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じゅじゅサンドシリーズ
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この関係は何だろう。
そう考えていた時期もあったが、何回目かの交わりを重ねてからは考える事を止めた。
「かーのじょ。一緒に俺らと遊ばない?」
久しぶりに買い物でもしようと思って街に出たら、人生初のナンパと言う奴を体験した。
しかも相手は2人の男性。
年齢は…私より少し上くらいだろうか。
「あの…私、行きたい所があるので。」
やんわり断って避けようとすれば、すぐ後ろにあった支柱に手を伸ばした男によって進路を塞がれてしまう。
ついでにチラリと後ろを確認すれば、やはりもう1人の男が既に退路も塞いでいた。
最初は女性として魅力的に見られたって事かななんて悠長に構えてたわけだけれど、まさかナンパがこんなにも強引なものだとは知らなかった。
どうしよう…。次に取るべき言動に困ってたら、後ろの男に肩を掴まれたものだから、つい咄嗟に払いのけてしまった。
触られた部分が気持ち悪い。これ以上、勝手に触らないで欲しい。
そう思ってる間にも、私の反抗的な行為に機嫌を損ねたらしい背後の男が、今ので手首の骨が折れただとか言っている。
その発言に合わせて、病院まで付き添えよだとか何とか言って前の男まで騒ぎだしたので、どうしようと言うよりかは街中で注目が自分に集まるのが恥ずかしくて。
適当な所までついて行って後は逃げ出せば良いかなんて考えてたら、不意に後ろの男が声を上げたものだから吃驚して振り返ると、まさかの人物が居て私は思わず目を見開いた。
「イ"、だだだだだ…!」
「んだよ、手首動いてんじゃねぇか。」
「っ、五条くん!」
男の手首を持って無理に後ろへとねじ回しながら手首の骨折がない事を確認し終えた五条君は、私と顔を合わせるなり、「なんつー顔してんだよw」なんて茶化しながら男の手を解放してあげた。
男はよほど痛かったのか、肩を押さえながら支柱の端にもたれ掛かっていた。
「こんな所で、買い物かい。」
「!夏油君まで…。」
背後から聞き馴染んだ声が聞こえて振り返れば、そこには穏やかに笑みを浮かべる夏油君が立っていて。
そういえばもう1人の男はどこにいるのかと思って辺りを見渡せば、勘づいた夏油君から、彼なら血相変えて逃げてったよと聞いた。
…一体、何がそんなに怖いことがあったのか。
ちょっと考えてから時間の無駄かと思い留まりやっぱり考えることを止めた。
「…その、有難う。」
これ以上あの場で留まるのは恥ずかしかったので他所に移動しながら、私は両隣りを並んで歩く2人にお礼を言った。
2人はさして気にしてない様子で、何ならちょっと面白くて見てたとか五条君が言わなくても良い余計な情報まで教えてくれたからグーで強めに五条君だけ殴っといた。(無限で防がれたけど。)
にしても、高身長の男2人と並んで歩くと流石に圧が凄いかも…ただでさえ2人、特に五条君は顔が良くて目立つのに。
そんな事を思ってチラリと五条君の方を見てたら、急に反対側から夏油君の手が腰にまわって来たものだから一瞬ゾクっとした感覚に肩がピクリと跳ねた。
すぐに夏油君の方を振り向くと、彼は黙って前を見ていたのだけれど、何となく、彼自身を纏っている雰囲気に違和感を感じて、私は咄嗟に話題探しを始めた。
「…そ、そういえば、2人はどうしてここに?」
「新しく出来た生クリーム専門店に行きたいと悟の奴が煩くてね。仕方なく付き添って来たんだ。」
「どうせ暇してたんだしいーじゃねーか。つーか、1人だと話しかけられてうざってぇんだよ。」
話しかけられる、というのは、恐らく逆ナンの事だろう。
普段は満更でもないような態度で振舞ってるくせして…。
まあでも確かに、毎回同じようなやりとりをするのも疲れるか。
「…そんな事なら、私にも声掛けてくれたら良かったのに。」
何となしに言ったら、ちょっと驚いたような顔をして2人から見られたものだから、しまった言葉選びを間違えたかと慌てて口を押さえてからとりあえず小さく謝った。
「…なんか、ごめん。」
「や、なんで謝んだよ。…そうだな、そういやお前の事すっかり忘れてたわ。」
「っ…、ちょっと五条君、言い方。」
いつも一言二言多い五条君を肘で突けば、手ごたえの無い感触が返ってくる。
無限ばっかり使いやがってぇー。なんて心の中で毒を吐きながら、実はちょっと寂しい気持ちになってる自分に気づかないふりをする。
だって、私たちは元より、よく分からない関係だから。
五条悟と夏油傑。
2人とは同級生であり、友だちであり……今や、関係を共有している仲でもある。
最初は2人から半ば強引に迫られて…そっからはズルズルと流されてしまっている状態が続いている。
正直、彼氏なのかも分からないし、そもそも相手が彼女と捉えているのかも分からない。
もしかすると、これは、所謂、セフレって奴なのだろうか…?
もしそうだとしても、この言葉の響きを、私自身は好きになれないだろうな、なんて思う。
だって、もしもこの関係性がセフレだというのなら、私は2人にとって、ただの都合の良い存在でしか無いのだ。
それは……何というか、切なくて、嫌だった。
…て、全部流されてきた私がそう思うのは、我ながらおかしな話だとは思うのだけれど。
「ナマエはどうなんだい。」
「…へ?」
不意に名前を呼ばれ、はっと我に返って夏油君を見る。
正直何も聞いてなかったから、思わず目が泳いでしまう。
「だから。ナマエは、私たちとデートがしたいとか、思うのかい?」
「……え"」
吃驚しすぎてつい変な声が出てしまった。
これは…どう返事するのが正解なのだろうか。
普通なら、そりゃそうでしょって返すんだろうけれど…。
「…別に。」
結局、色々悩んだ末に曖昧な返事をしてしまった私は、夏油君にこれ以上追求されるのが怖くて、俯き気味に前を向き直った。
隣で五条君が「はぁ?可愛くねぇー奴。」等と好き勝手文句を言っているのが聞こえるけれど、どうせ手を上げても無限で全部防がれるのだからもう勝手に言わせておく事にした。
少しして、急に静かになったかと思えば、何故か手を握って来たものだから、私は咄嗟に振りほどこうと手に力を入れた。
が、力が強すぎてビクともしなかったものだから、仕方なく目で訴えれば、不貞腐れた顔でサングラスの下から視線だけ覗かせて
「…傑は良くて俺は駄目なのかよ。」
なんて言われてしまったから、思わず納得してしまってそれ以上は何も言えなくなってしまった。
「いらっしゃいませー。3名様のご来店ですね。こちらにどうぞー。」
結局、折角だからと五条君の行きたかった生クリーム専門店にと一緒に来店する事になった私は、店員さんに案内してもらった4人掛けの席に五条君とは隣同士、夏油君とは向かい合う形で座る事にした。
席に着くなり、五条君は、お店の看板メニュー全てにオールトッピングというまさに甘党の中の甘党が食べそうな激甘メニューを注文していた。
彼の注文中にこっそり夏油君に聞けば、悟は質より好み重視だからね、だそうで。
つまりは、甘ければ甘い程、五条君にとっては満足度が増す、と言う事なのだろう。
それにしても凄いホイップクリームの量だなと、暫く経ってから運ばれてきた看板メニューのパンケーキを見て吃驚した。
「お前らも食えよ。その為にまとめて頼んだんだし。」
そう言って返事も待たずに取り皿に入れてくれるものだから、夏油君も私も食べる他選択肢が無くなってしまったわけだけれど、甘いものは寧ろ好きな部類の私にとっては、実はちょっと嬉しかったりもした。
ホイップクリームで文字通り埋まってしまっているパンケーキをナイフで切ってからフォークと一緒に口に運ぶ。
するとまだ温かいふわっふわのパンケーキの甘みとそこまで甘過ぎない生クリームとの丁度良い味加減がとても私好みだった事もあり、思わず口に出して「美味しい!」と言ってしまった。
「だろ?傑も食べてみろって!旨いから!」
「もう食べてるよ…けど、私には甘すぎるね。」
そう言って、口の中の甘ったるさを流し込むように頼んだ珈琲を口に運ぶ夏油君は、何ていうか、同い年なのにそうじゃないみたいな、そんな大人な雰囲気を醸し出していて、正直、とても魅力的だった。
そもそもの話、つい五条君ばかりが目立ってしまいがちだけれど、私から言わせれば、夏油君は彼に負けず劣らずの美男子、って奴だと思う。
そんな美男子2人が人生で初のナンパに今日遭遇したって位にはほとんど色事には接点の無い私とこんなにも変な関係になってしまっているのだから、人生何が起こるのか分からないなとつくづく実感する。
やっぱりただの気まぐれだと思って、これ以上変に期待してしまう前にどうにかした方が良いんだろうな…。
ずっと考えてきた事がやっとまとまった気がして、ずっと張り詰めていた気が少し和らいだ私は、自分のお皿を全て空けてから2人に断って御手洗いに立った。
用を済ませてから洗面台で手を洗っていると、同い年くらいの可愛らしい見た目の女性2人が何やら話に盛り上がりながら入ってきた。
彼女達は、ガラス越しに私と目が合うなり、何故か嬉しそうに声を掛けてきた。
「あの、さっきサングラスの人とお団子頭のピアスした人とで一緒に座ってらっしゃった方ですよね!?」
「え…?ああ、はい…多分、そうだと思います。」
「ほらやっぱり!あっあの、失礼ですがあの人たちとお姉さんはどういった関係なんですか…?」
「えっ……関係、ですか?」
予想だにしていなかった質問に思わず聞き返せば、彼女たちは勢いよく頷いて返してくれる。
私を見つめるそのキラキラとした、期待の籠った瞳に、私の中で彼女たちが一体何を知りたいのかが咄嗟に分かった気がした。
かと言って、明確な返事が出来るわけでもなかったので、私は当たり障りのない返しを選んで返事する事にした。
「っ…べ、別に、ただの友達ですよ?」
「え、2人共ですか?」
「はい。2人共。……恋人は、ちょっと分からないですけど。」
そう、彼女たちの期待に向けて、あえて自分から口を出せば、相手はそれでも嬉しそうにしてお礼を伝えてきた。
大丈夫。嘘はついてない…はず。
再び2人の話で盛り上がり始める彼女たちから逃げるようにお手洗いを出た私は、既にお会計を済ませて入り口前で待っていた2人と合流した。
お約束のようにうんこかとか聞いて来る五条君にさっさと自分の分の代金の提示を催促すれば、舐めんなとデコピンされてそのまま2度と支払わせてくれなかったので私は諦めて財布をバッグにとなおした。
「で、ナマエはどこ行きたいんだい。」
「え、私のは特にあてもないから良いよ。それより2人はもっと2人が盛り上がるようなとこに行ったら"、」
「ならこれからその辺のホテルでヤるか?」
「なんでそうなるの!!」
急に横から私の肩を肘置きにして急接近してきた五条君に思わず声を張って返せば、俺と傑が盛り上がる事なんてそんな事だろ、なんて悪戯っ子のようにニヤッと笑って返されてしまって、私は咄嗟に自身の顔の熱さを気にして五条君から顔を背けた。
そしたらいつの間にいたのか、夏油君の急接近した瞳と瞳とがぶつかり合ってしまったので思わず肩を揺らして驚けばいつものように微笑んだ夏油君が
「で、どうする?」
「っ…ど、どうって?」
「まず、君の買い物を優先するか、それとも君の提案を優先するか。どっちが良い?」
「…………ぜ、前者でオネガイシマス…。」
そういえば、世の中には断れない人間というものが存在するらしい。
そういった人間には、わざと選択肢を出して誘導するのが良いと、どこかで読んだ本に書いてあった気がする。
それで考えると、私が、五条君の強引さと夏油君のしたたかさに呑まれやすいのは、もしかすると自分がそういった類の人間だからなのかもしれない。
なら、私が流されてしまうのは、もはや必然の現象?
――なんて、自分の都合の良いようにばかり考えて自分自身を肯定しようとする所を私はもっと改めるべきなのだろう。
今日を終えたら別れる。別れて、こんな無茶苦茶な関係性をリセットする。
そう心に決めて、私たちは特に目的もない買い物に足を動かした。
「……思いの外、楽しかった…。」
クレープ屋さんに反応した五条君を少し離れたベンチに座りながら待っていた私は、予想外に3人で(主に五条君とだが)はしゃいでしまった自分に頭を抱えていた。
お手洗いから戻って来た夏油君がそんな私の隣に腰かけて、「酷い顔してるよ。」なんて茶化す。
思わず無言で睨みつけてやれば、笑顔を崩さない夏油君がふっと目を細めた。
「それなりには楽しめたかい?」
「……ん、まあ。」
「今日はまた、随分とはっきりしないね。折角のデートなのに。」
「っ…、でっデートなんかじゃ、」
「もしかして私たちとの関係にまだ納得出来てない?」
「っ……、」
気まずくて背けていた顔を夏油君の方に向け直せば、弓なりに細められた目から覗く鋭い眼光に射竦められる。
正直、夏油君のこの全てを見透かしたような、それでいて有無言わせぬ雰囲気を纏ったこの表情が、私は一番苦手だ。
何も言えずにいれば、「ごめん。怖がらせたかな。」なんて本当には思ってもいないような口だけの謝罪と安心させるようにか頬を撫でられる。
きっと私たちの中で一番賢い夏油君は私の動揺や心境の変化なんてのを誰よりも素早く察知しているに違いない。
じゃなきゃ、そんな表情、出来っこない…。
「……夏油君はさ。」
「うん。」
「こんな関係に、何とも思わないの…?」
私の頬を撫でていた夏油君の手が止まる。
やっぱり聞かない方が良かったかなと固まる夏油君を前に不安に思っていれば、不意に瞳一杯に映るくらい近くまで顔を下ろした夏油君が
「そうでもして君を手に入れたかったんだ……今更、そんな事考えるはずも無いだろう?」
そんな事を囁いて、私に微笑みかけた。
手に入れるって…人をまるで物みたいに。
でも、煩いくらい胸が高鳴るのは、何故だろう…。
慣れない胸の苦しさに、夏油君から顔を背けようとすれば、頬に触れていた彼の手に拒まれる。
「ナマエはどうなんだい。私や悟のこと、ちゃんと好きにはなれてるかい?」
「っ…、」
夏油君の言い方はまるで、私が好きか嫌いかは二の次のような感じだった。
例えば、次の返事で私が嫌いだと言ったところで、彼には諦めるだとか別れるという選択肢が最初から無いのだろう。
相手の意思なんてガン無視した、あまりにも自己中心的な大前提があることに、私はとんだ人に目を付けられてしまったのだと今更痛感して震えた。
でも、それでも…
「……………好き、かも。」
思い切って言葉にした直後、夏油君の反応も分からないまま五条君が何故か怒号を響かせながら私たちの元へと帰って来た。
その手元には、買いに行っていたはずのクレープでは無くて、折り目の付いたルーズリーフの紙片のようなものが握られていた。
五条君は私の真ん前にまで来るとその長い脚で勢いよくベンチに足を置いて、膝を肘代わりに手元の紙を私によく見せてきた。
「お前ふざけんなよ?なんで付き合ってる事、こいつらに隠したんだ?」
そう言うから目の前の紙をよく見てみたら、そこには誰か女性と思われる2人分の名前と連絡先が手書きの文字で書かれていた。
2人分の、というところで、咄嗟にトイレで声を掛けて来た女の子たちを思い出した私は、気まずくてつい、五条君から視線を逸らした。
「はっ…お前って、ただの友達ともヤれるような奴だったんだな。」
何も言えずにいた私に辛抱を切らしたのか、私に対しての痛烈な批判を口にした五条君は、そのままベンチから足を下ろすと、
「そっちがその気なら俺もちょっくら遊んで来るからそのつもりでいろよ。」
そんな言葉を吐き捨てて踵を返したものだから、私は咄嗟に立ち上がって彼の背中の服の端を掴んだ。
「そっ…そんなに、怒らなくても……。」
振り返った五条君の目つきが怖すぎて、俯き気味に声を絞り出すと、
「彼女だと思ってたやつに友達扱いされるとか、ダサ過ぎだろ。」
…離せよ。そう言って私の手を振りほどくと、五条君は行ってしまった。
力なくベンチに座り直せば、「…まあ、落ち着いたら戻ってくるだろう。」と、夏油君が声を掛けてくれた。
でも、五条君は遊んで来るって言ってた。
もしかしてこのままあの子たちと…?
そんな事を考えていたら居ても立っても居られなくなってきて、すぐ隣で座る夏油君に「どうしよう。」と泣いて尋ねれば、「そうだな…。」なんて考える素振りを見せた後、
「この際、私だけにしたらどうだい。」
なんて、思いがけない提案をされたものだから、つい咄嗟に、拒否をしてしまう。
でもすぐに我に返って、いや、何で駄目?等と自分の言動にしどろもどろとなっていれば、目の前の夏油君が何故か頭を抱えて笑い出すものだから余計に訳が分からなくなる。
困惑する私に、散々笑った後の夏油君が目を合わせてきたかと思えば、
「今はまだ、自覚が無くとも良いんだよ。…どうせ、後戻りなんてさせてはあげられないんだから。」
そう言って、微笑んできたものだから、私の思考は情報を処理しきれずにただ呆然としてしまった。
「無自覚にも程があんだろ。」
「!?」
「ああ、おかえり、悟。」
呆然としている内に、ひょっこりと何食わぬ顔で私と夏油君の間から顔を出してきた五条君は、吃驚する私を睨みつけてからすかさず頬を摘まんできた。
痛い!と涙目で訴える私に、五条君は「うっせぇー、鈍間!」と舌を出して見せてきた。
「っ…遊びに行ったんじゃなかったの?」
「あんなんお前の反応見る為の嘘に決まってんだろ。大体、好きでもねぇ奴と俺がするかよ。」
口は悪いのに、所々でしれっと好きとかぶっこんでくる五条君に、悔しいけど嬉しく思ってしまう自分がいる。
夏油君はまだ良いって言っていたけれど、多分きっと、この2人に対する気持ちを自覚するのは、そう遠くないような気がした。
そう考えていた時期もあったが、何回目かの交わりを重ねてからは考える事を止めた。
「かーのじょ。一緒に俺らと遊ばない?」
久しぶりに買い物でもしようと思って街に出たら、人生初のナンパと言う奴を体験した。
しかも相手は2人の男性。
年齢は…私より少し上くらいだろうか。
「あの…私、行きたい所があるので。」
やんわり断って避けようとすれば、すぐ後ろにあった支柱に手を伸ばした男によって進路を塞がれてしまう。
ついでにチラリと後ろを確認すれば、やはりもう1人の男が既に退路も塞いでいた。
最初は女性として魅力的に見られたって事かななんて悠長に構えてたわけだけれど、まさかナンパがこんなにも強引なものだとは知らなかった。
どうしよう…。次に取るべき言動に困ってたら、後ろの男に肩を掴まれたものだから、つい咄嗟に払いのけてしまった。
触られた部分が気持ち悪い。これ以上、勝手に触らないで欲しい。
そう思ってる間にも、私の反抗的な行為に機嫌を損ねたらしい背後の男が、今ので手首の骨が折れただとか言っている。
その発言に合わせて、病院まで付き添えよだとか何とか言って前の男まで騒ぎだしたので、どうしようと言うよりかは街中で注目が自分に集まるのが恥ずかしくて。
適当な所までついて行って後は逃げ出せば良いかなんて考えてたら、不意に後ろの男が声を上げたものだから吃驚して振り返ると、まさかの人物が居て私は思わず目を見開いた。
「イ"、だだだだだ…!」
「んだよ、手首動いてんじゃねぇか。」
「っ、五条くん!」
男の手首を持って無理に後ろへとねじ回しながら手首の骨折がない事を確認し終えた五条君は、私と顔を合わせるなり、「なんつー顔してんだよw」なんて茶化しながら男の手を解放してあげた。
男はよほど痛かったのか、肩を押さえながら支柱の端にもたれ掛かっていた。
「こんな所で、買い物かい。」
「!夏油君まで…。」
背後から聞き馴染んだ声が聞こえて振り返れば、そこには穏やかに笑みを浮かべる夏油君が立っていて。
そういえばもう1人の男はどこにいるのかと思って辺りを見渡せば、勘づいた夏油君から、彼なら血相変えて逃げてったよと聞いた。
…一体、何がそんなに怖いことがあったのか。
ちょっと考えてから時間の無駄かと思い留まりやっぱり考えることを止めた。
「…その、有難う。」
これ以上あの場で留まるのは恥ずかしかったので他所に移動しながら、私は両隣りを並んで歩く2人にお礼を言った。
2人はさして気にしてない様子で、何ならちょっと面白くて見てたとか五条君が言わなくても良い余計な情報まで教えてくれたからグーで強めに五条君だけ殴っといた。(無限で防がれたけど。)
にしても、高身長の男2人と並んで歩くと流石に圧が凄いかも…ただでさえ2人、特に五条君は顔が良くて目立つのに。
そんな事を思ってチラリと五条君の方を見てたら、急に反対側から夏油君の手が腰にまわって来たものだから一瞬ゾクっとした感覚に肩がピクリと跳ねた。
すぐに夏油君の方を振り向くと、彼は黙って前を見ていたのだけれど、何となく、彼自身を纏っている雰囲気に違和感を感じて、私は咄嗟に話題探しを始めた。
「…そ、そういえば、2人はどうしてここに?」
「新しく出来た生クリーム専門店に行きたいと悟の奴が煩くてね。仕方なく付き添って来たんだ。」
「どうせ暇してたんだしいーじゃねーか。つーか、1人だと話しかけられてうざってぇんだよ。」
話しかけられる、というのは、恐らく逆ナンの事だろう。
普段は満更でもないような態度で振舞ってるくせして…。
まあでも確かに、毎回同じようなやりとりをするのも疲れるか。
「…そんな事なら、私にも声掛けてくれたら良かったのに。」
何となしに言ったら、ちょっと驚いたような顔をして2人から見られたものだから、しまった言葉選びを間違えたかと慌てて口を押さえてからとりあえず小さく謝った。
「…なんか、ごめん。」
「や、なんで謝んだよ。…そうだな、そういやお前の事すっかり忘れてたわ。」
「っ…、ちょっと五条君、言い方。」
いつも一言二言多い五条君を肘で突けば、手ごたえの無い感触が返ってくる。
無限ばっかり使いやがってぇー。なんて心の中で毒を吐きながら、実はちょっと寂しい気持ちになってる自分に気づかないふりをする。
だって、私たちは元より、よく分からない関係だから。
五条悟と夏油傑。
2人とは同級生であり、友だちであり……今や、関係を共有している仲でもある。
最初は2人から半ば強引に迫られて…そっからはズルズルと流されてしまっている状態が続いている。
正直、彼氏なのかも分からないし、そもそも相手が彼女と捉えているのかも分からない。
もしかすると、これは、所謂、セフレって奴なのだろうか…?
もしそうだとしても、この言葉の響きを、私自身は好きになれないだろうな、なんて思う。
だって、もしもこの関係性がセフレだというのなら、私は2人にとって、ただの都合の良い存在でしか無いのだ。
それは……何というか、切なくて、嫌だった。
…て、全部流されてきた私がそう思うのは、我ながらおかしな話だとは思うのだけれど。
「ナマエはどうなんだい。」
「…へ?」
不意に名前を呼ばれ、はっと我に返って夏油君を見る。
正直何も聞いてなかったから、思わず目が泳いでしまう。
「だから。ナマエは、私たちとデートがしたいとか、思うのかい?」
「……え"」
吃驚しすぎてつい変な声が出てしまった。
これは…どう返事するのが正解なのだろうか。
普通なら、そりゃそうでしょって返すんだろうけれど…。
「…別に。」
結局、色々悩んだ末に曖昧な返事をしてしまった私は、夏油君にこれ以上追求されるのが怖くて、俯き気味に前を向き直った。
隣で五条君が「はぁ?可愛くねぇー奴。」等と好き勝手文句を言っているのが聞こえるけれど、どうせ手を上げても無限で全部防がれるのだからもう勝手に言わせておく事にした。
少しして、急に静かになったかと思えば、何故か手を握って来たものだから、私は咄嗟に振りほどこうと手に力を入れた。
が、力が強すぎてビクともしなかったものだから、仕方なく目で訴えれば、不貞腐れた顔でサングラスの下から視線だけ覗かせて
「…傑は良くて俺は駄目なのかよ。」
なんて言われてしまったから、思わず納得してしまってそれ以上は何も言えなくなってしまった。
「いらっしゃいませー。3名様のご来店ですね。こちらにどうぞー。」
結局、折角だからと五条君の行きたかった生クリーム専門店にと一緒に来店する事になった私は、店員さんに案内してもらった4人掛けの席に五条君とは隣同士、夏油君とは向かい合う形で座る事にした。
席に着くなり、五条君は、お店の看板メニュー全てにオールトッピングというまさに甘党の中の甘党が食べそうな激甘メニューを注文していた。
彼の注文中にこっそり夏油君に聞けば、悟は質より好み重視だからね、だそうで。
つまりは、甘ければ甘い程、五条君にとっては満足度が増す、と言う事なのだろう。
それにしても凄いホイップクリームの量だなと、暫く経ってから運ばれてきた看板メニューのパンケーキを見て吃驚した。
「お前らも食えよ。その為にまとめて頼んだんだし。」
そう言って返事も待たずに取り皿に入れてくれるものだから、夏油君も私も食べる他選択肢が無くなってしまったわけだけれど、甘いものは寧ろ好きな部類の私にとっては、実はちょっと嬉しかったりもした。
ホイップクリームで文字通り埋まってしまっているパンケーキをナイフで切ってからフォークと一緒に口に運ぶ。
するとまだ温かいふわっふわのパンケーキの甘みとそこまで甘過ぎない生クリームとの丁度良い味加減がとても私好みだった事もあり、思わず口に出して「美味しい!」と言ってしまった。
「だろ?傑も食べてみろって!旨いから!」
「もう食べてるよ…けど、私には甘すぎるね。」
そう言って、口の中の甘ったるさを流し込むように頼んだ珈琲を口に運ぶ夏油君は、何ていうか、同い年なのにそうじゃないみたいな、そんな大人な雰囲気を醸し出していて、正直、とても魅力的だった。
そもそもの話、つい五条君ばかりが目立ってしまいがちだけれど、私から言わせれば、夏油君は彼に負けず劣らずの美男子、って奴だと思う。
そんな美男子2人が人生で初のナンパに今日遭遇したって位にはほとんど色事には接点の無い私とこんなにも変な関係になってしまっているのだから、人生何が起こるのか分からないなとつくづく実感する。
やっぱりただの気まぐれだと思って、これ以上変に期待してしまう前にどうにかした方が良いんだろうな…。
ずっと考えてきた事がやっとまとまった気がして、ずっと張り詰めていた気が少し和らいだ私は、自分のお皿を全て空けてから2人に断って御手洗いに立った。
用を済ませてから洗面台で手を洗っていると、同い年くらいの可愛らしい見た目の女性2人が何やら話に盛り上がりながら入ってきた。
彼女達は、ガラス越しに私と目が合うなり、何故か嬉しそうに声を掛けてきた。
「あの、さっきサングラスの人とお団子頭のピアスした人とで一緒に座ってらっしゃった方ですよね!?」
「え…?ああ、はい…多分、そうだと思います。」
「ほらやっぱり!あっあの、失礼ですがあの人たちとお姉さんはどういった関係なんですか…?」
「えっ……関係、ですか?」
予想だにしていなかった質問に思わず聞き返せば、彼女たちは勢いよく頷いて返してくれる。
私を見つめるそのキラキラとした、期待の籠った瞳に、私の中で彼女たちが一体何を知りたいのかが咄嗟に分かった気がした。
かと言って、明確な返事が出来るわけでもなかったので、私は当たり障りのない返しを選んで返事する事にした。
「っ…べ、別に、ただの友達ですよ?」
「え、2人共ですか?」
「はい。2人共。……恋人は、ちょっと分からないですけど。」
そう、彼女たちの期待に向けて、あえて自分から口を出せば、相手はそれでも嬉しそうにしてお礼を伝えてきた。
大丈夫。嘘はついてない…はず。
再び2人の話で盛り上がり始める彼女たちから逃げるようにお手洗いを出た私は、既にお会計を済ませて入り口前で待っていた2人と合流した。
お約束のようにうんこかとか聞いて来る五条君にさっさと自分の分の代金の提示を催促すれば、舐めんなとデコピンされてそのまま2度と支払わせてくれなかったので私は諦めて財布をバッグにとなおした。
「で、ナマエはどこ行きたいんだい。」
「え、私のは特にあてもないから良いよ。それより2人はもっと2人が盛り上がるようなとこに行ったら"、」
「ならこれからその辺のホテルでヤるか?」
「なんでそうなるの!!」
急に横から私の肩を肘置きにして急接近してきた五条君に思わず声を張って返せば、俺と傑が盛り上がる事なんてそんな事だろ、なんて悪戯っ子のようにニヤッと笑って返されてしまって、私は咄嗟に自身の顔の熱さを気にして五条君から顔を背けた。
そしたらいつの間にいたのか、夏油君の急接近した瞳と瞳とがぶつかり合ってしまったので思わず肩を揺らして驚けばいつものように微笑んだ夏油君が
「で、どうする?」
「っ…ど、どうって?」
「まず、君の買い物を優先するか、それとも君の提案を優先するか。どっちが良い?」
「…………ぜ、前者でオネガイシマス…。」
そういえば、世の中には断れない人間というものが存在するらしい。
そういった人間には、わざと選択肢を出して誘導するのが良いと、どこかで読んだ本に書いてあった気がする。
それで考えると、私が、五条君の強引さと夏油君のしたたかさに呑まれやすいのは、もしかすると自分がそういった類の人間だからなのかもしれない。
なら、私が流されてしまうのは、もはや必然の現象?
――なんて、自分の都合の良いようにばかり考えて自分自身を肯定しようとする所を私はもっと改めるべきなのだろう。
今日を終えたら別れる。別れて、こんな無茶苦茶な関係性をリセットする。
そう心に決めて、私たちは特に目的もない買い物に足を動かした。
「……思いの外、楽しかった…。」
クレープ屋さんに反応した五条君を少し離れたベンチに座りながら待っていた私は、予想外に3人で(主に五条君とだが)はしゃいでしまった自分に頭を抱えていた。
お手洗いから戻って来た夏油君がそんな私の隣に腰かけて、「酷い顔してるよ。」なんて茶化す。
思わず無言で睨みつけてやれば、笑顔を崩さない夏油君がふっと目を細めた。
「それなりには楽しめたかい?」
「……ん、まあ。」
「今日はまた、随分とはっきりしないね。折角のデートなのに。」
「っ…、でっデートなんかじゃ、」
「もしかして私たちとの関係にまだ納得出来てない?」
「っ……、」
気まずくて背けていた顔を夏油君の方に向け直せば、弓なりに細められた目から覗く鋭い眼光に射竦められる。
正直、夏油君のこの全てを見透かしたような、それでいて有無言わせぬ雰囲気を纏ったこの表情が、私は一番苦手だ。
何も言えずにいれば、「ごめん。怖がらせたかな。」なんて本当には思ってもいないような口だけの謝罪と安心させるようにか頬を撫でられる。
きっと私たちの中で一番賢い夏油君は私の動揺や心境の変化なんてのを誰よりも素早く察知しているに違いない。
じゃなきゃ、そんな表情、出来っこない…。
「……夏油君はさ。」
「うん。」
「こんな関係に、何とも思わないの…?」
私の頬を撫でていた夏油君の手が止まる。
やっぱり聞かない方が良かったかなと固まる夏油君を前に不安に思っていれば、不意に瞳一杯に映るくらい近くまで顔を下ろした夏油君が
「そうでもして君を手に入れたかったんだ……今更、そんな事考えるはずも無いだろう?」
そんな事を囁いて、私に微笑みかけた。
手に入れるって…人をまるで物みたいに。
でも、煩いくらい胸が高鳴るのは、何故だろう…。
慣れない胸の苦しさに、夏油君から顔を背けようとすれば、頬に触れていた彼の手に拒まれる。
「ナマエはどうなんだい。私や悟のこと、ちゃんと好きにはなれてるかい?」
「っ…、」
夏油君の言い方はまるで、私が好きか嫌いかは二の次のような感じだった。
例えば、次の返事で私が嫌いだと言ったところで、彼には諦めるだとか別れるという選択肢が最初から無いのだろう。
相手の意思なんてガン無視した、あまりにも自己中心的な大前提があることに、私はとんだ人に目を付けられてしまったのだと今更痛感して震えた。
でも、それでも…
「……………好き、かも。」
思い切って言葉にした直後、夏油君の反応も分からないまま五条君が何故か怒号を響かせながら私たちの元へと帰って来た。
その手元には、買いに行っていたはずのクレープでは無くて、折り目の付いたルーズリーフの紙片のようなものが握られていた。
五条君は私の真ん前にまで来るとその長い脚で勢いよくベンチに足を置いて、膝を肘代わりに手元の紙を私によく見せてきた。
「お前ふざけんなよ?なんで付き合ってる事、こいつらに隠したんだ?」
そう言うから目の前の紙をよく見てみたら、そこには誰か女性と思われる2人分の名前と連絡先が手書きの文字で書かれていた。
2人分の、というところで、咄嗟にトイレで声を掛けて来た女の子たちを思い出した私は、気まずくてつい、五条君から視線を逸らした。
「はっ…お前って、ただの友達ともヤれるような奴だったんだな。」
何も言えずにいた私に辛抱を切らしたのか、私に対しての痛烈な批判を口にした五条君は、そのままベンチから足を下ろすと、
「そっちがその気なら俺もちょっくら遊んで来るからそのつもりでいろよ。」
そんな言葉を吐き捨てて踵を返したものだから、私は咄嗟に立ち上がって彼の背中の服の端を掴んだ。
「そっ…そんなに、怒らなくても……。」
振り返った五条君の目つきが怖すぎて、俯き気味に声を絞り出すと、
「彼女だと思ってたやつに友達扱いされるとか、ダサ過ぎだろ。」
…離せよ。そう言って私の手を振りほどくと、五条君は行ってしまった。
力なくベンチに座り直せば、「…まあ、落ち着いたら戻ってくるだろう。」と、夏油君が声を掛けてくれた。
でも、五条君は遊んで来るって言ってた。
もしかしてこのままあの子たちと…?
そんな事を考えていたら居ても立っても居られなくなってきて、すぐ隣で座る夏油君に「どうしよう。」と泣いて尋ねれば、「そうだな…。」なんて考える素振りを見せた後、
「この際、私だけにしたらどうだい。」
なんて、思いがけない提案をされたものだから、つい咄嗟に、拒否をしてしまう。
でもすぐに我に返って、いや、何で駄目?等と自分の言動にしどろもどろとなっていれば、目の前の夏油君が何故か頭を抱えて笑い出すものだから余計に訳が分からなくなる。
困惑する私に、散々笑った後の夏油君が目を合わせてきたかと思えば、
「今はまだ、自覚が無くとも良いんだよ。…どうせ、後戻りなんてさせてはあげられないんだから。」
そう言って、微笑んできたものだから、私の思考は情報を処理しきれずにただ呆然としてしまった。
「無自覚にも程があんだろ。」
「!?」
「ああ、おかえり、悟。」
呆然としている内に、ひょっこりと何食わぬ顔で私と夏油君の間から顔を出してきた五条君は、吃驚する私を睨みつけてからすかさず頬を摘まんできた。
痛い!と涙目で訴える私に、五条君は「うっせぇー、鈍間!」と舌を出して見せてきた。
「っ…遊びに行ったんじゃなかったの?」
「あんなんお前の反応見る為の嘘に決まってんだろ。大体、好きでもねぇ奴と俺がするかよ。」
口は悪いのに、所々でしれっと好きとかぶっこんでくる五条君に、悔しいけど嬉しく思ってしまう自分がいる。
夏油君はまだ良いって言っていたけれど、多分きっと、この2人に対する気持ちを自覚するのは、そう遠くないような気がした。