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モストロ・ラウンジのVIPルームにて。
「アズール、最近なんか疲れてんね」
好物のたこ焼きを口に運びながら、フロイド・リーチが言った。
「勉学に契約の達成や寮長としての業務とラウンジの経営に加え、あの訳の分からない人間の面倒まで見させられているんだから当然ですね」
その双子の兄弟のジェイド・リーチが、アズールの前に紅茶を置く。
それを流し込み、アズールは眉間を抑えた。
「お可哀想に。あの異世界人の言語変換にかなり魔力を持っていかれているのでしょう?」
「僕を憐れむのはやめなさい、ジェイド。…… ミヤコさんの言語変換魔法が堪えているのは認めます。どこの言葉か分からないのがここまで負担になるとは」
「へー、あの子、ミヤコっていうの?変わった名前してんね」
「字も違うんですよ。ほら、これを見なさい」
アズールは懐から紙を取り出して二人に見せた。
双子は190越えの巨体を曲げてそれを覗き込んだ。二対のオッドアイが見開かれる。
「なに、この字?難しそー」
「書くのに難儀しそうな字ですね。こちらの言語とは全く違う」
「ちょっとしか文字ねえじゃん。これフルネーム?」
「ええ、フルネームですよ。それでヤマトミヤコと読むそうです。ヤマトがファミリーネームで、ミヤコがファーストネームだと仰っていました」
「俺らとは逆に書くってこと?」
「そうですね」
フロイドがその垂れた目を細めた。
どうやら少し興味が湧いたらしい。
「オレ、その子に会いに行っていい?」
「駄目ですよ、フロイド。彼女がこちらに慣れてくるまでは、アズール以外の人間との接触は避けるべきだと学園長が仰っていたでしょう」
「つまんねーの」
都の処置は、その後書面で各寮長に伝えられていた。
身柄はオクタヴィネル寮預かりとし、寮長が慣れてきたと判断するまでは一切の外出、寮長以外の人間との接触は禁止。また、彼女の存在は他言無用。伝達の紙も、読んだらすぐ消滅するような魔法がかかっていた。
大和 都という異世界人の存在を知るのは、基本的には学園長をはじめとする教師陣と各寮長のみだ。
オクタヴィネルのみ、身柄を預かる関係上副寮長のジェイドとその双子であるフロイドが知っている。
寮生には、「あの新入生は対人恐怖症を患っており、リモートで授業を受けている」ということにしていた。
「僕もお話したことがないんですけど、ミヤコさんはどんな方なんですか?そろそろこちらに来て一ヶ月が経ちますけど」
ジェイドがクッキーを齧りながら問う。
「ごく普通の女性です。素直で聞き分けがいいので、扱いやすいですよ。表情もわかりやすい」
アズールはポットから紅茶を注いだ。
「ただ、こちらも言語変換魔法を使わないと彼女の言葉を理解できないのが不安要素ですね。もしかしたら堂々ととんでもないことを言っているかもしれない」
「おやおや、それは大変だ」
ジェイドはくすくすと笑った。ちっとも大変だとは思っていない顔だ。
「彼女の肌の色や髪の色を見るに、おそらく東洋系の血筋の方でしょうね。骨格も小柄だ」
「じゃあ黒髪黒目で肌は黄色い感じなの?」
「ええ。僕らより肌は黄色味が強いですが、キメは細かいです。髪も黒でストレートだし」
「それは東洋系で間違いないでしょうね」
アズールは頷いた。
フロイドは更に興味を引かれたようで、「オレも会いたいー」とごねている。
アズールは子供用の本を某巨大通販サイトで注文した。
『たのしい伝記シリーズ3 うみのまじょ』や、『やってみよう!はじめてのれんきんじゅつ』、『よくわかるまほうし』などである。
もちろんこれらは都用だ。ただ参考書の例文を読むよりは、こういうものの方が少しは興味が湧く、というのをネットで読んだのだ。
一昨日頼んだ子供用アニメのBluRayも届いた。
正しい発音を学んだりやこちらの文化に触れたりするためにはうってつけだと踏んだジェイドの発案により、取り寄せられたものだ。
「現地点で彼女にかなりお金を使っていますけど、どう回収するおつもりなんです?」
「慣れてきたらラウンジの事務をやらせます。僕の側から離すわけにもいかないので、あまり派手に動き回らせることも出来ませんから」
「不便だねえ」
「ええ。しかしいきなり異世界に飛ばされて、言葉すらわからない状態に置かれたのは彼女の責任ではありません。コイントスで負けたのは僕なんですから、きっちり面倒は見ます」
それに、思ったよりも都は扱いやすくて、面倒を見るのはあまり苦にならない。
素直で特に暗くもなく、やかましくもなく、こちらが言語変換魔法さえ掛ければ受け答えはしっかりできる。怖気付くこともなく、かといって無謀なこともしない。
物騒で論外なヤバい双子と共に生きてきたアズールにとっては、彼女の相手をすることなんて簡単なことだ。
「そんなことより二人とも、この後の商談の支度は出来ましたか?」
「ええ。ばっちりです」
「完璧だよ」
「それならよろしい」
そう、あの素直で扱いやすい娘はどうだっていい。
アズール達は、これまでの人生の中で最も大きな野望を叶えようとしているのだから。
三人はまるで悪役のような笑みを浮かべ、部屋を出ていった。
「アズール、最近なんか疲れてんね」
好物のたこ焼きを口に運びながら、フロイド・リーチが言った。
「勉学に契約の達成や寮長としての業務とラウンジの経営に加え、あの訳の分からない人間の面倒まで見させられているんだから当然ですね」
その双子の兄弟のジェイド・リーチが、アズールの前に紅茶を置く。
それを流し込み、アズールは眉間を抑えた。
「お可哀想に。あの異世界人の言語変換にかなり魔力を持っていかれているのでしょう?」
「僕を憐れむのはやめなさい、ジェイド。…… ミヤコさんの言語変換魔法が堪えているのは認めます。どこの言葉か分からないのがここまで負担になるとは」
「へー、あの子、ミヤコっていうの?変わった名前してんね」
「字も違うんですよ。ほら、これを見なさい」
アズールは懐から紙を取り出して二人に見せた。
双子は190越えの巨体を曲げてそれを覗き込んだ。二対のオッドアイが見開かれる。
「なに、この字?難しそー」
「書くのに難儀しそうな字ですね。こちらの言語とは全く違う」
「ちょっとしか文字ねえじゃん。これフルネーム?」
「ええ、フルネームですよ。それでヤマトミヤコと読むそうです。ヤマトがファミリーネームで、ミヤコがファーストネームだと仰っていました」
「俺らとは逆に書くってこと?」
「そうですね」
フロイドがその垂れた目を細めた。
どうやら少し興味が湧いたらしい。
「オレ、その子に会いに行っていい?」
「駄目ですよ、フロイド。彼女がこちらに慣れてくるまでは、アズール以外の人間との接触は避けるべきだと学園長が仰っていたでしょう」
「つまんねーの」
都の処置は、その後書面で各寮長に伝えられていた。
身柄はオクタヴィネル寮預かりとし、寮長が慣れてきたと判断するまでは一切の外出、寮長以外の人間との接触は禁止。また、彼女の存在は他言無用。伝達の紙も、読んだらすぐ消滅するような魔法がかかっていた。
大和 都という異世界人の存在を知るのは、基本的には学園長をはじめとする教師陣と各寮長のみだ。
オクタヴィネルのみ、身柄を預かる関係上副寮長のジェイドとその双子であるフロイドが知っている。
寮生には、「あの新入生は対人恐怖症を患っており、リモートで授業を受けている」ということにしていた。
「僕もお話したことがないんですけど、ミヤコさんはどんな方なんですか?そろそろこちらに来て一ヶ月が経ちますけど」
ジェイドがクッキーを齧りながら問う。
「ごく普通の女性です。素直で聞き分けがいいので、扱いやすいですよ。表情もわかりやすい」
アズールはポットから紅茶を注いだ。
「ただ、こちらも言語変換魔法を使わないと彼女の言葉を理解できないのが不安要素ですね。もしかしたら堂々ととんでもないことを言っているかもしれない」
「おやおや、それは大変だ」
ジェイドはくすくすと笑った。ちっとも大変だとは思っていない顔だ。
「彼女の肌の色や髪の色を見るに、おそらく東洋系の血筋の方でしょうね。骨格も小柄だ」
「じゃあ黒髪黒目で肌は黄色い感じなの?」
「ええ。僕らより肌は黄色味が強いですが、キメは細かいです。髪も黒でストレートだし」
「それは東洋系で間違いないでしょうね」
アズールは頷いた。
フロイドは更に興味を引かれたようで、「オレも会いたいー」とごねている。
アズールは子供用の本を某巨大通販サイトで注文した。
『たのしい伝記シリーズ3 うみのまじょ』や、『やってみよう!はじめてのれんきんじゅつ』、『よくわかるまほうし』などである。
もちろんこれらは都用だ。ただ参考書の例文を読むよりは、こういうものの方が少しは興味が湧く、というのをネットで読んだのだ。
一昨日頼んだ子供用アニメのBluRayも届いた。
正しい発音を学んだりやこちらの文化に触れたりするためにはうってつけだと踏んだジェイドの発案により、取り寄せられたものだ。
「現地点で彼女にかなりお金を使っていますけど、どう回収するおつもりなんです?」
「慣れてきたらラウンジの事務をやらせます。僕の側から離すわけにもいかないので、あまり派手に動き回らせることも出来ませんから」
「不便だねえ」
「ええ。しかしいきなり異世界に飛ばされて、言葉すらわからない状態に置かれたのは彼女の責任ではありません。コイントスで負けたのは僕なんですから、きっちり面倒は見ます」
それに、思ったよりも都は扱いやすくて、面倒を見るのはあまり苦にならない。
素直で特に暗くもなく、やかましくもなく、こちらが言語変換魔法さえ掛ければ受け答えはしっかりできる。怖気付くこともなく、かといって無謀なこともしない。
物騒で論外なヤバい双子と共に生きてきたアズールにとっては、彼女の相手をすることなんて簡単なことだ。
「そんなことより二人とも、この後の商談の支度は出来ましたか?」
「ええ。ばっちりです」
「完璧だよ」
「それならよろしい」
そう、あの素直で扱いやすい娘はどうだっていい。
アズール達は、これまでの人生の中で最も大きな野望を叶えようとしているのだから。
三人はまるで悪役のような笑みを浮かべ、部屋を出ていった。