リドル･ローズハートはユウに恋をしている。

とても悩んだ。
なんで、魔法も使えない、いつ消えてしまうともしれない人に、と。
リドルにとっては正真正銘の初恋だ。
トレイの作るいちごのタルトよりも甘くて、綿菓子みたいにふわふわしたあの感情を、彼は初めて知ったのだ。
あの子を見かける度に心拍数が上がって、口の中が乾いて、胸のどこか柔らかい場所がきゅっとしまって、微かな痛みを覚える。
彼女がいつか元の世界に帰ってしまうことを考えると、心が物理的な痛みを伴って、「嫌だ！」と叫ぶ。

勤勉なリドルは、古今東西の恋愛小説やドラマや劇を観まくった。
ハッピーエンドの物語に自分と彼女を当て嵌めて赤面し、悲恋で涙を流した。
そうして彼は、その気持ちの渡し方を学んだ。
「まずはお友達から」という台詞があったから、自分と彼女もまずはそこからスタートさせよう。
優しい子だから、きっと拒まれることは無いはず。大丈夫、やれリドル、男だろ。
それでも恥ずかしくて死んでしまいそうで、肝心なところを牛乳文字の炙り手紙なんかにしてしまった。
渡す時はなんとか平静を装ったけれど、その後は体も心も暑くて仕方なくて、走って寮まで帰った。部屋に戻って飲んだ紅茶の味は覚えていない。

返事が来るまで鼓動がうるさくて、トレイやケイトに「大丈夫？」なんて心配もかけながら、返事を貰って、二人きりで食事をした。
その日の放課後はずっと夢見心地で、自室のベッドの上で「好き、なんだな」なんて呟いた。
恥ずか死にそうだった。

それからは何とか「お友達」としていい関係を築くことに重きを置いた。
まずはかっこよくて頼れる優しい先輩として印象づけて、そこから雰囲気を作っていけばいい。
部屋に呼ぶのは緊張したけれど、あまり警戒されなかったから作戦は成功してると見ていいだろう。

渡した薔薇の花束は、今はまだ友愛を示す。
でもいつか、一本の赤い薔薇を、受け取って貰える日が来たら。
リドルは夢想した。
恥ずかしくて照れてしまうけれど、それはとても幸せな未来だと思った。