「もーらいっ」

「あ！　駄目ですよ五条さん！」

カフェ自体を偽ってなりすますという随分と本格的なドッキリのような任務。
任された1年達からどうにかしてと泣きつかれた彼女が心配して様子を見に来てみれば、ろくに働きもせず、キッチンでつまみ食いを繰り返す五条の姿を見た。

「あれー？　何で君がここにいるわけ？」

制服姿の僕に会いたくなった？等と相変わらずの軽口を叩く五条に被害報告があった事を伝えれば、

「なぁんだ。じゃあ、ただの見張りかぁ」

とあからさまに残念そうな顔をして返される。

「先生なんだから生徒を困らせないで下さい」

ここは頼ってくれたあの子たちの為にもといつもより強気に出れば、暫く黙ったまま彼女のことを凝視していたかと思いきや、

「はいはい、分かったよ。そろそろ僕も真面目に働くよ」

と踵を返してホールの方へ足を進めた。
自覚があった事に呆れながらも、五条にしては随分とあっさり引いたことに違和感を覚えていれば、

「そうそう」

戸に手を掛けた五条が声を出した。

「知ってると思うけど、僕、おあずけされるの嫌いなんだよね」

「でも、君の言う通り、僕は今先生だから」

「…………今夜は覚悟しときなよ」

最後にこれでもかってくらい口角を上げてからキッチンを出て行った五条に、彼女は体中から血の気が引くのを感じた。