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勘が当たる人っているよね。
女の人は特に「女の勘」とかいって、鋭い人も多い。私は比較的鈍い方なのか目覚めてないだけなのか、よく鈍いって言われる。
それでも古今東西老若男女問わず、嫌な予感とかってよく当たらない?嫌だな、外れてて欲しいなっていうことほど起こるよね。
いや、何が言いたいかっていうとですね、私の勘が的中致しました。
100文字以上使って言うことじゃないだろっていう感じなんだけど、私も今めちゃくちゃ混乱してるから許して。サーセンね。
私は今アーシェングロットさんの部屋にいる。
目の前の豪華な寝台には、美しい銀髪を枕に滑らせて眠るアーシェングロットさん。普段は輝かんばかりの美貌を誇るご尊顔には傷が幾つかついており、目元には濃い隈が出来ていた。ただでさえ色白なのに、今はまるで本当に死んでしまったように真っ白。辛うじて上下する胸が彼の生存を示している。
「タオルお持ちしました……」
「あ、あんがとグッピーちゃん……ちょっと拭くの手伝って……」
その側に倒れ込んでいたフロイドさんが起き上がった。ジェイドさんはまだ目覚めない。
お二人の立派な寮服は擦り切れて、多分もう着られないだろう。ターコイズブルーの鮮やかな髪は土と、恐らく血液で所々固まってしまっている。
私はボロボロになったジャケットとタイを受け取って、持っていた濡れタオルを差し出した。
「ん……」
まず顔、頭。切り傷に沁みたらしく、「いてっ」という微かな声。
「背中お願い」
「はい」
乱雑に脱がれたシャツを受け取って置き、その広い背中を拭きあげる。普段ならこんなイケメンの上半身裸なんて見たらその場で鼻血吹いて死ぬけど、今はそれどころじゃない。
「背中にも傷が出来てます」
「あ、ほんと?どうりで痛いわけね」
フロイドさんにいつもの元気がない。多分普段なら「えーマジ最悪!」とか言いそうなのに。
「あとは風呂でやるから、ジェイドお願い。多分俺より傷酷い」
「わかりました」
思った以上にタオルを使ったので、ランドリールームに一旦下がって再びバスタオルを濡らして絞る。
再びアーシェングロットさんの部屋に行って、ジェイドさんを揺り起こした。
「……すみません、女性にこんな……」
「いえ、緊急事態ですから」
起き上がろうとした彼が左腕を抑えた。
「折れてますね……」
「あとで保健室に行きます」
「そうしてください」
上半身を脱がして拭き、折れた腕に応急処置をしてお風呂まで付き添い、フロイドさんに言伝をして再びアーシェングロットさんの部屋へ。
アーシェングロットさんは40°の高熱を出している。
彼もやはり腕と、あと脚が折れているようだ。もう保健医が処置を終えているけど。
「オーバーブロット」と、久し振りに会った学園長は言った。
魔法士が許容量以上の魔法を使った時に起こる現象。アーシェングロットさんの場合は、過去にいじめられたトラウマがあったところに日々のストレスが降り積もり、「黄金の契約書」という、彼にとって最も大切なものの喪失がトリガーとなって引き起こされた。
「黄金の契約書」は彼が全力を賭して完成させたユニーク魔法。拠り所としていたそれを失ったアーシェングロットさんは深く絶望し、怒り、発狂した。そして、こうなった。
といっても私はその姿を実際に見た訳では無い。
最近はラウンジの方には来ないように言われていたし、私が寝る時間を過ぎてからアーシェングロットさんは自室に帰ってきているようだった。
私がボロボロになったフロイドさんに連れてこられた時には、壊滅状態に追い込まれたモストロ・ラウンジと、倒れて動かないアーシェングロットさんとジェイドさんがぽつんと取り残されていたのだ。
二人を運んで、アーシェングロットさんの体を拭いて保健医に見せたのが30分前。今漸くリーチ兄弟がお風呂に行った。腕が折れたジェイドさんの介助は、フロイドさんがしてくれているだろう。
「うぐ、ぁあっ……」
酷く魘されているアーシェングロットさんの額の冷えピタを貼り替えた。もう温くなっている。
これから更に熱は上がると保健医は言っていた。私には分からないけど、魔力が体の中で何かを仕出かしているらしい。
呼吸は浅く、時折歪む表情が痛々しかった。
彼は学年二位の成績(飛行術を除く)の実力者で、オクタヴィネルの寮長で、モストロ・ラウンジの支配人で、更に異世界人で言葉すらわからない私の保護もしている。ストレスが溜まらない訳がなかったのだ。
それに、この前のあの流血沙汰の商談。あれがやはり良くなかったらしい。
どうも、あの場には私とは違う世界から来た異世界人がいたらしいのだ。お名前はユウさんと仰るらしい。
どうも勇敢な方らしく、アーシェングロットさんと契約をし、めちゃくちゃ怖いと言われているリーチ兄弟との水中鬼ごっこから逃げ切り、最終的には「黄金の契約書」の全破棄という手腕で勝ち申したという。
つまり、アーシェングロットさんのオーバーブロットの直接的な原因だ。
私は、アーシェングロットさんとこのユウさんがどんな契約をしたのかは知らない。多分、ユウさんがユニーク魔法全消去の荒業に走ったのは、目には目を歯には歯を的な理由だったんだろうけど。
アーシェングロットさんとリーチ兄弟が悪どい手法(日本なら完全違法)で商売をしていることは知っていたし、「指定暴力団オクタヴィネル組」「オクタヴィネルの悪徳三人組」等と揶揄されていることも聞いたことはあった。
でもそれは私の知ったことではない。私にとってはアーシェングロットさんは尊敬する保護者で、リーチ兄弟は大きくてちょっと怖いけど基本的にはいい人だ。そう思っていた。
もう、それではいけないのかもしれない。
私は、あまりにもアーシェングロットさんに頼りすぎていた。
初めから今まで衣食住の全てを彼に頼り、言葉だってまだ言語変換魔法を使ってもらうことがある。
それが彼の負担になっていなかったとは、とても思えない。
それに、アーシェングロットさんはとても優しかった。ホームシックに陥った時は相談に乗ってくれたし、生活様式の違いに戸惑う私に最大限の配慮をしてくれた。
そろそろ、その恩を返し始めてもいいのではないだろうか。
もう言葉は大丈夫。ホームシックは何とかなった(してもらった)し、生活にもだいぶ慣れた。
それに、いつまでもアーシェングロットさんに頼り続ける訳にもいかない。
「まずは、言葉を完璧にしなくちゃ……」
私は参考書を取りに、自室へ小走りで向かった。
女の人は特に「女の勘」とかいって、鋭い人も多い。私は比較的鈍い方なのか目覚めてないだけなのか、よく鈍いって言われる。
それでも古今東西老若男女問わず、嫌な予感とかってよく当たらない?嫌だな、外れてて欲しいなっていうことほど起こるよね。
いや、何が言いたいかっていうとですね、私の勘が的中致しました。
100文字以上使って言うことじゃないだろっていう感じなんだけど、私も今めちゃくちゃ混乱してるから許して。サーセンね。
私は今アーシェングロットさんの部屋にいる。
目の前の豪華な寝台には、美しい銀髪を枕に滑らせて眠るアーシェングロットさん。普段は輝かんばかりの美貌を誇るご尊顔には傷が幾つかついており、目元には濃い隈が出来ていた。ただでさえ色白なのに、今はまるで本当に死んでしまったように真っ白。辛うじて上下する胸が彼の生存を示している。
「タオルお持ちしました……」
「あ、あんがとグッピーちゃん……ちょっと拭くの手伝って……」
その側に倒れ込んでいたフロイドさんが起き上がった。ジェイドさんはまだ目覚めない。
お二人の立派な寮服は擦り切れて、多分もう着られないだろう。ターコイズブルーの鮮やかな髪は土と、恐らく血液で所々固まってしまっている。
私はボロボロになったジャケットとタイを受け取って、持っていた濡れタオルを差し出した。
「ん……」
まず顔、頭。切り傷に沁みたらしく、「いてっ」という微かな声。
「背中お願い」
「はい」
乱雑に脱がれたシャツを受け取って置き、その広い背中を拭きあげる。普段ならこんなイケメンの上半身裸なんて見たらその場で鼻血吹いて死ぬけど、今はそれどころじゃない。
「背中にも傷が出来てます」
「あ、ほんと?どうりで痛いわけね」
フロイドさんにいつもの元気がない。多分普段なら「えーマジ最悪!」とか言いそうなのに。
「あとは風呂でやるから、ジェイドお願い。多分俺より傷酷い」
「わかりました」
思った以上にタオルを使ったので、ランドリールームに一旦下がって再びバスタオルを濡らして絞る。
再びアーシェングロットさんの部屋に行って、ジェイドさんを揺り起こした。
「……すみません、女性にこんな……」
「いえ、緊急事態ですから」
起き上がろうとした彼が左腕を抑えた。
「折れてますね……」
「あとで保健室に行きます」
「そうしてください」
上半身を脱がして拭き、折れた腕に応急処置をしてお風呂まで付き添い、フロイドさんに言伝をして再びアーシェングロットさんの部屋へ。
アーシェングロットさんは40°の高熱を出している。
彼もやはり腕と、あと脚が折れているようだ。もう保健医が処置を終えているけど。
「オーバーブロット」と、久し振りに会った学園長は言った。
魔法士が許容量以上の魔法を使った時に起こる現象。アーシェングロットさんの場合は、過去にいじめられたトラウマがあったところに日々のストレスが降り積もり、「黄金の契約書」という、彼にとって最も大切なものの喪失がトリガーとなって引き起こされた。
「黄金の契約書」は彼が全力を賭して完成させたユニーク魔法。拠り所としていたそれを失ったアーシェングロットさんは深く絶望し、怒り、発狂した。そして、こうなった。
といっても私はその姿を実際に見た訳では無い。
最近はラウンジの方には来ないように言われていたし、私が寝る時間を過ぎてからアーシェングロットさんは自室に帰ってきているようだった。
私がボロボロになったフロイドさんに連れてこられた時には、壊滅状態に追い込まれたモストロ・ラウンジと、倒れて動かないアーシェングロットさんとジェイドさんがぽつんと取り残されていたのだ。
二人を運んで、アーシェングロットさんの体を拭いて保健医に見せたのが30分前。今漸くリーチ兄弟がお風呂に行った。腕が折れたジェイドさんの介助は、フロイドさんがしてくれているだろう。
「うぐ、ぁあっ……」
酷く魘されているアーシェングロットさんの額の冷えピタを貼り替えた。もう温くなっている。
これから更に熱は上がると保健医は言っていた。私には分からないけど、魔力が体の中で何かを仕出かしているらしい。
呼吸は浅く、時折歪む表情が痛々しかった。
彼は学年二位の成績(飛行術を除く)の実力者で、オクタヴィネルの寮長で、モストロ・ラウンジの支配人で、更に異世界人で言葉すらわからない私の保護もしている。ストレスが溜まらない訳がなかったのだ。
それに、この前のあの流血沙汰の商談。あれがやはり良くなかったらしい。
どうも、あの場には私とは違う世界から来た異世界人がいたらしいのだ。お名前はユウさんと仰るらしい。
どうも勇敢な方らしく、アーシェングロットさんと契約をし、めちゃくちゃ怖いと言われているリーチ兄弟との水中鬼ごっこから逃げ切り、最終的には「黄金の契約書」の全破棄という手腕で勝ち申したという。
つまり、アーシェングロットさんのオーバーブロットの直接的な原因だ。
私は、アーシェングロットさんとこのユウさんがどんな契約をしたのかは知らない。多分、ユウさんがユニーク魔法全消去の荒業に走ったのは、目には目を歯には歯を的な理由だったんだろうけど。
アーシェングロットさんとリーチ兄弟が悪どい手法(日本なら完全違法)で商売をしていることは知っていたし、「指定暴力団オクタヴィネル組」「オクタヴィネルの悪徳三人組」等と揶揄されていることも聞いたことはあった。
でもそれは私の知ったことではない。私にとってはアーシェングロットさんは尊敬する保護者で、リーチ兄弟は大きくてちょっと怖いけど基本的にはいい人だ。そう思っていた。
もう、それではいけないのかもしれない。
私は、あまりにもアーシェングロットさんに頼りすぎていた。
初めから今まで衣食住の全てを彼に頼り、言葉だってまだ言語変換魔法を使ってもらうことがある。
それが彼の負担になっていなかったとは、とても思えない。
それに、アーシェングロットさんはとても優しかった。ホームシックに陥った時は相談に乗ってくれたし、生活様式の違いに戸惑う私に最大限の配慮をしてくれた。
そろそろ、その恩を返し始めてもいいのではないだろうか。
もう言葉は大丈夫。ホームシックは何とかなった(してもらった)し、生活にもだいぶ慣れた。
それに、いつまでもアーシェングロットさんに頼り続ける訳にもいかない。
「まずは、言葉を完璧にしなくちゃ……」
私は参考書を取りに、自室へ小走りで向かった。
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