これは恋か友情か
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それから一ヶ月。
リドル寮長とはそれなりに上手くいっている。
一緒に昼ご飯を食べて、勉強をして、他愛もないことを話す。
会話は終始穏やかで和やか。気があるんじゃないか説はやっぱりみんなの勘違いだったんじゃないかな。
寮長はもう顔を真っ赤にすることもどもることもない。多分あれは初めてのやり方で友達を作ろうとしてたから緊張してただけだろう。
「リドル寮長、お疲れ様です」
「ああ、お疲れ。今日はどうだった?」
「体力育成がありました。やっぱり疲れますね」
放課後。
渡したいものがあるから、ということで、私はリドル寮長のお部屋にお邪魔していた。
「これ、あげるよ」
「わあ、綺麗な薔薇ですね。ありがとうございます」
受け取ったのは赤い薔薇が4本、白い薔薇が1本の花束だ。棘はない。
5本の薔薇は「あなたに出会えたことへの心からの喜び」、赤薔薇の中に白薔薇は「打ち解けて仲がいい」、棘なしは「誠意、友情」を表す。
「意味はおわかりだね?」
「はい」
前に寮長が教えてくれたことだ。
私は心の中でハーツラビュル寮の気がある説の信者達にドヤ顔した。ほら、これめちゃくちゃ友情の花束じゃん。
「今日、この部屋の薔薇を変えたんだ。そのついでに、君にもなにかあげようと思ってね」
「ありがとうございます。嬉しいです」
お返し何にしようかな。やっぱりタルトかな。
小さいサイズで、ちょっと凝ったの作ってみようか。
「やっぱり綺麗な花はいいですね」
「そうだね。気に入ってくれて嬉しいよ」
寮長が笑う。可愛い。
「実は私のいた国、隠れた薔薇の国なんですよ」
「そうなのかい?」
「はい。私は異世界の日本という国……東の隅っこにある、小さな島国に住んでたんですけど」
実は、日本という国は薔薇を語る上で欠かせない国。現在4万種もの園芸品種がある薔薇の原種は主に8種あるんだけど、そのうちの2種は、なんと日本原産なのだ。
私はその話をリドル寮長にした。
「凄いね……。そんなに小さな国から、原種が二つも」
「はい。でも、自国ではあまり知られていないんです」
「それはもったいないね。凄いことなのに」
「日本の象徴とされてる桜という花も、バラ科なんですよ」
「ああ、あの裏庭の隅っこにある木のことかい?異世界の木だと聞いていたけれど、君のいた国のものだったのか」
「桜あるんですか?!」
驚いた。
「ああ。確かソメイヨシノとか言ったかな。いつの間にか生えてたらしいんだ。大昔の書物を漁って、ようやく見つけたんだよ」
リドル寮長は戸棚からノートを取り出した。
「これには植物を纏めてあるんだけどね。ほら、ここに……」
開いた所には、確かにソメイヨシノの花が押し花になって貼り付けられていた。
そして『ソメイヨシノ 異世界発祥の花と思われる。詳細は不明』という記述。
「ソメイヨシノは今から100年以上前に、日本で育成された園芸品種です。そこの名前をとってソメイヨシノとつけられました」
「そうだったのか……」
「今でも日本にはたくさん生えてるんですけど、それは全部1本の木から接ぎ木で広がったクローンなんです。だから、春になると一斉に咲きます」
「へえ、詳しいんだね」
「祖母が好きだったので」
「そうか。ちょっと待ってて、追加するから」
リドル寮長はノートに私の言ったことを書き足していく。
「実はこの世界の花は、発祥が不明なものが多いんだ。もしかしたら、君のいた世界からきたのかもしれないね」
「そうですね。薔薇も見たところあっちと同じような品種も多いですし」
私と同じように、植物も何かの拍子に渡ってきたのだろうか。
もしかしたら、そこに帰れるヒントが隠されてたりするのかな。
そんなことを思っていると、部屋のドアがコンコンとノックされた。
「リドル寮長、いらっしゃいますか?」
「ああ。いるよ」
「失礼します」
入ってきたのはハーツラビュル寮生だ。
「談話室の方で問題が……」
「何が起こったんだい?」
あー、これは長引くやつだ。帰った方がいいだろうな。
「あの、寮長。私これでお暇しますね。薔薇、ありがとうございました」
「あ、ああ。気をつけてお帰り。送ってあげられなくて済まないね」
「いえいえ。では、失礼しました」
私はその場を退出して、オンボロ寮に帰った。
「ほんとに友情なのか?」
グリムは花束を見て唸った。
「全部友情とかそういう意味だよ。渡す時だって自然だったし」
とにかく、リドル寮長は私にそんな気は起こさないのだ。
あんなに頭が良くて綺麗な人が、有り得ない。
私は彼より背は10cm高いし、髪は短いし、顔だってよく性別が分からないと言われる。体だって骨格がしっかりしすぎて女らしさには欠けるし、声も低い。
この見た目のおかげで男子校の中でやっていけてるわけだけど、女としての魅力はゼロ。
性格だって大雑把で適当で、細やかさなんて全くない。ついでに女子力もない。
つまり、好かれる要素がないのだ。
人間としてヤバい、という訳でも無いだろうけど、魅力的かと言われるとそうではない。
そんな女に、あの綺麗な顔をした、運動神経も頭脳も恵まれた人が恋をするか?いや、しない。
おまけにこちらは異世界出身で、身寄りすらないのだ。一緒にいても利点はない。
「でも、あいつお前のこと好きそうなんだゾ?」
「気の所為だってば」
「バラなんだゾ?」
「薔薇の花束っていうのは色んなパーツや色の取り合わせに意味があるの。これはどことっても友情の花束だよ」
「そうなのか?」
「そう」
グリムは恋愛説の支持者だから、そういう風に見えるだけだ。
リドル寮長はなんだかんだでスマートにキメそうなところあるし、もしなにかあるならこういう物に意味を隠して伝えてくると思う。
首を傾げるモンスターにそう力説して、私は花束を花瓶にいけた。
ハーツラビュルの薔薇は特に美しい。
寮長がしっかり監督して、適切なお世話をしているからだろう。
「異世界の花か……」
前から思っていた。
この世界と元いた世界は、魔法の有無という大きな違いがあるのに、食事や植物は共通しているものが多いのだ。
この薔薇もそう。リドル寮長のお話だと、学園内に桜の木もあるという。
もしかして、案外近い?
「……調べてみよう」
たくさんの資料を読んできたけれど、植物からアプローチするというのは今までやってこなかった。
もしかしたら、元いた世界に帰る方法が見つかるかもしれない。
私はポケットのメモ帳に「植物の歴史を漁る」と記入して、食事の支度を始めた。
リドル寮長とはそれなりに上手くいっている。
一緒に昼ご飯を食べて、勉強をして、他愛もないことを話す。
会話は終始穏やかで和やか。気があるんじゃないか説はやっぱりみんなの勘違いだったんじゃないかな。
寮長はもう顔を真っ赤にすることもどもることもない。多分あれは初めてのやり方で友達を作ろうとしてたから緊張してただけだろう。
「リドル寮長、お疲れ様です」
「ああ、お疲れ。今日はどうだった?」
「体力育成がありました。やっぱり疲れますね」
放課後。
渡したいものがあるから、ということで、私はリドル寮長のお部屋にお邪魔していた。
「これ、あげるよ」
「わあ、綺麗な薔薇ですね。ありがとうございます」
受け取ったのは赤い薔薇が4本、白い薔薇が1本の花束だ。棘はない。
5本の薔薇は「あなたに出会えたことへの心からの喜び」、赤薔薇の中に白薔薇は「打ち解けて仲がいい」、棘なしは「誠意、友情」を表す。
「意味はおわかりだね?」
「はい」
前に寮長が教えてくれたことだ。
私は心の中でハーツラビュル寮の気がある説の信者達にドヤ顔した。ほら、これめちゃくちゃ友情の花束じゃん。
「今日、この部屋の薔薇を変えたんだ。そのついでに、君にもなにかあげようと思ってね」
「ありがとうございます。嬉しいです」
お返し何にしようかな。やっぱりタルトかな。
小さいサイズで、ちょっと凝ったの作ってみようか。
「やっぱり綺麗な花はいいですね」
「そうだね。気に入ってくれて嬉しいよ」
寮長が笑う。可愛い。
「実は私のいた国、隠れた薔薇の国なんですよ」
「そうなのかい?」
「はい。私は異世界の日本という国……東の隅っこにある、小さな島国に住んでたんですけど」
実は、日本という国は薔薇を語る上で欠かせない国。現在4万種もの園芸品種がある薔薇の原種は主に8種あるんだけど、そのうちの2種は、なんと日本原産なのだ。
私はその話をリドル寮長にした。
「凄いね……。そんなに小さな国から、原種が二つも」
「はい。でも、自国ではあまり知られていないんです」
「それはもったいないね。凄いことなのに」
「日本の象徴とされてる桜という花も、バラ科なんですよ」
「ああ、あの裏庭の隅っこにある木のことかい?異世界の木だと聞いていたけれど、君のいた国のものだったのか」
「桜あるんですか?!」
驚いた。
「ああ。確かソメイヨシノとか言ったかな。いつの間にか生えてたらしいんだ。大昔の書物を漁って、ようやく見つけたんだよ」
リドル寮長は戸棚からノートを取り出した。
「これには植物を纏めてあるんだけどね。ほら、ここに……」
開いた所には、確かにソメイヨシノの花が押し花になって貼り付けられていた。
そして『ソメイヨシノ 異世界発祥の花と思われる。詳細は不明』という記述。
「ソメイヨシノは今から100年以上前に、日本で育成された園芸品種です。そこの名前をとってソメイヨシノとつけられました」
「そうだったのか……」
「今でも日本にはたくさん生えてるんですけど、それは全部1本の木から接ぎ木で広がったクローンなんです。だから、春になると一斉に咲きます」
「へえ、詳しいんだね」
「祖母が好きだったので」
「そうか。ちょっと待ってて、追加するから」
リドル寮長はノートに私の言ったことを書き足していく。
「実はこの世界の花は、発祥が不明なものが多いんだ。もしかしたら、君のいた世界からきたのかもしれないね」
「そうですね。薔薇も見たところあっちと同じような品種も多いですし」
私と同じように、植物も何かの拍子に渡ってきたのだろうか。
もしかしたら、そこに帰れるヒントが隠されてたりするのかな。
そんなことを思っていると、部屋のドアがコンコンとノックされた。
「リドル寮長、いらっしゃいますか?」
「ああ。いるよ」
「失礼します」
入ってきたのはハーツラビュル寮生だ。
「談話室の方で問題が……」
「何が起こったんだい?」
あー、これは長引くやつだ。帰った方がいいだろうな。
「あの、寮長。私これでお暇しますね。薔薇、ありがとうございました」
「あ、ああ。気をつけてお帰り。送ってあげられなくて済まないね」
「いえいえ。では、失礼しました」
私はその場を退出して、オンボロ寮に帰った。
「ほんとに友情なのか?」
グリムは花束を見て唸った。
「全部友情とかそういう意味だよ。渡す時だって自然だったし」
とにかく、リドル寮長は私にそんな気は起こさないのだ。
あんなに頭が良くて綺麗な人が、有り得ない。
私は彼より背は10cm高いし、髪は短いし、顔だってよく性別が分からないと言われる。体だって骨格がしっかりしすぎて女らしさには欠けるし、声も低い。
この見た目のおかげで男子校の中でやっていけてるわけだけど、女としての魅力はゼロ。
性格だって大雑把で適当で、細やかさなんて全くない。ついでに女子力もない。
つまり、好かれる要素がないのだ。
人間としてヤバい、という訳でも無いだろうけど、魅力的かと言われるとそうではない。
そんな女に、あの綺麗な顔をした、運動神経も頭脳も恵まれた人が恋をするか?いや、しない。
おまけにこちらは異世界出身で、身寄りすらないのだ。一緒にいても利点はない。
「でも、あいつお前のこと好きそうなんだゾ?」
「気の所為だってば」
「バラなんだゾ?」
「薔薇の花束っていうのは色んなパーツや色の取り合わせに意味があるの。これはどことっても友情の花束だよ」
「そうなのか?」
「そう」
グリムは恋愛説の支持者だから、そういう風に見えるだけだ。
リドル寮長はなんだかんだでスマートにキメそうなところあるし、もしなにかあるならこういう物に意味を隠して伝えてくると思う。
首を傾げるモンスターにそう力説して、私は花束を花瓶にいけた。
ハーツラビュルの薔薇は特に美しい。
寮長がしっかり監督して、適切なお世話をしているからだろう。
「異世界の花か……」
前から思っていた。
この世界と元いた世界は、魔法の有無という大きな違いがあるのに、食事や植物は共通しているものが多いのだ。
この薔薇もそう。リドル寮長のお話だと、学園内に桜の木もあるという。
もしかして、案外近い?
「……調べてみよう」
たくさんの資料を読んできたけれど、植物からアプローチするというのは今までやってこなかった。
もしかしたら、元いた世界に帰る方法が見つかるかもしれない。
私はポケットのメモ帳に「植物の歴史を漁る」と記入して、食事の支度を始めた。