」
「そうね」
魁李の耳にも届いた旋律。
風のように来てはまた去って行ったその姿を確かに見て、魁李は小さく口元を綻ばせた。
**§**
「会わなくて良かったのだ?」
「一瞬だけ、目が合ったような気がするのです。今はそれで十分です。付き合ってくれてありがとう、芳准」
村へ続く道とはまた別の道を、芳准と歩みながら答える。
「華音の帰る場所なのだから、また一緒に行くのだ?」
自然にそう言ってくれる事が嬉しくて、華音は笑顔で頷いた。
「――ところで、華音。話は変わるのだが」
「何でしょう?」
ぴたり、と歩みを止めて華音の方を向く芳准に、華音もまた同様に足を止めながら、首を傾げて続きを促す。
「そろそろ敬語はやめにするのだ?」
「…美朱と同じような事言うのね、芳准」
華音も話の流れが変わった事をきっかけに、ずっと言わんとしていた事を、敬語は取り払った言葉で紡ぐ事にした。
「あのね、芳准。私、ずっとあなたに謝りたかった。苦しい思いをさせてしまってごめんなさい」
真っ直ぐに見つめて謝罪の言葉を紡いだ華音の身体を、芳准が面を外して優しく抱きしめる。
「華音がこうして傍にいてくれるのだから、もう良いのだ。――あぁ、でも、褒美は欲しいのだ」
「私に出来る事なら、何でも」
「華音から、口、に、口付けてくれるのだ?」
丁寧にどの部分かを強調して、そんな褒美を強請る芳准は意地悪だと、華音は思う。
何でも、と言ってしまった事を少し後悔しながら、赤らんでいるであろう頬を見過ごして欲しい事もあって、せめてもの願いを口にする。
「目を閉じていて」
華音の言葉に応じてくれた芳准へ、口付けを一つ。
口付けの後に開かれた紅の瞳に、自分はどの様に映っているのだろう。
すっと目を細めながら芳准が口を開く。
「君が居てくれて、オイラは今とても幸せなのだ。ありがとう、華音」
此の時、華音は芳准の心の底からの笑顔を見た気がした。
それは、何にも縛られる事無く、これから先に広がる未来にようやく安堵出来たかのような微笑だった。
ふと、その微笑が、華音の後方を見やりながら驚きの表情へと変わる。
「…芳准?」
「華音、君が…連れてきたのか…?」
「……?」
芳准が視線を向ける方向を見ても、華音の瞳に映るものは何もなく、首を傾げる。
だが、芳准にはその姿がはっきりと見えていた。
――もう一度、その笑顔を見る事が出来て嬉しいわ。幸せにね、芳准――
華音の肩に手を置いて微笑みながら、周りの景色に溶け込むように消えていく、彼女の姿。
「…いや。華音、愛しているのだ。これからもずっと愛してゆくのだ、君を」
「芳准、私も愛しているわ」
どちらからともなくお互いに手指を絡め合わせ、再び二人で歩き出す。
一つの物語が終焉を迎えるその瞬間〔とき〕
新たな物語の幕が上がる
其れは―――…
人の想いで紡いでゆく、愛の物語。
――完――
◇あとがき◇
ふぅ、何とか無事に書き終える事が出来ました。
一応長編としてありますが、これ、長編って言えますよね?どなたか長編だと言って下さい←
…何はともあれ、最後まで私の拙い文章にお付き合い下さり、本当にありがとうございました。
いくつか反省点が残る作品となりました。
気付いたら、猫のタマさんいないし。
資料として原作を読み返していたら、特にそうするつもりはなかったのに、何だか微妙に、原作第二部の井宿と主人公バージョンっぽくなってしまっているし。
まぁ、良いんですけどね、とりあえず書きたいように書けたので(笑)
井宿さんと想いが通じ合ってからは、きっと怒涛の如くの展開だったと思います。
管理人としましては、入れたい場面はちゃっかり入れる事が出来て、とても満足しているわけですが。
いかがでしたでしょうか?
読んで下さった方が展開にしっかりとついてこれたかどうか、多少の不安は残ります。
少しでも楽しんで頂けていたら良いのですが…。
最後の方では飛皋と香蘭も出て来ましたねー。
最初は、二人が出てくる展開なんてこれっぽっちも考えていなかったのに、何か、勝手に出てきちゃったんです、はい(笑)
でもそのお蔭もあって、上手い具合に作品の題名にも沿う事が出来たお話となりました。
最後の展開は管理人的にも気に入っていたりします。
あ、そうそう。実は、ですね。
交響詩「愛紡ぎ」には、管理人が勝手にチョイスしているテーマ曲なるものがあるのです。
執筆中、城 南海さんの「アイツムギ」という歌をBGMにしていました。
小説の題名も、歌の題名から拝借させて頂きました。
最後に緋影と戦う場面とかは特に、「アイツムギ」の歌詞に影響されていたりします。
聞きながら読んで頂くと、また違った楽しみ方があるかもしれません(笑)
それにしても。
うちの井宿さんはどうも、面をつけていても真面目さが抜け切っていない…ですね…orz
管理人の脳内では、ほとんどが素顔の井宿さんなので、たぶんこればっかりはどうにもならないです。
その内、「オイラの素顔を無闇に晒さないで欲しいのだ!」なんて、お叱りを受けそうなくらい…。
それに…素顔どころか、あっさりと七星士の仲間に弱い部分も曝け出しちゃってるし…。
そうせざるを得ないほど井宿さんを苦しめているのは、何を隠そう管理人なんですけど、ね(遠い目)
困った事に、愛はあっても、井宿さんにも主人公にも厳しい(?)展開に持ち込むのが好きな管理人だったりします。
とまぁ、こんな具合ではありますが、今後も「夢語ノ森」をどうぞ宜しくお願い致します。
【交響詩「愛紡ぎ」完結(2014.6月)】
―管理人*響夜月 華音―
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+* 追伸 *+
交響詩「愛紡ぎ」外伝は、2024年時のサイト引っ越し作業に伴い、長編本タイトル内に纏めました。