そもそも慣れているので基本囲まれない。
しかし、たまにナマエを意識して、自分の事を噂する女子高生グループなんかにキメ顔をかまして黄色い悲鳴が響き渡ったりする。
全くもってタチの悪い大人である。

「…何してるんですか。」

「んー？フフ、いやぁ、僕がこっち向かないかなーなんて話してたからさ。」

サービスだよとにんまりする五条に呆れて溜め息をつくナマエ。
恥ずかしいから止めて下さい、なんてつい不貞腐れた言い方をすれば、「何？妬いてんの？」などとニヤニヤしながら聞いてくるからまたもやつい強い口調で否定してしまう。
ちょっとからかい過ぎたかなぁなんて特に反省もせず思っていれば、一歩先を歩いていたナマエから

「私だって、男の人に声かけられる事ぐらいあるんだから…。」

と聞き捨てならない台詞が聞こえてきた（地獄耳）ので、咄嗟に肩を掴んで自分の方へ振り返らせる。

「え、何それ。僕聞いて無いんだけど。」

「、へ？」

突然の事に目を丸くして五条を見上げる。
もしかして今のぼやきが聞こえたのかと、はっとして目を泳がせれば、サングラスを外した五条が片手でナマエの顔を掴んで固定した。

「…はっきりしてくれる？大事な話してるんだから。」

そう言う五条の顔はまるで余裕を感じず、目だけで言えば殺意さえ感じる程の威圧感であった為、ナマエは思わず泣きそうになるのを我慢して硬く閉じていた口を開いた。

「っ、この場所どこか分かりますか、って聞かれて答えました。。」

「…は？」

予想だにしない返答に思わず手の力が緩む。
解放されたナマエは、咄嗟に五条から背を向けた。

「っ…だから！私が話しかけられる理由なんてそんなもんなんです！」

それはモテアピールをする五条に対してのただの強がりのつもりで言った事。
まさかその意味を本人に説明する羽目になるとは…ナマエにとってはとんだ辱めである。

全部話すと、分かってはいたが自分が惨めで仕方無くなり、更には視界までぼやけてきたものだから慌てて拭おうとすれば突然腕を後ろに引かれナマエはそのまま五条の胸に飛び込んだ。

「…ごめん。嫉妬した。」

「…！」

「お前の事好き過ぎて、つい余裕が無くなったんだよね…。」

話しながら、背中に回る腕に力がこもるのをナマエは感じとっていた。
あんな言葉ひとつでこうも動揺してしまうだなんて…正直、ちょっと自惚れそうになる。
返事の代わりにと、自分も背中に手を回して抱き締め返せば、少しして、

「…ナマエ、」

と低くて心地の良い声が耳元に響く。
顔を上げれば、そのまま顎を持ち上げられて唇を重ねられた。
最初はすぐに離れたかと思えば、その後角度を変えて何度もされるものだから、仕舞いにはナマエが手を入れて

「っ、そ、外！ここ外だから…！」

と五条の口を押さえ付けた。

「…外じゃなければ良いわけ？」

不満げにしていた五条の目が細まる。あ、やばいかもーーと思った時には、押さえ込んでいた手の平を舐め上げられて思わず手を退けていて。
そのまま素早くナマエの身体を軽々と横抱きした五条は、

「今日はさ、これから仲良くお家デートにしようか！」

なんて眩しい笑顔で言うものだから、ナマエは何も言えなくなって、結局そのまま最速で出戻る事になるのだった。