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じゅじゅサンドシリーズ
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「好きだよ、ナマエ。」
そんな風に、するりと、線をなぞるように頬を撫でてから、大好きな人の姿形、声をして愛を囁いてくる相手に、ナマエは酷く困惑していた。
事の発端は少し前。
お風呂上りで髪を乾かしていたナマエの部屋に突如鳴り響いたインターホンの音。
こんな時間に誰だろう?狗巻さんは任務だし…。
なんて思いながらもとりあえず玄関のドアを開けてみれば、そこには先程まで思い浮かべていた恋人の狗巻が立っていた。
「いぬま、き…さん?」
ナマエと目が合うなりニコリと彼女に笑いかける狗巻であったが、その見慣れぬ髪型から、すぐに違和感を覚えたナマエは、つい強張った表情をして彼の名を呟いた。
そんな彼女の様子を見てか、ゆっくりと手を出してきた狗巻は、そのままそっと指先だけをナマエの頬に触れる。
すると、一瞬ピクリと反応してから、未だ困惑の表情を崩せずに、しかし拒むわけでもなくその行為を受け入れていたナマエに、狗巻は目を細めて
「ただいま。」
と、声を発した。
すると、驚きのあまり目を見開いたナマエの瞳に、おもむろにファスナーを下して口元を露わにする狗巻の顔が映る。
それからは――そう、何故かおにぎりの具以外の言葉を饒舌に喋りながら、自身に愛を囁く、冒頭のような現状に至るわけである。
「どうしたの?もしかして、俺の言う事が信じられない…?」
「っ…、」
明らかに狗巻とは異なる何か、だとはナマエ自身も頭では分かっていた。
しかし、自身に向けられる視線や表情、そして声から伝わる言葉に込められたその想いは、何故か異なるとは思えなくて。
抵抗しなければっ…。
そう何度も思いながら、言葉が駄目なら等と声に出しながら考えていた狗巻がおもむろに顔を近づけてきたのを見て、ナマエが意を決したその時だった。
「逃げて来い。」
一瞬、頭の中が真っ白になったかと思えば、気づけば狗巻を押し戻して、数メートル先の通路で立っていたもう一人の狗巻の元へ駆け寄っていたナマエは、我に返るなり、そんな自分を相手の視界から妨げるようにして抱きしめるいつもの姿の彼を目にして思わず安堵する。
が、すぐに状況が読めなくなり、あからさまに戸惑い始めたナマエにそんな彼女を抱きしめていた狗巻は
「すじこ。」
と一言だけ呟いて、頭をポンポンと撫でた。
途端、今度こそ本物だと確信したナマエが咄嗟に狗巻を抱きしめ返せば、よしよしと今度は背中を優しく撫でてくれるものだから、余計に強く抱き締めて彼を感じようとする。
そんな中、急に肩を掴まれ、強引に表を向けさせられたナマエは、先ほどとは打って変わって怒りを含んだ目で自分を見つめるもう一人の狗巻と目が合った。
「離れろ…!」
咄嗟に彼女の耳を押さえて呪言を発した狗巻だったが、驚くべきことに相手の狗巻にはそれが効かないようで。
「やだね。ナマエは俺のだ。お前こそどっかへ行け。」
そう、涼しい顔をして返すのだから、自分と瓜二つながらもそのムカつく顔面に一発かまさなければどうにも気が済まなくなった狗巻は、「表へ出ろ…!」ともう一度ドスのきいた低い声で相手を睨みつけながら吐き捨てた。
「だからさぁ…んーてか、指図ばっかしないでくれる?イラつく。」
「っ…、」
ブチっと狗巻の堪忍袋の緒が切れる音がしたその時、
「はいはーい。これ以上は僕の家にでも場所を変えてしよーねぇ。」
「!?ご、五条先生…!?」
「「!?」、おかか!!」
突如として現れた五条がいつの間にかナマエを横抱きにして2人の数メートル先に立っていた。
咄嗟に指を指して拒否する本物の狗巻に、
「じゃあ僕たちは先に行ってるから後からおいで。あ、くれぐれも殺り合わないよーに!」
じゃ、行こっか!なんて相変わらずの軽いノリでナマエに言ってからシュッと消えてしまった五条に、やり場のない怒りを感じながら下唇を噛む狗巻“たち”であった。
一足先に五条家の和室でお茶を頂いていたナマエは、五条から事の経緯を説明して貰っていた。
「要するに、狗巻さんは任務中に対峙した呪霊から呪いを受けた…て、事ですか?」
「そっ。でもまあ、肝心の呪霊自体は棘自身がもう祓ったって話だから、あとは時間が解決するんじゃないかなぁ。」
「そ、そんな他人事みたいにぃ…。」
肩を落とすナマエに、「まあね。だって君たち面白いし。」なんて笑って言いながら傍にあった自分土産の菓子を差し出してくる五条。
呆れてジト目で見返してやれば、「えー、美味しいのにぃ。」等とさして気にしていない様子で返してから、自分は菓子を食べ始めたので、ナマエは今度こそ呆れてため息をついた。
「……まあ、もしかしたらどうにか出来る事があるかもしれないけど。」
「っ、え!ほんとですかそれ!?」
ふと、食べ終えた後の指に付いた粉を舐め上げながら発言した五条の言葉に、すぐさま反応して詰め寄るナマエ。
あまりの勢いに、必死だねぇ等と内心にんまりする五条であったが、そこは自称生徒思いなナイスガイ。
可愛い生徒たちの為にここは一肌脱ごうと決心して早速ナマエに声を潜めてその方法を伝える事にした。
「ま、脱ぐのは僕じゃなくてナマエなんだけどね。」
「脱っ、…えっ、はっはいぃ!?」
「冗談冗談。」
そんなこんなでナマエをおちょくりまくる五条であったが、後に聞いた方法とは、あながち彼の言い分も間違ってはいない事が分かり、ナマエは暫く項垂れて考え込むのであった。
やがて、勢いよく開いた障子から姿を現したのは、短髪姿の、所謂、偽物狗巻だった。
狗巻は、部屋の隅で1人座り込んでいたナマエを見つけるなり、ズカズカと近づいて目の前で腰を下ろした。
「っ、あの、狗巻さ、」
「良かった、まだあいつが居なくて。」
そう言って勢いよく抱きしめられ、本物さながらの威力に思わず胸が高鳴るナマエ。
そんな彼女の事を本気で心配した様子で上から下まで真剣に眺めながら、
「あの人には何か変な事されなかった?」
肩を掴みながら首を傾げて尋ねる狗巻に、ナマエは首を横に振って否定した。
「はぁ…良かった。君に何かあったらって思ったら、俺…」
言いながら不安そうに自分の首元に顔を埋めて抱きしめる狗巻の頭を彼が安心するように撫でてやるナマエ。
「有難う御座います。…優しいですね、狗巻さんは。」
「…君だからだよ。」
少し不貞腐れたように返って来た言葉にナマエはまたもやドキリとしたが、今はそんな場合では無いのだと自分に言い聞かせ、押し黙る。
しかし顔が赤くなるのはどうしようもないようで、気づいた狗巻が、「ナマエ、顔赤いね。」なんてわざらしく耳元で囁いてくるものだから、余計に恥ずかしくなってしまう。
そんなナマエを見て、上機嫌になった狗巻は、
「やっぱり…言葉で言えると得だよね。あいつと違って、俺ならいつだって君に思いを伝えてあげられる。」
安心しきった様子でそんな事を話すので、ナマエはやんわりと否定を口にする。
するとすかさず、不思議そうな表情をしてナマエを見てから、狗巻は眉間にしわを寄せて尋ねた。
「…なんで?」
「んー、だって、言葉なんかなくたって、狗巻さんが優しい事はちゃんと伝わってますから。」
「…だから。それは君だからだよ。」
「ううん、狗巻さんはみんなに対しても凄く優しいお方です。」
「っ…、どうして信じてくれないの!?俺はこんなにもナマエを大事に思ってるのに!」
思わず強い口調で言ってしまった狗巻は、しんと静けさが際立った後に、はっと我に返って咄嗟にナマエへ謝ろうと口を開く。
すると、言葉を発するよりも先に、今度はナマエの方から、頭ごと抱きしめられ、狗巻は思わず目を見開いた。
「…あなたが不安なら、私はずっとこうしてますから。」
いつもあの人がしてくれているように。
普段よりも少し早めな心拍音に彼女の高めの体温が心地良い、と感じる狗巻。
同時に、ああ…俺は端から蚊帳の外の存在なのか。なんて、ぼんやりとしてきた頭の中で考えていた。
どうせ祓われるのなら、せめてあのガキの大切な居場所を脅かしてやろう---そう思っていたのに。
その居場所がこんなにも温かくて、居心地のいい場所だなんて、思いもしなかった。
「……羨ましい、なぁ。」
言葉遊びの大好きなおまえら人間を、分かった気になってた俺が、酷く愚かじゃないか…。
最後の最後に、ナマエの腕の中で悔しさを顔に滲ませた狗巻は、突然、黒いモヤのようなものに変わって消えてしまった。
確かに先程まであった温もりが急に消えてしまった事で何となく切ない気持ちになっていたナマエの前に、突如として襖をぶち破って入って来た狗巻が現れ、彼女の身体を勢いよく抱きしめる。
あまりの勢いの良さに目を丸くして固まっていたナマエの視線の先で、後からひょっこりと壊れた襖があった入り口から入って来た五条は、ナマエと目を合わせるなり、「愛の勝利だねっ。」なんて眩しいキメ顔をしながら親指を立てた。
「つまり。力でも存在でも棘に完全敗北しちゃって、今度こそ抹消された感じだねー。」
「な、何ですかそれ…。」
「うめ!高菜!明太子!」
頃合いを見て改めて話をまとめだした五条に、怒りを露わにした狗巻が必死に文句を並べる。
どうやら外で五条からの足止めに合っていたらしい狗巻は、後ろ髪や服が少し乱れていた。
しかし、何はともあれ、無事に終えて良かったと安堵するナマエに、
「さぁてと!んじゃ、今日はもう遅いから、ここは責任もって棘がナマエを部屋まで送り届けること!僕はこれからまた用事があるからまたね~。」
ひらひらと手を振ってその長い脚で歩き出したと思えば、すぐにその場から姿が見えなくなった五条を、全く相手にされず不機嫌な様子でいた狗巻が軽く舌打ちする。
それからひとつ、ため息を吐いてから、気持ちを切り替えてナマエの方に向き直った狗巻は、気遣う様子を見せながら彼女の身体を支える為に手を差し出した。
手を取ってもらい、その場から立ち上がったナマエは、そのまま手を繋ぎながら五条家を出て帰路についた。
「…何だか、散々でしたね。」
「しゃけ…。」
「一日中の任務で、疲れたんじゃないですか?」
「…すじこ。」
流石に本当に疲れたのか、歩きながら甘えるようにすり寄ってくる狗巻にナマエは意識をして歩く速度を緩めた。
あの短髪の方の狗巻の髪もふさふさしていてくすぐったかったが、やはり慣れ親しんだふわふわで滑らかなこの髪が一番心地良いと感じるナマエ。
思わず目を瞑って噛み締めていれば、いつの間にかお互いに足を止めていた事に気づいてナマエは薄っすらと目を開いた。
「っ…、」
「…しゃーけっ。」
すると至近距離で自分の顔を覗き込む狗巻と視線がぶつかりあったものだから、思わず退こうとすれば、そんな彼女の腰に空いた手を回していた狗巻によって余計引き寄せられてしまう。
焦るナマエを見て、愉しそうに目を細めた狗巻は、
「ツナツナ。」
「ぅ、えぇ…?」
両手が塞がっている事を理由に口元のファスナーを下ろして欲しいと伝える。
羞恥心から迷うナマエに、駄目押しで「…おかか?」と小さく首を傾げれば、狗巻のこの表情に弱い彼女は、「ん"ん"ん、」と小さく唸りながらもきちんとファスナーを下ろしてくれる。
露わになった口元を既に真っ赤な顔をして目を瞑りながら待ち構えているナマエの唇に近づけて、ペロリと舐め上げれば、ピクリと肩を震わせたナマエが一度下唇を噛んでからおもむろに口を開けた。
「ツナマヨ、」
良い子、とでも言うように開いた口からにゅるりと舌を入れてナマエの舌と絡ませた狗巻は、そのまま何度も啄むようなキスを重ねてから、離れ際に彼女の目尻にキスを落とした。
恥ずかし気に狗巻の肩に顔を埋めて隠したナマエは、狗巻に頭をポンポンされながら、小さな声で「帰って休みましょ。」と呟くのだった。
それから帰って本当に休めたのかは、また別のお話。
そんな風に、するりと、線をなぞるように頬を撫でてから、大好きな人の姿形、声をして愛を囁いてくる相手に、ナマエは酷く困惑していた。
事の発端は少し前。
お風呂上りで髪を乾かしていたナマエの部屋に突如鳴り響いたインターホンの音。
こんな時間に誰だろう?狗巻さんは任務だし…。
なんて思いながらもとりあえず玄関のドアを開けてみれば、そこには先程まで思い浮かべていた恋人の狗巻が立っていた。
「いぬま、き…さん?」
ナマエと目が合うなりニコリと彼女に笑いかける狗巻であったが、その見慣れぬ髪型から、すぐに違和感を覚えたナマエは、つい強張った表情をして彼の名を呟いた。
そんな彼女の様子を見てか、ゆっくりと手を出してきた狗巻は、そのままそっと指先だけをナマエの頬に触れる。
すると、一瞬ピクリと反応してから、未だ困惑の表情を崩せずに、しかし拒むわけでもなくその行為を受け入れていたナマエに、狗巻は目を細めて
「ただいま。」
と、声を発した。
すると、驚きのあまり目を見開いたナマエの瞳に、おもむろにファスナーを下して口元を露わにする狗巻の顔が映る。
それからは――そう、何故かおにぎりの具以外の言葉を饒舌に喋りながら、自身に愛を囁く、冒頭のような現状に至るわけである。
「どうしたの?もしかして、俺の言う事が信じられない…?」
「っ…、」
明らかに狗巻とは異なる何か、だとはナマエ自身も頭では分かっていた。
しかし、自身に向けられる視線や表情、そして声から伝わる言葉に込められたその想いは、何故か異なるとは思えなくて。
抵抗しなければっ…。
そう何度も思いながら、言葉が駄目なら等と声に出しながら考えていた狗巻がおもむろに顔を近づけてきたのを見て、ナマエが意を決したその時だった。
「逃げて来い。」
一瞬、頭の中が真っ白になったかと思えば、気づけば狗巻を押し戻して、数メートル先の通路で立っていたもう一人の狗巻の元へ駆け寄っていたナマエは、我に返るなり、そんな自分を相手の視界から妨げるようにして抱きしめるいつもの姿の彼を目にして思わず安堵する。
が、すぐに状況が読めなくなり、あからさまに戸惑い始めたナマエにそんな彼女を抱きしめていた狗巻は
「すじこ。」
と一言だけ呟いて、頭をポンポンと撫でた。
途端、今度こそ本物だと確信したナマエが咄嗟に狗巻を抱きしめ返せば、よしよしと今度は背中を優しく撫でてくれるものだから、余計に強く抱き締めて彼を感じようとする。
そんな中、急に肩を掴まれ、強引に表を向けさせられたナマエは、先ほどとは打って変わって怒りを含んだ目で自分を見つめるもう一人の狗巻と目が合った。
「離れろ…!」
咄嗟に彼女の耳を押さえて呪言を発した狗巻だったが、驚くべきことに相手の狗巻にはそれが効かないようで。
「やだね。ナマエは俺のだ。お前こそどっかへ行け。」
そう、涼しい顔をして返すのだから、自分と瓜二つながらもそのムカつく顔面に一発かまさなければどうにも気が済まなくなった狗巻は、「表へ出ろ…!」ともう一度ドスのきいた低い声で相手を睨みつけながら吐き捨てた。
「だからさぁ…んーてか、指図ばっかしないでくれる?イラつく。」
「っ…、」
ブチっと狗巻の堪忍袋の緒が切れる音がしたその時、
「はいはーい。これ以上は僕の家にでも場所を変えてしよーねぇ。」
「!?ご、五条先生…!?」
「「!?」、おかか!!」
突如として現れた五条がいつの間にかナマエを横抱きにして2人の数メートル先に立っていた。
咄嗟に指を指して拒否する本物の狗巻に、
「じゃあ僕たちは先に行ってるから後からおいで。あ、くれぐれも殺り合わないよーに!」
じゃ、行こっか!なんて相変わらずの軽いノリでナマエに言ってからシュッと消えてしまった五条に、やり場のない怒りを感じながら下唇を噛む狗巻“たち”であった。
一足先に五条家の和室でお茶を頂いていたナマエは、五条から事の経緯を説明して貰っていた。
「要するに、狗巻さんは任務中に対峙した呪霊から呪いを受けた…て、事ですか?」
「そっ。でもまあ、肝心の呪霊自体は棘自身がもう祓ったって話だから、あとは時間が解決するんじゃないかなぁ。」
「そ、そんな他人事みたいにぃ…。」
肩を落とすナマエに、「まあね。だって君たち面白いし。」なんて笑って言いながら傍にあった自分土産の菓子を差し出してくる五条。
呆れてジト目で見返してやれば、「えー、美味しいのにぃ。」等とさして気にしていない様子で返してから、自分は菓子を食べ始めたので、ナマエは今度こそ呆れてため息をついた。
「……まあ、もしかしたらどうにか出来る事があるかもしれないけど。」
「っ、え!ほんとですかそれ!?」
ふと、食べ終えた後の指に付いた粉を舐め上げながら発言した五条の言葉に、すぐさま反応して詰め寄るナマエ。
あまりの勢いに、必死だねぇ等と内心にんまりする五条であったが、そこは自称生徒思いなナイスガイ。
可愛い生徒たちの為にここは一肌脱ごうと決心して早速ナマエに声を潜めてその方法を伝える事にした。
「ま、脱ぐのは僕じゃなくてナマエなんだけどね。」
「脱っ、…えっ、はっはいぃ!?」
「冗談冗談。」
そんなこんなでナマエをおちょくりまくる五条であったが、後に聞いた方法とは、あながち彼の言い分も間違ってはいない事が分かり、ナマエは暫く項垂れて考え込むのであった。
やがて、勢いよく開いた障子から姿を現したのは、短髪姿の、所謂、偽物狗巻だった。
狗巻は、部屋の隅で1人座り込んでいたナマエを見つけるなり、ズカズカと近づいて目の前で腰を下ろした。
「っ、あの、狗巻さ、」
「良かった、まだあいつが居なくて。」
そう言って勢いよく抱きしめられ、本物さながらの威力に思わず胸が高鳴るナマエ。
そんな彼女の事を本気で心配した様子で上から下まで真剣に眺めながら、
「あの人には何か変な事されなかった?」
肩を掴みながら首を傾げて尋ねる狗巻に、ナマエは首を横に振って否定した。
「はぁ…良かった。君に何かあったらって思ったら、俺…」
言いながら不安そうに自分の首元に顔を埋めて抱きしめる狗巻の頭を彼が安心するように撫でてやるナマエ。
「有難う御座います。…優しいですね、狗巻さんは。」
「…君だからだよ。」
少し不貞腐れたように返って来た言葉にナマエはまたもやドキリとしたが、今はそんな場合では無いのだと自分に言い聞かせ、押し黙る。
しかし顔が赤くなるのはどうしようもないようで、気づいた狗巻が、「ナマエ、顔赤いね。」なんてわざらしく耳元で囁いてくるものだから、余計に恥ずかしくなってしまう。
そんなナマエを見て、上機嫌になった狗巻は、
「やっぱり…言葉で言えると得だよね。あいつと違って、俺ならいつだって君に思いを伝えてあげられる。」
安心しきった様子でそんな事を話すので、ナマエはやんわりと否定を口にする。
するとすかさず、不思議そうな表情をしてナマエを見てから、狗巻は眉間にしわを寄せて尋ねた。
「…なんで?」
「んー、だって、言葉なんかなくたって、狗巻さんが優しい事はちゃんと伝わってますから。」
「…だから。それは君だからだよ。」
「ううん、狗巻さんはみんなに対しても凄く優しいお方です。」
「っ…、どうして信じてくれないの!?俺はこんなにもナマエを大事に思ってるのに!」
思わず強い口調で言ってしまった狗巻は、しんと静けさが際立った後に、はっと我に返って咄嗟にナマエへ謝ろうと口を開く。
すると、言葉を発するよりも先に、今度はナマエの方から、頭ごと抱きしめられ、狗巻は思わず目を見開いた。
「…あなたが不安なら、私はずっとこうしてますから。」
いつもあの人がしてくれているように。
普段よりも少し早めな心拍音に彼女の高めの体温が心地良い、と感じる狗巻。
同時に、ああ…俺は端から蚊帳の外の存在なのか。なんて、ぼんやりとしてきた頭の中で考えていた。
どうせ祓われるのなら、せめてあのガキの大切な居場所を脅かしてやろう---そう思っていたのに。
その居場所がこんなにも温かくて、居心地のいい場所だなんて、思いもしなかった。
「……羨ましい、なぁ。」
言葉遊びの大好きなおまえら人間を、分かった気になってた俺が、酷く愚かじゃないか…。
最後の最後に、ナマエの腕の中で悔しさを顔に滲ませた狗巻は、突然、黒いモヤのようなものに変わって消えてしまった。
確かに先程まであった温もりが急に消えてしまった事で何となく切ない気持ちになっていたナマエの前に、突如として襖をぶち破って入って来た狗巻が現れ、彼女の身体を勢いよく抱きしめる。
あまりの勢いの良さに目を丸くして固まっていたナマエの視線の先で、後からひょっこりと壊れた襖があった入り口から入って来た五条は、ナマエと目を合わせるなり、「愛の勝利だねっ。」なんて眩しいキメ顔をしながら親指を立てた。
「つまり。力でも存在でも棘に完全敗北しちゃって、今度こそ抹消された感じだねー。」
「な、何ですかそれ…。」
「うめ!高菜!明太子!」
頃合いを見て改めて話をまとめだした五条に、怒りを露わにした狗巻が必死に文句を並べる。
どうやら外で五条からの足止めに合っていたらしい狗巻は、後ろ髪や服が少し乱れていた。
しかし、何はともあれ、無事に終えて良かったと安堵するナマエに、
「さぁてと!んじゃ、今日はもう遅いから、ここは責任もって棘がナマエを部屋まで送り届けること!僕はこれからまた用事があるからまたね~。」
ひらひらと手を振ってその長い脚で歩き出したと思えば、すぐにその場から姿が見えなくなった五条を、全く相手にされず不機嫌な様子でいた狗巻が軽く舌打ちする。
それからひとつ、ため息を吐いてから、気持ちを切り替えてナマエの方に向き直った狗巻は、気遣う様子を見せながら彼女の身体を支える為に手を差し出した。
手を取ってもらい、その場から立ち上がったナマエは、そのまま手を繋ぎながら五条家を出て帰路についた。
「…何だか、散々でしたね。」
「しゃけ…。」
「一日中の任務で、疲れたんじゃないですか?」
「…すじこ。」
流石に本当に疲れたのか、歩きながら甘えるようにすり寄ってくる狗巻にナマエは意識をして歩く速度を緩めた。
あの短髪の方の狗巻の髪もふさふさしていてくすぐったかったが、やはり慣れ親しんだふわふわで滑らかなこの髪が一番心地良いと感じるナマエ。
思わず目を瞑って噛み締めていれば、いつの間にかお互いに足を止めていた事に気づいてナマエは薄っすらと目を開いた。
「っ…、」
「…しゃーけっ。」
すると至近距離で自分の顔を覗き込む狗巻と視線がぶつかりあったものだから、思わず退こうとすれば、そんな彼女の腰に空いた手を回していた狗巻によって余計引き寄せられてしまう。
焦るナマエを見て、愉しそうに目を細めた狗巻は、
「ツナツナ。」
「ぅ、えぇ…?」
両手が塞がっている事を理由に口元のファスナーを下ろして欲しいと伝える。
羞恥心から迷うナマエに、駄目押しで「…おかか?」と小さく首を傾げれば、狗巻のこの表情に弱い彼女は、「ん"ん"ん、」と小さく唸りながらもきちんとファスナーを下ろしてくれる。
露わになった口元を既に真っ赤な顔をして目を瞑りながら待ち構えているナマエの唇に近づけて、ペロリと舐め上げれば、ピクリと肩を震わせたナマエが一度下唇を噛んでからおもむろに口を開けた。
「ツナマヨ、」
良い子、とでも言うように開いた口からにゅるりと舌を入れてナマエの舌と絡ませた狗巻は、そのまま何度も啄むようなキスを重ねてから、離れ際に彼女の目尻にキスを落とした。
恥ずかし気に狗巻の肩に顔を埋めて隠したナマエは、狗巻に頭をポンポンされながら、小さな声で「帰って休みましょ。」と呟くのだった。
それから帰って本当に休めたのかは、また別のお話。