「困ったね……私にだって選ぶ権利はあるんだけど」

清々しい位の笑顔で答えた夏油に情報が上手く整理出来ない女性。もしや凄く失礼な事を言われたのでは？気付いた女性が怒りを露わに発言しようとすれば、先に夏油の方から「お互い様だろう？」と指摘をされて口籠もる事になる。

「……夏油君がそんな人だとは思わなかった！　幻滅したわ！」
「そのまま嫌いになって貰っても私は一向に構わないよ」
「なっ……最低！」

怒って教室を出て行った女性に夏油は小さくため息を吐く。

「馬鹿の相手は疲れるよ、全く……」

つい悪態をついていたらポケットに入れていたスマホが鳴った。


「ん……あれ、夏油くん？」
「ようやくお目覚めかい？」

家入からの連絡で駆けつけた夏油は、訓練中に頭を打って気を失ったという既に治療済みの彼女を連れてそのまま彼女の部屋まで来ていた。診たけど大したことないよとは家入の言葉だが、あの子が言うなら大丈夫なんだろうと怪我が日常茶飯事な身としてはさほど心配はしていなかった。それよりも、と早速身体を起こして申し訳なく振る舞う彼女の顎を掬い、夏油は至近距離で問い掛けた。

「気を失う位なんだから、悟との個人訓練には随分と熱が入ってたみたいだね？」
「！？　も、しかして……硝子ちゃんから聞いたの？」
「わりぃ力み過ぎたって悟本人からも連絡が来たよ」
「っ……ご、ごめん。黙ってて」
「本当にね」

ストンと頭を枕に戻された彼女は、ギジリとベッドが軋む音を聞いて反射的に起き上がろうと動いた。しかし、その浮いた肩を夏油によって押さえつけられてしまえば、組み敷かれた彼女に為す術は無かった。

「あっあのね、聞いて？　確かに五条君には最近訓練のお相手を頼んでたんだけどそれはあのっ……ご、五条君みたいにもっと夏油君の隣が似合うように、なりたくて……」

ごめんなさい、と最後に小さく謝った彼女の声は恐怖心から少し震えていた。怒りに満ちていた自覚はあったがそんなに怯える程かと、思った以上に余裕が無かった事に実は夏油本人が一番驚いていたり。強張った力を抜くようにゆっくりと息を吐いた夏油は、そのまま彼女の上に覆い被さるようにして倒れた。

「……優しくない私は嫌いかい？」

夏油の低い声が彼女の鼓膜に響く。

「ううん。愛されてるって分かるからそこは別に……あ、でも、元から夏油君て意地悪なとこあるから、優しいだけが魅力じゃないと思うよ、私」
「……それってつまり、私に意地悪されるのも君は満更じゃないって事かな？」
「えぇ！？　そっそんな事言ってな、ひあっ！？」
「言っておくけど私の気はまだ収まっていないからね……君がまた不安になる前に私がしっかり教え込んであげよう」

弓形に細められた目が彼女の事を射竦める。喉をヒュッと鳴らした彼女は、まるで肉食動物に捕らえられた小動物になった気分だった。そのままピアスを取り外し、髪ゴムを解いた夏油は、宣言通り彼女の身体を隅から隅まで分からせるのだった。