「すまないが、他をあたって貰えるかな。彼女を待ってるんだ。」

冷たくあしらうわけでもなく、物腰柔らかにあくまで大人な対応をする夏油。
しかも度々ある事なので、本人もやり取りには慣れている。
しかし時折、今のように粘ってくる者がいるので、そういう時は困り物である。

「彼女さんいても全然気にしないよ？ね、連絡先だけでも交換しない？」

「それは貴女の都合では？私には到底、理解できないね。」

咄嗟に、彼女の台詞を仮にナマエが聞いたとしたら…更には自分が受け入れたとしたらどうなるだろうかと考えてみる。
きっと、戸惑いながらも一回は受け止めてそれでもやっぱり受け入れられず最後には泣いて謝るのだろう…と。
そんなくだらない事でナマエを振り回すのはごめんである。

「だから一切をお断りさせて頂くよ。」

改めてはっきりと返事をすれば、流石に女も諦めてその場から去って行ったので、姿が完全に見えなくなった頃に自身の背後にある支柱の反対側にいる人物に声を掛けた。

「いるんだろう？出ておいで。」

「っ…、」

「…なんなら、こちらから行こうか？」

そこまで言って、ようやく目の前に出てきたナマエは、まさかバレていたとは思わなかったようでとても気まずそうな様子を夏油に見せた。

「いるなら声を掛けてくれれば良かったのに。」

「…ごめん。」

いつもの優しい口調でナマエの頭を撫でる。

「どうしたんだい。浮かない顔をして。」

それでもまだ暗い顔でいるのでそうやって直接的に尋ねれば、ナマエが今にも泣きそうな顔を見せたので咄嗟に抱き止めた。
それから背中を摩ってやりながら、

「どうしたんだい。…ああ、大丈夫だから。」

等と出来る限り低くて落ち着きそうな声で話しかけていれば、暫くしてナマエから

「…彼女です、て本当は言いたかったんだけど……不安で」

と、最後は消え入りそうな声で言われたものだから、夏油は苦笑いして、何だそんなことかと密かにほっとした。

「寧ろ、良かったよ。あの手の人は彼女ありきで話してるからね。」

そう言って夏油が肯定すれば、

「〜〜っ、傑くんは優しすぎ！」

と何故か怒りだしたナマエ。
しかしようやく上げた顔に夏油がとびきりの優しい笑顔で向き合えば、咄嗟に勢いを失くして、赤面しながら夏油の胸元に顔を埋め直してしまう。

「〜〜っ…顔も良い。」

「ははっ、何だいそれ。」

「あと、声も良い。」

「ナマエは私の声が本当に好きだね。」

「……全部好き、デス。」

「え、よく聞こえなかったよ。もう一度言ってくれないかな？」

わざとらしく早口で言うものだから慌てて拒否する。
そしたら、「そういうことは相手の顔を見て言わないと。」だとか「ほら、私しか聞いてないから。」だとかをしつこく言い始めたので、結局、最後にはもう一度言う羽目になるのだ。