1人になりたくて。
今日が泊まりの任務だと五条に偽ったナマエは、とあるホテルの一室で休んでいた。

玄関から続く靴やカバンなどといった物は、無気力状態で項垂れて帰って来たナマエが、ベッドに倒れ込むまでに置いていった物だった。

仰向けに寝ながら、視界を遮るようにして腕で目元を隠すナマエ。
ふと今日の惨劇を思い起こしてしまい思わず唇を噛み締めると、

「今泣いたら犯すね。」

なんて居るはずの無い人の声が聞こえたのでナマエは咄嗟に腕を退けて視界を解放する。
涙ぐんだナマエの瞳に映ったのは、いつの間にかベッドに腰掛けながらこちらを見つめる五条だった。

何で？どうやって？いつから？

情報処理が追いつかず固まるナマエによっこいせと馬乗りになる五条。

「まさか、僕を騙してホテルに泊まるだなんてねー。」

そう言って目隠しを下ろすと冷ややかな瞳が露わになり、その瞳は真っ直ぐにナマエを見つめていた。

…キレてる。

そう直感したナマエが何も言えずにいれば、

「もしやこれから浮気相手のご登場ー、なぁんて事はないよね？」

そう冗談混じりに言う五条からは殺気にも似た圧があって。

「っちが、います…。」

息苦しさを感じながらも何とか否定の言葉を絞り出せば、

「目を逸らして良いとは言ってないよ。」

僕の目を見て。そう、ナマエの顔を掴んで固定した五条。
そこからはまるで尋問のようだった。
何故嘘をついたのかや今日の任務の内容、更には服に付いてた返り血の事までそれはもう洗いざらい話をさせられた。
全部終わってから、

「お前は死ななくて良かったね。」

なんて言うもんだから、そんな事言わなくても…と言えずに思っていれば、見透かしたように

「だからナマエは弱いんだよ。」

呪術師止めちゃえば？なんて平気な顔をして言ってくる五条。
流石に堪らず涙が溢れ出れば、少し五条への恐怖心が緩んできて。
思い切って

「もう五条さんなんて知りません！ほっといて下さい！」

と伝えて五条の手を振り払おうとすれば、いとも容易く押さえ込まれて身動きが取れなくなってしまった。

「うん。後は僕に犯されながら喚くと良いよ。」

「なっ、ンッー！！」

強引に重ねられた唇から舌が侵入してくる。
全力で拒んでいるのに一向に止めてくれない所か、服の下にまで手が伸びてきたものだから、ナマエはいよいよ本気で泣き出してしまった。


「…僕のこと、嫌いになった？」

手を止めた五条が尋ねる。
嘘でも嫌いとは言わないナマエの事を知った上であえて、だ。

案の定、泣きながらも黙って首を振るものだから、ああやっぱりお前は呪術師には向いてないよ…。と心底思う。

「…やーめたっ。つまんないや。」言いながら突然ナマエに覆い被さる五条。
190センチ以上もある男がもたれ込んで来るのだからナマエからはうっと小さく苦しみの含んだ声が漏れた。

「…こんなことしてるけどさ。」

「っ、？」

何とかナマエが呼吸の楽な体勢を見つけるなり、見計ったように五条が話しだす。

「どうせ明日には、何食わぬ顔して任務に出なくちゃならないんだよね…。」

「っ……」

「だから僕たち呪術師ってのは、常にイカれてなきゃ前にも進めないんだよ。」

上体を起こしてナマエの顔を覗き込んだ五条が、彼女の目に溜まっていた涙を拭ってやる。
すると目を細めたナマエは、おもむろに手を伸ばしたかと思うと五条の首に抱きついて甘えるように顔を擦り寄せた。

「ごめんなさい…心配掛けたくなかったんです。」

「…お前が甘え下手なのは、僕も嫌ってくらい知ってるよ。」

言いながらナマエの頭をぽんぽんする五条。

「あー…でも、避けられるのは正直イラっとくるし、お前がひとりで他人の為に泣いてんのもやっぱり腹立つかなー。」

せめて泣くならこのナイスガイの懐で泣くんだね。なんて、軽い口調に反して独占欲の強さを誇示する五条の人間性はナマエも身をもってよく知っていた。
だから、今お互いの為に必要な、最善の方法を考え、提案するのだ。

「っ…悟さん以外、考える余裕も無い位…シてほしいな。」

「…吃驚した。そんな甘え方、どこで覚えてきたの。」

思わずナマエを引き剥がせば、恥ずかしげにしながら、でも視線は五条から決して逸らそうとしないナマエがいて。

「全部、悟さんの所為です。」

そんな事を熱のこもった目で、声で言われるのだから、五条は抱き潰すと心に決め、ナマエに噛み付くようなキスをお見舞いしてやった。