「ん、どったの？」

帰宅した虎杖が出迎えた彼女に尋ねた。

「……戦争に、負けたの」

言いながら肩を落とす彼女に、そういや今日は自分が受けたコラボ商品の発売日だった事を思い出す。そういえば、どこの店舗も朝から凄い行列だと、マネージャーが喜んでいた気がする。しかしだからといって、本人を目の前にしてそこまで落ち込まなくとも良いのに……。チラリと彼女を見れば、未だ無念そうに溜め息を吐く様子が窺えた。

「んーまあ、また別の機会に狙ってくれたら良いじゃん。そもそも、まだ初日なんだしさ」

そう言いながら、よすよすと彼女の頭を撫でた虎杖。大きくて温かい手が気持ち良かったのか、彼女の方も機嫌を直した様子で、頷きながら笑顔を返して見せた。

「ちゅーか、度々言うけど、そんなに欲しいならマネージャーに頼んでみるよ俺？」
「それは駄目！　1人の悠仁君ファンとして、そこはこだわりたいの！」
「うわ、相変わらずそこだけはすっげぇ頑固」
「っ、だってファンなんだもん！！」
「ははっ、あーはいはい。まあ無理しすぎん程度に頑張ってよ。……でもさ、」
「？」

不意に腰に手を回され、引き寄せられた彼女。背中が仰け反り、顔を覗き込む虎杖とのあまりの近さに胸が高鳴った。

「今は恋人として、目の前の悠仁君と向き合って欲しいんですケド……駄目？」

まるでくぅーんと切なげに鳴くわんこのように、眉を下げた虎杖が彼女の瞳をじっと見つめる。最近は映画にも出だしたものだから演技に更なる磨きがかかってるな、なんて分かってはいながらも、この表情に弱い彼女は気がつけば

「駄目、じゃない、デス……」

そんな風に小さく返していた。

「おかえり、悠仁くん」
「ん、ただいま」

少し遅れた挨拶を交わして、2人はいつものように唇を重ねるのだった。