「君、高校生？」

下心丸出しな客に絡まれて困っていた彼女をキッチンからカウンター越しに目にした夏油がすかさず助けに行く。

「良いじゃん、名前くらい教えてよ」

言いながら彼女に触れようとしたところを「お客様」と一際低い声で呼び止めてから、素早く彼女を自分の背に置いて言葉を紡いだ。

「失礼ですが、そういったサービスをお求めでしたらどうぞ他へ。ここはただのカフェで、」

「あぁ？　何だおめぇ？　さては後ろのねぇちゃんのカレ、むぐっ」

「おや、突然どうなされましたかお客様。ああ、気分が宜しくない。それは大変だ。どうぞ、休憩室へ」

矢継ぎ早に言ってから、ひょっとこのような口をして唸る客の背中を押して店の奥の方へ消えた夏油は、暫くして、何事も無かったかのように戻って来るなり、彼女へ気遣う言葉を掛けた。

それどころではないと、客の安否を気にする彼女には、一般人には見えない呪霊が客の唇に吸い付いていたのが見えていた。

「彼なら裏口からゴミと一緒に出しておいたよ」

「全く、馬鹿の相手は疲れるね」

そう言ってため息をついて見せる夏油に彼女はお礼をしつつもやり過ぎだとたしなめた。

「君が何より私の事を思って言ってくれている事は重々承知してるつもりだ」

「けれど、」

言いながら、不意に手を伸ばした夏油が、彼女の目を覆い隠す。

「どうせなら私だけの事を考えてて欲しいな」

「ほら……私のナマエなら、出来るだろう？」

そう耳元で囁いてから、彼女の視界を解放した夏油は、すぐに物腰柔らかないつもの表情に戻って残りの任務を遂行するのだった。