名前変換が無い場合は、ミョウジ ナマエになります。
夏油傑
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朝起きたら、知らない男の人が隣で寝ていた。
暫く固まって、相手を凝視してから、とりあえず顔を洗って冷静になろうとベッドから足を出す。
すると、不意に手首を掴まれたかと思いきや、ぐいっと後ろに引かれ私の身体は再びベッドの中へと沈んだ。
「おはよう」
「っ……お、はよう、御座います」
弓形に細められた目が至近距離で私を見つめてくる。
夢かもという期待は、ここで打ち砕かれた。
でもだとしたら、おかしい事がひとつ。
私は、明らかに頭から生えているように見えるそれを、半ば無意識で摘んでいた。
「……え、本物?」
「分かってて拾ったんじゃないのかい?」
「!わ、私が貴方を?」
「お風呂まで入れてくれたのに……覚えてない?」
ベッドに沈んでない側の頬を撫でられながら、少し寂しそうにする彼を見て昨日の事を思い出す。
昨日……昨日はそう、確か帰り道に道端で弱っていた猫を見つけて、とりあえず連れ帰ってから御世話をして、それからーー
「やっ……だ、だって、猫ちゃん……っ」
「狐だよ」
「狐!?」
遅れてやってきた動揺が、私をベッドから飛び出させる。
あまりの勢いに掛け布団まで持ってきてしまえば、ふわりと大きな黒と灰色の丸みのある尻尾も確認出来た。
てっきり長毛種の黒猫かと思ったのに……って、違う違う!問題はそこじゃなくて!
「大丈夫かい?朝から元気な子だね」
呆然とする私を彼はベッドに腰掛けて頬杖をつきながら愉快そうに見てくる。
混乱した頭で、そんな彼に私は問いかけた。
「あっ……あり得ないでしょ!だって昨日は確かにっ、両手で抱えられる位の大きさで!」
「実は昨日は馬鹿の相手してたら結構派手にやりあっちゃってね……それであの様って訳さ」
「な、なるほど……って、違う!私が言いたいのはそんな事じゃなくてっっ」
「それより君、時間は大丈夫なのかい?人間は出勤があるんだろう?」
「へっ……!?」
彼の指差した時計を見ると、そろそろ家を出ないと間に合わない時刻にまで迫っていて吃驚する。
とりあえず一旦この件は切り上げてと、慌ただしく支度を済ませた私は、引き出しに入れておいた家のスペアキーを取り出していつの間にかキッチンに腕まくりをして立っていた彼と顔を合わせた。
「あ、あの」
「ああ、もう行くのかい?ならこれ、良かったらだけど」
はい、と手渡してくれたのは、ラップに包まれたおにぎり2つ。
本人曰く、朝ごはんのつもりで作ってくれたらしい……何だか不思議な気持ちだけど、行為自体は素直に嬉しかったから、私はすかさずお礼を伝えた。
「じゃ、なくて!えと、あの……こっこれ!ここの合鍵!」
「え、良いのかい……?」
「良いも何も、これがないと家出れないでしょ?出ていきたくなったらこれでカギ閉めて投函口にでも入れといて」
手渡した鍵を相手が握って受け止めるのを見届けて、玄関に急ぐ。
色々と気になる事はあったけれど、このまま私が家に帰ってくるまで待っててもらう訳にもいかないから、仕方ない。
無理矢理、というのも考えたが、仮にも弱っていたから連れ帰って来たわけだし、ここで強引に追い出すのは非常に気が引けた。
それにこれは持論だが、朝ごはんを食べていない事を気にして、わざわざおにぎりを作ってくれるような人に、悪い人は居ない……と思う。(そんな人見たこともないけれど)
「……その、私としては貴方が元気になったみたいで安心したから。だからあの、変に恩とか感じないでね!」
靴を履き終え、言いたい事を言い終えた私は、きっとこれが最後の会話になるんだろうななんて思いながら玄関の扉を開ける。
するといってらっしゃいという久しぶりに聞いた聞き心地の良い挨拶に何だかちょっと嬉しく思いながら、行ってきますと返事をして扉を閉じた。
「ああ、おかえり。夕食の準備ならもう出来てるよ」
絶対もう居ないと思っていたら、彼はあのまま部屋に居座り続けていたようで。
帰るなり出迎えに来てくれた彼は、私から鞄を取り上げると手洗いを促して先に奥の部屋へと戻って行った。
まるでよく出来たお手伝いさんみたいだな…なんて、玄関からでも分かる、整理整頓されてとても綺麗になったあらゆる物を眺めながら思う。
掃除に炊事と、やっぱり恩返しのつもりでやってくれてるんだろうけれど、正直私としては、情が移るうちに早くどこかへ旅立って欲しいようにさえ思っていた。
何故なら、朝は動揺しすぎていて気付かなかったのだが、冷静になってよく思い返してみたら、彼は今まで接してきたどの異性よりも顔が良いのである。
しかも高身長に黒髪長髪……に加えてあのケモ耳。
学生時代に好きだった半妖の犬〇叉を想起させるあの見た目は、私にとってはドストライクの容姿だった。
というわけで、一度意識しだしたらなかなか以前のようには戻れないのが私という人間で。
手洗いを済ませ、暫く考え込んでいたら、心配したのであろう彼が私を呼びに来てくれた。
慌てて返事をしてリビングに駆けて行けば、机には美味しそうな和食が並んでいた。
「わ、凄い。これ全部作ったの?」
「勿論。料理はわりと得意でね。」
「材料はどうしたの?」
「午前中は買い出しに出掛けてたんだ。ああ、勿論お金は私の手持ちから出したし、戸締りも君の預けてくれた合鍵でしたよ?」
「す、すごいね……」
まあ座りなよと椅子を引いて促され、私はぎこちなく席に着いた。
「美味しい……!」
思わず口に出てしまう程の衝撃だった。
見た目も良い、声も良い、おまけに掃除も炊事も完璧ときて、この人本当にあのコンコン鳴く狐さん……?と、改めて認識が狂い始める。
「君の口に合ったようで安心したよ」
微笑みながら尻尾をゆらゆらと左右に揺らす彼に、あれは嬉しいて事なのかな……なんて、いつか見た猫の気持ちについて書かれたネット記事を思い出す。
結局、目は口程に物を言うって話で、今目の前で起きている事が例えどんなに現実離れしていたとしても、いい加減私はこの状況を受け入れるべきなんだと思う。
何より、彼は現に今存在しているのだから……存在を否定するなんて事は絶対にしてはいけない事だと思うし、したくも無い。
だから改めて、私は彼に問いかけた。
「今更だけど、私の名前はミョウジナマエ。貴方の名前も教えて貰って良い?」
「ああ……夏油傑。見ての通り、化け狐って奴だね」
「夏油君、ね。何から何まで有難う、夏油君。でもほんと、私が勝手に心配して連れて来ちゃっただけだから、これ以上はもう気にせず、好きなようにしてね?」
「…………ふぅん」
良いのかい?私の好きにしても。
途端、向かいで頬杖をついて座る夏油君の纏う雰囲気がガラリと変わる。
弓形に細められた瞳からは、さっきまでの優しいまなざしが感じられず、逸らそうにもまるで射竦められるようなその視線に、私はただ黙って見つめ返し続ける事しか出来なかった。
「いけないよ……女の子が、そのように安易に気を許しては」
「っ……、」
おもむろに立ち上がった夏油君が、私の背後にまで回ってくる。
死角に入った事で焦りが生まれた私の両肩を掴んで、彼は耳元で囁くように言葉を紡いだ。
「じゃないと、私のような悪い狐に捕食されてしまうよ……?」
「っご、ごめんなさ……!わたしそんなつもりじゃ」
――イ"ッ
首筋に走った鋭い痛みに思わず声を上げれば、耳元で笑い声が聞こえてきて、途端に顔が熱くなる。
「随分と初々しい反応だね……もしかして、生娘なのかい?」
「っ……!」
「沈黙は肯定だよ……?」
首筋に、再びあの吸い付く感覚が走る。
痛いはずなのに段々とそれ以外の感情がじわじわと込み上げてくるのを感じて、怖くなった私は、咄嗟に彼の要望を問いかけた。
「目的?そんなものはないよ。強いて言えば、このまま君と暮らしてみたい……とは思っているかな」
「!?なっ何で!」
「好きだからだよ……君はどうやら、早く私を追い出したいようだけどね」
顎の下に滑り込んだ彼の手に持ち上げられ、私の視点は天を仰ぐ。
でも、瞳に映るのは、微笑んでいるのに目が据わっている彼の表情ばかり。
彼の長い前髪が顔に掛かって、高鳴っていた胸の鼓動が更に高鳴るのを感じた。
もしかして……彼は、私を飼い慣らそうとしたんだろうか?
咄嗟に思っただけなのに、何故かそれが魅力的に感じてしまった自分自身に気づいて、強い羞恥心が込み上げてきた私は、思わず声を上げて彼を制止させた。
「あのっ待っ……」
「待つのは1度まで。何か言いたい事でも?」
「~~っ、く、暮らして良いから!だからあのっ……い、今はまだ……その……」
上手く言葉がまとめられず、口ごもる私に、怖い顔をして見つめていた彼がふっと微笑んだ。
あ、て思った時には、痛い程感じていた圧も無くなっていて。
何事もなかったかのように私から離れてまた向かい側に座り直した夏油君は、
「一緒に暮らすからには、私だけ好きにさせて貰っては不公平だからね。今日はこの辺りで止めておくよ」
そう、目を細めながら、お茶を飲んでいた。
……もしかして、本性はさっきの方だったりするのかな。
すっかり冷えてしまったお味噌汁を温め直しにキッチンへ向かった夏油君の背中を追いかけながら、私は未だ煩い心臓の音を聞かないように努めて、ぐっとこれからの事を思い瞼を閉じるのだった。
暫く固まって、相手を凝視してから、とりあえず顔を洗って冷静になろうとベッドから足を出す。
すると、不意に手首を掴まれたかと思いきや、ぐいっと後ろに引かれ私の身体は再びベッドの中へと沈んだ。
「おはよう」
「っ……お、はよう、御座います」
弓形に細められた目が至近距離で私を見つめてくる。
夢かもという期待は、ここで打ち砕かれた。
でもだとしたら、おかしい事がひとつ。
私は、明らかに頭から生えているように見えるそれを、半ば無意識で摘んでいた。
「……え、本物?」
「分かってて拾ったんじゃないのかい?」
「!わ、私が貴方を?」
「お風呂まで入れてくれたのに……覚えてない?」
ベッドに沈んでない側の頬を撫でられながら、少し寂しそうにする彼を見て昨日の事を思い出す。
昨日……昨日はそう、確か帰り道に道端で弱っていた猫を見つけて、とりあえず連れ帰ってから御世話をして、それからーー
「やっ……だ、だって、猫ちゃん……っ」
「狐だよ」
「狐!?」
遅れてやってきた動揺が、私をベッドから飛び出させる。
あまりの勢いに掛け布団まで持ってきてしまえば、ふわりと大きな黒と灰色の丸みのある尻尾も確認出来た。
てっきり長毛種の黒猫かと思ったのに……って、違う違う!問題はそこじゃなくて!
「大丈夫かい?朝から元気な子だね」
呆然とする私を彼はベッドに腰掛けて頬杖をつきながら愉快そうに見てくる。
混乱した頭で、そんな彼に私は問いかけた。
「あっ……あり得ないでしょ!だって昨日は確かにっ、両手で抱えられる位の大きさで!」
「実は昨日は馬鹿の相手してたら結構派手にやりあっちゃってね……それであの様って訳さ」
「な、なるほど……って、違う!私が言いたいのはそんな事じゃなくてっっ」
「それより君、時間は大丈夫なのかい?人間は出勤があるんだろう?」
「へっ……!?」
彼の指差した時計を見ると、そろそろ家を出ないと間に合わない時刻にまで迫っていて吃驚する。
とりあえず一旦この件は切り上げてと、慌ただしく支度を済ませた私は、引き出しに入れておいた家のスペアキーを取り出していつの間にかキッチンに腕まくりをして立っていた彼と顔を合わせた。
「あ、あの」
「ああ、もう行くのかい?ならこれ、良かったらだけど」
はい、と手渡してくれたのは、ラップに包まれたおにぎり2つ。
本人曰く、朝ごはんのつもりで作ってくれたらしい……何だか不思議な気持ちだけど、行為自体は素直に嬉しかったから、私はすかさずお礼を伝えた。
「じゃ、なくて!えと、あの……こっこれ!ここの合鍵!」
「え、良いのかい……?」
「良いも何も、これがないと家出れないでしょ?出ていきたくなったらこれでカギ閉めて投函口にでも入れといて」
手渡した鍵を相手が握って受け止めるのを見届けて、玄関に急ぐ。
色々と気になる事はあったけれど、このまま私が家に帰ってくるまで待っててもらう訳にもいかないから、仕方ない。
無理矢理、というのも考えたが、仮にも弱っていたから連れ帰って来たわけだし、ここで強引に追い出すのは非常に気が引けた。
それにこれは持論だが、朝ごはんを食べていない事を気にして、わざわざおにぎりを作ってくれるような人に、悪い人は居ない……と思う。(そんな人見たこともないけれど)
「……その、私としては貴方が元気になったみたいで安心したから。だからあの、変に恩とか感じないでね!」
靴を履き終え、言いたい事を言い終えた私は、きっとこれが最後の会話になるんだろうななんて思いながら玄関の扉を開ける。
するといってらっしゃいという久しぶりに聞いた聞き心地の良い挨拶に何だかちょっと嬉しく思いながら、行ってきますと返事をして扉を閉じた。
「ああ、おかえり。夕食の準備ならもう出来てるよ」
絶対もう居ないと思っていたら、彼はあのまま部屋に居座り続けていたようで。
帰るなり出迎えに来てくれた彼は、私から鞄を取り上げると手洗いを促して先に奥の部屋へと戻って行った。
まるでよく出来たお手伝いさんみたいだな…なんて、玄関からでも分かる、整理整頓されてとても綺麗になったあらゆる物を眺めながら思う。
掃除に炊事と、やっぱり恩返しのつもりでやってくれてるんだろうけれど、正直私としては、情が移るうちに早くどこかへ旅立って欲しいようにさえ思っていた。
何故なら、朝は動揺しすぎていて気付かなかったのだが、冷静になってよく思い返してみたら、彼は今まで接してきたどの異性よりも顔が良いのである。
しかも高身長に黒髪長髪……に加えてあのケモ耳。
学生時代に好きだった半妖の犬〇叉を想起させるあの見た目は、私にとってはドストライクの容姿だった。
というわけで、一度意識しだしたらなかなか以前のようには戻れないのが私という人間で。
手洗いを済ませ、暫く考え込んでいたら、心配したのであろう彼が私を呼びに来てくれた。
慌てて返事をしてリビングに駆けて行けば、机には美味しそうな和食が並んでいた。
「わ、凄い。これ全部作ったの?」
「勿論。料理はわりと得意でね。」
「材料はどうしたの?」
「午前中は買い出しに出掛けてたんだ。ああ、勿論お金は私の手持ちから出したし、戸締りも君の預けてくれた合鍵でしたよ?」
「す、すごいね……」
まあ座りなよと椅子を引いて促され、私はぎこちなく席に着いた。
「美味しい……!」
思わず口に出てしまう程の衝撃だった。
見た目も良い、声も良い、おまけに掃除も炊事も完璧ときて、この人本当にあのコンコン鳴く狐さん……?と、改めて認識が狂い始める。
「君の口に合ったようで安心したよ」
微笑みながら尻尾をゆらゆらと左右に揺らす彼に、あれは嬉しいて事なのかな……なんて、いつか見た猫の気持ちについて書かれたネット記事を思い出す。
結局、目は口程に物を言うって話で、今目の前で起きている事が例えどんなに現実離れしていたとしても、いい加減私はこの状況を受け入れるべきなんだと思う。
何より、彼は現に今存在しているのだから……存在を否定するなんて事は絶対にしてはいけない事だと思うし、したくも無い。
だから改めて、私は彼に問いかけた。
「今更だけど、私の名前はミョウジナマエ。貴方の名前も教えて貰って良い?」
「ああ……夏油傑。見ての通り、化け狐って奴だね」
「夏油君、ね。何から何まで有難う、夏油君。でもほんと、私が勝手に心配して連れて来ちゃっただけだから、これ以上はもう気にせず、好きなようにしてね?」
「…………ふぅん」
良いのかい?私の好きにしても。
途端、向かいで頬杖をついて座る夏油君の纏う雰囲気がガラリと変わる。
弓形に細められた瞳からは、さっきまでの優しいまなざしが感じられず、逸らそうにもまるで射竦められるようなその視線に、私はただ黙って見つめ返し続ける事しか出来なかった。
「いけないよ……女の子が、そのように安易に気を許しては」
「っ……、」
おもむろに立ち上がった夏油君が、私の背後にまで回ってくる。
死角に入った事で焦りが生まれた私の両肩を掴んで、彼は耳元で囁くように言葉を紡いだ。
「じゃないと、私のような悪い狐に捕食されてしまうよ……?」
「っご、ごめんなさ……!わたしそんなつもりじゃ」
――イ"ッ
首筋に走った鋭い痛みに思わず声を上げれば、耳元で笑い声が聞こえてきて、途端に顔が熱くなる。
「随分と初々しい反応だね……もしかして、生娘なのかい?」
「っ……!」
「沈黙は肯定だよ……?」
首筋に、再びあの吸い付く感覚が走る。
痛いはずなのに段々とそれ以外の感情がじわじわと込み上げてくるのを感じて、怖くなった私は、咄嗟に彼の要望を問いかけた。
「目的?そんなものはないよ。強いて言えば、このまま君と暮らしてみたい……とは思っているかな」
「!?なっ何で!」
「好きだからだよ……君はどうやら、早く私を追い出したいようだけどね」
顎の下に滑り込んだ彼の手に持ち上げられ、私の視点は天を仰ぐ。
でも、瞳に映るのは、微笑んでいるのに目が据わっている彼の表情ばかり。
彼の長い前髪が顔に掛かって、高鳴っていた胸の鼓動が更に高鳴るのを感じた。
もしかして……彼は、私を飼い慣らそうとしたんだろうか?
咄嗟に思っただけなのに、何故かそれが魅力的に感じてしまった自分自身に気づいて、強い羞恥心が込み上げてきた私は、思わず声を上げて彼を制止させた。
「あのっ待っ……」
「待つのは1度まで。何か言いたい事でも?」
「~~っ、く、暮らして良いから!だからあのっ……い、今はまだ……その……」
上手く言葉がまとめられず、口ごもる私に、怖い顔をして見つめていた彼がふっと微笑んだ。
あ、て思った時には、痛い程感じていた圧も無くなっていて。
何事もなかったかのように私から離れてまた向かい側に座り直した夏油君は、
「一緒に暮らすからには、私だけ好きにさせて貰っては不公平だからね。今日はこの辺りで止めておくよ」
そう、目を細めながら、お茶を飲んでいた。
……もしかして、本性はさっきの方だったりするのかな。
すっかり冷えてしまったお味噌汁を温め直しにキッチンへ向かった夏油君の背中を追いかけながら、私は未だ煩い心臓の音を聞かないように努めて、ぐっとこれからの事を思い瞼を閉じるのだった。