教室の窓から目が合って直感的にヤバいと感じた私は何故か空き教室の教卓の下で身を潜めていた。
体育座りをして身を縮こませながら、最近の出来事を必死に思い返してみるが、どうにも思い当たる節が無い。
何をあんなに怒っているのかが気になるが、何にしたって、今の彼と対面して話す勇気さえ無かった私には、こうして身を潜める他、身を守る術が無かった。

「つま先、見えてっけど？」

「…！！」

組んだ腕に顔を埋めていれば、今一番聞きたくなかった声が聞こえてきたものだから、思わず体が強張る。

正直、今の彼とは顔を合わせる勇気が持てなかった為、顔を上げようか悩んでいると

「何？かくれんぼの次は我慢比べでもしようっての？」

そう、脅すようにドスのきいた低い声でそれを、しかも耳元で囁いてきたものだから、怖くなった私は、咄嗟に顔を上げて彼を見た。

「んだよ、もう泣いてんのか？」

私の顔を見るなりそう言って嘲笑った五条君に、誰のせいで…なんて心の中で思ってついムッとなる。
そんな私の反応を見て「あー、やっぱ分かってねぇのな」なんて訳の分からない事を言って来たと思えば、急に顔を掴まれて、瞳一杯に五条君の顔が迫って来た。

「お前…浮気しただろ？」

「……え？」

全く身に覚えのない事に思わず声を出せば、

「しらばっくれんな！今朝、男と抱き合ってただろうが！」

と怒鳴る勢いで説明されたので、私は咄嗟に今朝の出来事を振り返る。

―そう言えば、今朝は急いでて道で転びそうになった所を親切な男性に支えて頂いたんだった。
すると五条君は、その一部だけを目撃してしまって、てっきり私が浮気を…、

「って、違う違う！　あれは私がこけそうになったのを支えてくれただけ！」

そう言えば、「……は？」なんて五条君の気が一瞬緩んだものだから、私はもう一押しと思って、この際恥ずかしさだとかは気にしないようにして普段言えていないような事をぶつけてみた。

「大体、私には五条君がいてくれてるのに、浮気なんてそんな事しないよ！」

「っ……、」

「私、ちゃんと大好きだよ！？っ…ふ、普段は恥ずかしいから言えないだけで、ちゃんと五条君の事、愛してるから！だから、」

むぐっと突然、五条君の口で口を塞がれ、吃驚して頭が真っ白になる。

行為と同時に入って来た舌が器用に私の舌と絡まってきてそのまま上下に深く交わってくるものだから、すぐに火照ってきた私は、酸素を取り入れる僅かの間に「や、…苦、しっ……、」と何とか哀願しながら顔を掴んでいた五条君の手を握った。

すると暫くして、やっと唇を離してくれた五条君がそのまま私を抱きしめてきたものだから、まだ意識がはっきりとしないのもあって、私は五条君に寄り掛かった。

「っ…、あ"ーくそっ、悪ぃ……いやほんと、ごめん。俺、余裕なさ過ぎたわ…」

耳元で聞こえる彼の申し訳なさそうな声。
それだけでも今の私に伝わる安心感は凄くて…。

勘違いとはいえ、大分怖い目には合わされたけれど。
今はただ、仲直りがしたくて、

「…大丈夫だよ、五条君」

そう言って彼の背中に手を回して擦ってあげれば、ビクリと震えた五条君の腕の力がより一層強まった。
思わず「苦しいよ」と伝えれば、五条君からはか細い声でもう一度、「ごめん」と短い謝罪の言葉が。

大して弱まってない腕の力に、まあいっか…なんて彼を甘やかしながら、私はもう少しこのままでいる事を決意し、ゆっくりと瞼を閉じた。