apricot
「ちゅーや」
私は天邪鬼だと思う。
素直じゃないとよく云われるし、それをなかなか人に悟らせもしない。
「ねえ、中也ったら」
飄々とした態度は何を考えているか解らないと周囲の人から評判で、だらしない癖に成績だけは優秀で付け入る隙を与えない。
「ねえねえ中也、聞いてるの?」
人をおちょくるのが大好きで、気紛れに自殺未遂しては無駄に皆の肝を冷やす。
「ちゅーうーやー!聞いてるのー?」
「あぁもう五月蝿えなあ!!何だよ?!」
だからこうして好きな子にも、つんつんした態度をとられてしまう。
「さっきから五月蝿えんだよ、手前はよお!!」
此の子の名前は中原中也。
私、太宰治の幼馴染にして10年に渡る片想いの相手だ。
口は悪いし私に対する態度は粗野だけど、綺麗なアプリコット色をした髪と海を映したような瞳が綺麗な女の子。
運動と家事全般が得意。さっぱりとした面倒見の良い性格でクラスの皆にも慕われる人気者だ。
小柄な体なのに案外力が強いギャップもときめきポイント。ぬいぐるみやキラキラしたアクセサリを見た時の顔なんてもう可愛くて可愛くて仕方が無い。
「ねえ中也、好きだよ」
私は彼女が大好きだ。
心から、本当に、彼女の全てを愛している。
でも、彼女に其れは伝わらない。
何時だって想いは口にしているのに、彼女はからかわれていると思って機嫌を悪くしてしまう。
私がおちょくりとからかいの常習犯だから、本気になんてしてくれないのだ。
「もう聞き飽きたわそれ。もっと他の無えのかよ」
「無いよ。本当のことだもの」
「はっ、気持ち悪ィな」
鼻で笑う中也。その横顔のなんと可愛いことか。
「酷いよ中也、私泣いちゃう」
「おう、泣け泣け。そして其の儘死んじまえ」
「うわん、中也酷い。本当に泣いちゃうからね」
「俺の知ったことじゃねえな」
肩を竦めて私の前をさっさと歩く。
「待ってよ中也、置いて行く気?」
「おう」
「わあ酷い、今日の中也酷いよ」
「何時ものことじゃねえか」
そう、此れは何時ものことなのだ。
私が中也に告白し、中也が其れを受け流し、私は傷ついて泣く振りをする。
「置いて行く」と彼女は云うけれど、実際に置いて行ったことは無い。
「ほら、行くぞ太宰。日が暮れちまうだろ」
「はいはい、私は君と違って脚が長いから直ぐ追いつくからね、ちょっと待っててね」
「あ?今なんつった手前」
綺麗な眉を吊り上げる中也。
「わー中也が怒った〜」
私はおどけて逃げる。
「待ちやがれ!!今日こそ殺してやるからな!!」
「わーこわーい」
此の想いは、多分伝わらない。
実は、もう半ば諦めてしまっている。
10年前に初めて告白した時に、自分から茶化してしまったから。
「なんてね」なんて云わなきゃ良かったと、ずっと後悔しているけど、今はもう過ぎたこと。やり直しは出来ない。
中也はきっと、私の気持ちには気づかないまま、他の誰かと恋愛をするんだろう。
私が毎日云う「好きだよ」に、何の意味も見出さないまま、幼馴染として隣に立てる日々が終わっていくんだろう。
学校からの帰り道、私より30cm以上小さな影が追い掛けてくることも、もうすぐ無くなる。
私達は現在高校三年生。あと一週間もすれば、学校は一週間に一回か、それ以下の頻度になってしまう。
もう、毎日顔を合わせることすら無くなってしまうのだ。
「中也、私悲しいよ」
「俺も悲しいよ、手前が生きてることがこの上無く悲しい」
ほら、やっぱり伝わらない。
「中也は本当に酷いなあ」
届かない言葉を聞いた彼女は、「悪かったな」と悪戯っ子の様な笑みを浮かべた。
「手前には酷い位がお似合いだ」、と。
私は天邪鬼だと思う。
素直じゃないとよく云われるし、それをなかなか人に悟らせもしない。
「ねえ、中也ったら」
飄々とした態度は何を考えているか解らないと周囲の人から評判で、だらしない癖に成績だけは優秀で付け入る隙を与えない。
「ねえねえ中也、聞いてるの?」
人をおちょくるのが大好きで、気紛れに自殺未遂しては無駄に皆の肝を冷やす。
「ちゅーうーやー!聞いてるのー?」
「あぁもう五月蝿えなあ!!何だよ?!」
だからこうして好きな子にも、つんつんした態度をとられてしまう。
「さっきから五月蝿えんだよ、手前はよお!!」
此の子の名前は中原中也。
私、太宰治の幼馴染にして10年に渡る片想いの相手だ。
口は悪いし私に対する態度は粗野だけど、綺麗なアプリコット色をした髪と海を映したような瞳が綺麗な女の子。
運動と家事全般が得意。さっぱりとした面倒見の良い性格でクラスの皆にも慕われる人気者だ。
小柄な体なのに案外力が強いギャップもときめきポイント。ぬいぐるみやキラキラしたアクセサリを見た時の顔なんてもう可愛くて可愛くて仕方が無い。
「ねえ中也、好きだよ」
私は彼女が大好きだ。
心から、本当に、彼女の全てを愛している。
でも、彼女に其れは伝わらない。
何時だって想いは口にしているのに、彼女はからかわれていると思って機嫌を悪くしてしまう。
私がおちょくりとからかいの常習犯だから、本気になんてしてくれないのだ。
「もう聞き飽きたわそれ。もっと他の無えのかよ」
「無いよ。本当のことだもの」
「はっ、気持ち悪ィな」
鼻で笑う中也。その横顔のなんと可愛いことか。
「酷いよ中也、私泣いちゃう」
「おう、泣け泣け。そして其の儘死んじまえ」
「うわん、中也酷い。本当に泣いちゃうからね」
「俺の知ったことじゃねえな」
肩を竦めて私の前をさっさと歩く。
「待ってよ中也、置いて行く気?」
「おう」
「わあ酷い、今日の中也酷いよ」
「何時ものことじゃねえか」
そう、此れは何時ものことなのだ。
私が中也に告白し、中也が其れを受け流し、私は傷ついて泣く振りをする。
「置いて行く」と彼女は云うけれど、実際に置いて行ったことは無い。
「ほら、行くぞ太宰。日が暮れちまうだろ」
「はいはい、私は君と違って脚が長いから直ぐ追いつくからね、ちょっと待っててね」
「あ?今なんつった手前」
綺麗な眉を吊り上げる中也。
「わー中也が怒った〜」
私はおどけて逃げる。
「待ちやがれ!!今日こそ殺してやるからな!!」
「わーこわーい」
此の想いは、多分伝わらない。
実は、もう半ば諦めてしまっている。
10年前に初めて告白した時に、自分から茶化してしまったから。
「なんてね」なんて云わなきゃ良かったと、ずっと後悔しているけど、今はもう過ぎたこと。やり直しは出来ない。
中也はきっと、私の気持ちには気づかないまま、他の誰かと恋愛をするんだろう。
私が毎日云う「好きだよ」に、何の意味も見出さないまま、幼馴染として隣に立てる日々が終わっていくんだろう。
学校からの帰り道、私より30cm以上小さな影が追い掛けてくることも、もうすぐ無くなる。
私達は現在高校三年生。あと一週間もすれば、学校は一週間に一回か、それ以下の頻度になってしまう。
もう、毎日顔を合わせることすら無くなってしまうのだ。
「中也、私悲しいよ」
「俺も悲しいよ、手前が生きてることがこの上無く悲しい」
ほら、やっぱり伝わらない。
「中也は本当に酷いなあ」
届かない言葉を聞いた彼女は、「悪かったな」と悪戯っ子の様な笑みを浮かべた。
「手前には酷い位がお似合いだ」、と。
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