「彼氏、出来たんだって？」

好きと自覚したら負けぐらいに思っている彼は、悔しくも、彼女に彼氏が出来てから自分の気持ちを自覚する事になる。
しかし、諦めるなんて選択肢は彼には無くて。寧ろ、虎視眈々と、彼女の良き相談相手としてその隣を常に保つようになる。

やがて、彼の目論見通り、その時はやって来て。

「呪術師止めて欲しいって言われちゃった……」

以前出来た傷跡を彼氏に見られたという彼女が、いつものように夏油の元へ相談に来た。
冷蔵庫から取り出したお茶をグラスに注ぎながら、夏油は問いかけた。

「ふーん……で、ナマエはどうしたいんだい？」
「んー……正直、今さらっていうか。自分が呪術師以外をやってるイメージが、まずつかないかなぁ」
「なら、そう素直に伝えれば良いんじゃないかな。君の事が本当に好きだっていうなら、お相手も考え直してくれるんじゃないかい？」

はい、とグラスを手渡す夏油。受け取った彼女は、彼の案に乗ることにした。
しかし、そろそろお暇しようとした所で、事は起きた。

「ごめん夏油君、荷物有難う」
「全然。それより、電話はどうだったんだい？　相手、彼だろう？」
「あ……うん、そうだね……えっと…………わ、別れる事になっちゃいましたー」

あはは、なんて無理して笑う彼女に、夏油は真顔のまま理由を尋ねた。

「んと……自分を大事に出来ない子とは付き合えない、だって。あはは、そんなつもりは無かったんだけどなぁ」

ごめん、じゃあ帰るね。
そう言って、最後まで無理をしていた彼女を、夏油は力任せに玄関内へと引き入れ、抱きしめた。

「私の前では、泣いたって良いんだよ」

突然の事に固まっていた彼女の身体がピクリと震える。
少しして、震える声で彼女が彼に問いかけた。

「っ……なんでそんなに優しいの、夏油君」
「……君だからだよ」
「へ？　――！」
「覚えておいて。君が思うほど、私は出来た人間じゃないって事を」

耳元で囁きながら、夏油は、不敵な笑みを浮かべながら彼女の背中を指先で撫でるのだった。