これは恋か友情か
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リドル寮長に懐かれた。
原因はわかってる。この前のオーバーブロット事件だ。
あの時寮長は黒いオーラを全身から吹き出し、寮の庭をめちゃくちゃに荒らして大暴れした。
エースやトレイ先輩の尽力で何とか一命を取り留め、意識が回復したその場で号泣。
「本当はもっとトレイ達と遊びたかった」「タルトが食べたかった」「本当はレモンティーよりミルクティーの方が好き」等と本音を語り、謝罪の言葉を口にした。
空気を読まないエースの要求も「うん……わかった」と可愛くこくんと頷いて了承し、後日ちゃんとタルトを完全に自力で作って持ってきて、今までの横暴な振る舞いを寮生の前で公式的に謝罪したのだ。
それ以来リドル寮長はかなり丸くなり、ハーツラビュル寮はそれまでの秩序を保ちつつも温かく、居心地の良い寮へと変化を遂げた。
それはいいのだ。
問題は、私にリドル寮長が懐いたことなのだ。
私はオーバーブロット事件の時はその場で見ていただけの人間だ。魔法が使えないのに戦えるとはとても思えなかったから。
私がやったことといえば、全てが終わった後にギャン泣きする寮長にハンカチを渡したことと、体力も魔力も使い果たして暫く寝込んでいた彼のところに定期的にお見舞いにいったこと。
それだけだ。
人間であれば当然の振る舞いをしたまでである。
懐かれるようなことをした訳では無い。
そりゃあ嫌われはしないだろうけど、目の前で乙女の如く照れた可愛い顔を向けられ、赤薔薇の蝋印が押された素敵な封筒を渡される程に好感を覚えるようなことだろうか。
「あの……これは?」
「こ、この前のお礼状だよ。君にも迷惑をかけてしまったからにぇっ」
噛んだ……。
そんなに緊張してたのかな……。
「あ、あと、えと、これはこの前借りたハンカチとお菓子だよ」
そして小さな紙袋を渡される。
ハンカチ一枚にしては重いので中をちらっと見てみると、どうやらお菓子が入ってるらしい。
「トレイのお店のマカロンなんだ。口に合うと良いんだが」
「ありがとうございます」
はにかんだように笑うリドル寮長。
事件前までは考えられないような、柔らかい表情だ。可愛らしい。
「じ、じゃあ、ボクはこの後寮の仕事があるから行くね」
「はい。ありがとうございました。お仕事頑張ってくださいね」
「あっ、ああ。当然だ」
終始金魚のように赤くなっていた寮長が退出すると、私はその場のソファに座り込んだ。
「オレ様が帰ってきたんだゾ!……なんだそれ?」
リドル寮長からの要望により、席を外してもらってたグリムが帰ってきた。
「おかえりグリム。ありがとね」
「あとでツナ缶一つだゾ!それ、もらったのか?」
「うん。お礼状とお菓子だって」
テーブルに紙袋を置き、お礼状をランプの光に透かす。
蝋印のお手紙なんて初めてだ。どうやって開くんだろう。
ビリビリ無作法に開けるのも気が引けるので、なにか開けるものを捜索。発見したペーパーナイフで便箋を切らないように開封して中身に目を通した。
内容は丁寧で礼儀正しいお礼状だ。事件の謝罪とハンカチのお礼が、リドル寮長の綺麗な字で書かれている。
そして、何も書かれていない便箋が一枚。
なにこれ?
裏を見てもなにも書いてない。
しかし、よく見てみると、何かがうっすらと書かれていることがわかった。
まさかこれはアレだろうか。探偵とかがやりそうなやつ。
「火ならオレ様が出すゾ?」
「グリムは天才だから出力凄すぎて燃えちゃう。今回はこれでやるよ」
私はランプのガラスを外して蝋燭の火に便箋を翳した。
すると、案の定字がじんわりと浮き上がってくる。
牛乳文字の炙り手紙だ。
これマジでやる人いるのか……寮長パネェ……と読んでみると、内容の可愛さに思わずしゃがみこんでしまった。
『たくさん迷惑をかけておいて、こんなことを言うのは本当はルール違反なのかもしれないけれど、君がもし嫌ではなかったら、友達になってください。リドル・ローズハート』
「……あいつ、素直じゃないんだぞ」
普通に書けないなんて、とグリムが言った。
赤面した寮長の顔が脳裏を過る。
きっとこの文を書く時、彼は酷く苦労したに違いない。この便箋の内容が恥ずかしくて、わざわざ牛乳文字なんて使って、それでも伝えたかったのだろう。私が気づかなかったらそのままスルーされる可能性だってあった。
だから彼は、あんなに照れていたのだ。
「寮長めちゃくちゃ可愛い……萌え……」
ハーツラビュル寮羨ましい……こんなに可愛い寮長がいて心底羨ましい……。
取り敢えずこの手紙は家宝にするということで、鞄の中に大切に仕舞った。
それから三日後。
週休を経てグリムと学園に登校して教室に到着すると、戸口の前にトレイ先輩とケイト先輩が何だか凄い顔をして立っていた。
「ユウ。ちょっと」
「は、はい……」
なんかやらかしたっけ。
「なんなんだぞー?」と着いてこようとするグリムは置いていくように言われ、何とか宥めて先輩達の後を追う。
人気のないところまで来た時、慌てて過去の言動を振り返る私に、トレイ先輩がとても深刻な顔をして切り出した。
「リドルの様子がおかしい」
「寮長がですか?」
あの後何かあったのかな。もしかして私の態度が気に入らなかったとか?
マジか謝罪行かなきゃ……と軽く凹みそうになっていると、ケイト先輩がニヤニヤしながら付け足す。
「「大丈夫かな、ちゃんと読んでもらえただろうか」とか言って、ずっとソワソワしてるんだよね。ちょっと顔も赤いし」
「……あー……」
あの手紙のことだろう。
牛乳文字なんて気づかれづらい方法を採用したものだから、もしかしたらスルーされているかもしれないと考えているに違いない。可愛いな。
「あの、実は先週リドル寮長からお手紙を頂きまして」
「手紙?」
「今現物ありますよ」
「え、マジ?見せて見せて」
私は鞄からあの素敵な封筒を出して二人に渡した。
「なるほど、あの事件の時の詫びと礼状か……それとこれは……炙り手紙?」
「牛乳文字の炙り手紙でした」
「……リドルくんめちゃくちゃ可愛いねこれ」
「これが伝わったかどうか気にしてたのか」
「多分そうだと思います。気づかない可能性もあったし」
「そうか、それであんなに……」
トレイ先輩は頷いた。
「リドル寮長、そんなにそわそわしてたんですか?」
「それはもう珍しいくらいにな」
なにそれ見たい。絶対可愛い。
「これ、ちゃんと読みましたって伝えるべきですよね」
「ああ。昼休みにでも伝えてやってくれ」
「そうします」
「ちなみに、友達にはなるの?」
ケイト先輩の問いに、私は「はい」と間髪入れずに頷いた。
「相手は二年の先輩ですし、寮長ですけど。礼節を守ってお友達になろうかなと」
「うんうん。いいねいいね」
ニヤニヤする先輩。何故だ。
何か変なことを勘ぐってるんだろうけど、リドル寮長ならお友達になってくださいって手紙くらい出しそうじゃないか。真面目だし、今までこの二人の先輩以外に友達はいなかったと聞くし。
「じゃあ、昼休みに伝えます。先輩方、予鈴まであと五分ですよ」
「お、それはまずいな。じゃあオレら行くわ」
「じゃあな」
「はい」
私も急いで教室に戻ると、グリムがぽんと胸元に飛び込んできた。
「長かったんだゾ!何の話をしてたんだ?」
「あの手紙について」
「返事が欲しいって言われたのか?」
「まあそんなところ。昼休みに伝えるよ」
「返事は早い方がいいから、それがいいと思うんだゾ」
うんうん頷くグリムの頭を一撫でして、私は授業の準備を始めた。
原因はわかってる。この前のオーバーブロット事件だ。
あの時寮長は黒いオーラを全身から吹き出し、寮の庭をめちゃくちゃに荒らして大暴れした。
エースやトレイ先輩の尽力で何とか一命を取り留め、意識が回復したその場で号泣。
「本当はもっとトレイ達と遊びたかった」「タルトが食べたかった」「本当はレモンティーよりミルクティーの方が好き」等と本音を語り、謝罪の言葉を口にした。
空気を読まないエースの要求も「うん……わかった」と可愛くこくんと頷いて了承し、後日ちゃんとタルトを完全に自力で作って持ってきて、今までの横暴な振る舞いを寮生の前で公式的に謝罪したのだ。
それ以来リドル寮長はかなり丸くなり、ハーツラビュル寮はそれまでの秩序を保ちつつも温かく、居心地の良い寮へと変化を遂げた。
それはいいのだ。
問題は、私にリドル寮長が懐いたことなのだ。
私はオーバーブロット事件の時はその場で見ていただけの人間だ。魔法が使えないのに戦えるとはとても思えなかったから。
私がやったことといえば、全てが終わった後にギャン泣きする寮長にハンカチを渡したことと、体力も魔力も使い果たして暫く寝込んでいた彼のところに定期的にお見舞いにいったこと。
それだけだ。
人間であれば当然の振る舞いをしたまでである。
懐かれるようなことをした訳では無い。
そりゃあ嫌われはしないだろうけど、目の前で乙女の如く照れた可愛い顔を向けられ、赤薔薇の蝋印が押された素敵な封筒を渡される程に好感を覚えるようなことだろうか。
「あの……これは?」
「こ、この前のお礼状だよ。君にも迷惑をかけてしまったからにぇっ」
噛んだ……。
そんなに緊張してたのかな……。
「あ、あと、えと、これはこの前借りたハンカチとお菓子だよ」
そして小さな紙袋を渡される。
ハンカチ一枚にしては重いので中をちらっと見てみると、どうやらお菓子が入ってるらしい。
「トレイのお店のマカロンなんだ。口に合うと良いんだが」
「ありがとうございます」
はにかんだように笑うリドル寮長。
事件前までは考えられないような、柔らかい表情だ。可愛らしい。
「じ、じゃあ、ボクはこの後寮の仕事があるから行くね」
「はい。ありがとうございました。お仕事頑張ってくださいね」
「あっ、ああ。当然だ」
終始金魚のように赤くなっていた寮長が退出すると、私はその場のソファに座り込んだ。
「オレ様が帰ってきたんだゾ!……なんだそれ?」
リドル寮長からの要望により、席を外してもらってたグリムが帰ってきた。
「おかえりグリム。ありがとね」
「あとでツナ缶一つだゾ!それ、もらったのか?」
「うん。お礼状とお菓子だって」
テーブルに紙袋を置き、お礼状をランプの光に透かす。
蝋印のお手紙なんて初めてだ。どうやって開くんだろう。
ビリビリ無作法に開けるのも気が引けるので、なにか開けるものを捜索。発見したペーパーナイフで便箋を切らないように開封して中身に目を通した。
内容は丁寧で礼儀正しいお礼状だ。事件の謝罪とハンカチのお礼が、リドル寮長の綺麗な字で書かれている。
そして、何も書かれていない便箋が一枚。
なにこれ?
裏を見てもなにも書いてない。
しかし、よく見てみると、何かがうっすらと書かれていることがわかった。
まさかこれはアレだろうか。探偵とかがやりそうなやつ。
「火ならオレ様が出すゾ?」
「グリムは天才だから出力凄すぎて燃えちゃう。今回はこれでやるよ」
私はランプのガラスを外して蝋燭の火に便箋を翳した。
すると、案の定字がじんわりと浮き上がってくる。
牛乳文字の炙り手紙だ。
これマジでやる人いるのか……寮長パネェ……と読んでみると、内容の可愛さに思わずしゃがみこんでしまった。
『たくさん迷惑をかけておいて、こんなことを言うのは本当はルール違反なのかもしれないけれど、君がもし嫌ではなかったら、友達になってください。リドル・ローズハート』
「……あいつ、素直じゃないんだぞ」
普通に書けないなんて、とグリムが言った。
赤面した寮長の顔が脳裏を過る。
きっとこの文を書く時、彼は酷く苦労したに違いない。この便箋の内容が恥ずかしくて、わざわざ牛乳文字なんて使って、それでも伝えたかったのだろう。私が気づかなかったらそのままスルーされる可能性だってあった。
だから彼は、あんなに照れていたのだ。
「寮長めちゃくちゃ可愛い……萌え……」
ハーツラビュル寮羨ましい……こんなに可愛い寮長がいて心底羨ましい……。
取り敢えずこの手紙は家宝にするということで、鞄の中に大切に仕舞った。
それから三日後。
週休を経てグリムと学園に登校して教室に到着すると、戸口の前にトレイ先輩とケイト先輩が何だか凄い顔をして立っていた。
「ユウ。ちょっと」
「は、はい……」
なんかやらかしたっけ。
「なんなんだぞー?」と着いてこようとするグリムは置いていくように言われ、何とか宥めて先輩達の後を追う。
人気のないところまで来た時、慌てて過去の言動を振り返る私に、トレイ先輩がとても深刻な顔をして切り出した。
「リドルの様子がおかしい」
「寮長がですか?」
あの後何かあったのかな。もしかして私の態度が気に入らなかったとか?
マジか謝罪行かなきゃ……と軽く凹みそうになっていると、ケイト先輩がニヤニヤしながら付け足す。
「「大丈夫かな、ちゃんと読んでもらえただろうか」とか言って、ずっとソワソワしてるんだよね。ちょっと顔も赤いし」
「……あー……」
あの手紙のことだろう。
牛乳文字なんて気づかれづらい方法を採用したものだから、もしかしたらスルーされているかもしれないと考えているに違いない。可愛いな。
「あの、実は先週リドル寮長からお手紙を頂きまして」
「手紙?」
「今現物ありますよ」
「え、マジ?見せて見せて」
私は鞄からあの素敵な封筒を出して二人に渡した。
「なるほど、あの事件の時の詫びと礼状か……それとこれは……炙り手紙?」
「牛乳文字の炙り手紙でした」
「……リドルくんめちゃくちゃ可愛いねこれ」
「これが伝わったかどうか気にしてたのか」
「多分そうだと思います。気づかない可能性もあったし」
「そうか、それであんなに……」
トレイ先輩は頷いた。
「リドル寮長、そんなにそわそわしてたんですか?」
「それはもう珍しいくらいにな」
なにそれ見たい。絶対可愛い。
「これ、ちゃんと読みましたって伝えるべきですよね」
「ああ。昼休みにでも伝えてやってくれ」
「そうします」
「ちなみに、友達にはなるの?」
ケイト先輩の問いに、私は「はい」と間髪入れずに頷いた。
「相手は二年の先輩ですし、寮長ですけど。礼節を守ってお友達になろうかなと」
「うんうん。いいねいいね」
ニヤニヤする先輩。何故だ。
何か変なことを勘ぐってるんだろうけど、リドル寮長ならお友達になってくださいって手紙くらい出しそうじゃないか。真面目だし、今までこの二人の先輩以外に友達はいなかったと聞くし。
「じゃあ、昼休みに伝えます。先輩方、予鈴まであと五分ですよ」
「お、それはまずいな。じゃあオレら行くわ」
「じゃあな」
「はい」
私も急いで教室に戻ると、グリムがぽんと胸元に飛び込んできた。
「長かったんだゾ!何の話をしてたんだ?」
「あの手紙について」
「返事が欲しいって言われたのか?」
「まあそんなところ。昼休みに伝えるよ」
「返事は早い方がいいから、それがいいと思うんだゾ」
うんうん頷くグリムの頭を一撫でして、私は授業の準備を始めた。
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