「癒し合いっこ……ですか？」
「名案でしょ？」

ふふんと機嫌良く返す五条に、彼からの提案で髪を乾かして貰っていた彼女は、うーんと困ったような顔をした。

「あれ、何その顔。もしかして嫌？」

すぐに顔を覗き込んで来た五条に問い詰められ、彼女は慌てて首を横に振って否定する。
そんな大袈裟な位の反応が面白くて、五条はくっくと笑いながら

「冗談だよ」

と、一言呟いてからまたドライヤーをかけ始めた。

「で、ナマエは何がご不満なのかなぁ？」
「んー、不満、とかは無いんですけど。その……私に、悟さんを癒せるのかなぁ、て」
「ふはっ、何それ。ウケる」
「っ、だ、だって！　私に出来る事なんて、そんな多くは無い、ですし……」

尻すぼみした彼女の言葉はドライヤーの音でかき消された。
やがて少しして、髪を乾かし終えた五条がそれの電源を落とすと、辺りに沈黙が流れた。

「馬鹿だねぇ、お前は」
「わっ、」
「なんていうの？　真面目バカ！　もう絶対人生苦労するタイプだよねー」
「ちょっ、と……悟さん！」

わしゃわしゃと雑に頭を撫でる五条に彼女は何とか力を込めて顔を上げた。
そのまま、文句を言いながらボサボサになった髪を整えていれば、不意に五条が後ろで呟いた。

「まあ、そこも可愛いんだけど」
「へ？　！？」
「あー良い匂い。癒される……」
「っっ……！！」

突然前に伸びてきた長い腕に肩を抱きしめられ、あからさまに困惑する彼女。
しかも首筋に顔を埋めてスーハ―とわざとらしく匂いまで嗅いでいるのだから、咄嗟にソファから腰が浮きかけたが、結局五条の力には敵わなかった。

「こーら、すぐ逃げようとしないの。僕はさ、こうしてお前とくっついていられたらそれだけで相当癒されるわけ。分かる？」
「っ……な、何ですか、それ」
「くっく、素直じゃないねぇ」

顔を逸らす彼女の耳元で愉しげに笑う五条の陽気な声が響いた。
それでも彼女が何も言い返さないのは、彼女にとっても今の状態が満更では無いからであって。

勿論、そんな事はよく分かっている五条は、それから暫く、静かに彼女を抱きしめ続けるのだった。

「さて。じゃあ次は君の番ね！」
「！」
「フフ、ナマエは僕にどう癒されたい？」