第二章
夢小説設定
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夜がかなり更けた頃、陣内左衛門は久しぶりに家へ帰った。もう休んでいるだろう妻を起こさぬよう静かに入るが、ぼんやりと月を眺める華の横顔が目に入る。
その顔がどこか憂いを帯びていて、儚げで美しくも消えそうな雰囲気に陣内左衛門は声もかけずに見入った。
「あ…」
視線に気がついた華がこちらを振り返り丁寧に
「お帰りなさいませ」
と言った。
「……月にお帰りになるおつもりか」
ふと、思わず口にしてしまった言葉の意味を飲み込んで陣内左衛門は恥ずかしくなった。
「あ、いや、すみません。らしくないことを…」
「竹取の物語ですか」
華は気にした様子もなく尋ねる。
「……はい。月明かりを浴びた貴女が美しかったので」
「そんな、私には勿体無いです」
「何故、そう謙遜なさるんです。私は思ったことを言っているだけですよ。それに、柄にもなく物語に喩えるなどしてしまってこっちも恥ずかしいのですから、否定しないでいただけると助かるのですが」
陣内左衛門がそう言うと、ふたりは顔を見合わせて笑った。
「華さん、只今戻りました。数日空けてしまいましたが変わりなかったですか?」
「はい。陣内左衛門様は……」
と言いかけて華は口をつぐんだ。忍務のことを聞いてはいけないと思ったのだろう。
「私はこの通り何事もありません。華さんはもう休んでいるかと思ったのですが、こうして顔を合わせることができて嬉しく思っています」
華の顔がぽっと赤らんだ。
「ところで、何故こんな遅くまで?眠れませんか。やはり何かあったのですか?」
「いえ、何も」
「隠すのが下手です」
「……っ」
「ほら、やっぱりそうでしょう」
華の歪んだ表情を見て、陣内左衛門は優しく背を抱いた。彼女の肩が少し震えるのが分かった。
「すみません。責めているわけではありません」
「あ、の……志乃様、の………っ」
華がその先の言葉に詰まる。言おうにも声が震えて音が続かない。何かを恐れているような、そんな感じだ。
志乃のことを聞きたいのか。
それとも華自身が何か知っているのか。
しかし……
「志乃のことでしたら大丈夫です。きちんと調査もされるでしょうし、すぐに疑いは晴れますよ」
陣内左衛門は咄嗟にそう答えた。
言わせてはいけない、と感じた。
華が志乃の件について何か知っているとして、彼女の状態を見るにそれを口にすることは何かしらの犠牲が伴うものなのだろう。
彼女の心を壊したくはない。
そう思いながら陣内左衛門は華の口を半ば強引に自身の口で塞いだ。
*****
受け入れてはくれたが、無理に抱いてしまった気がする。
陣内左衛門は気を失うように眠ってしまった妻を見た。頬に涙の痕がある。申し訳ない気持ちに苛まれた。
優しくて気の遣いすぎるこの若い妻に、できる限り丁寧に穏やかに接したいと思っている。今回だって何も言わせないために強引に口を塞ぎはしたが、その後は優しく触れるつもりでいた。しかし華の肌に触れたら火が着いた。そこからは、もう本能のままにふるまったと言って良い。
これは、己としたことが溺れているのかと不安が過る。それとも、気が立っているのか。
ここ最近、弟のような存在であった尊奈門に諭されてばかりで情けない。組頭の意図が何にせよ、組頭の為に自らが動くという提案を彼に言われてしまうとは…
しかしやらないという選択肢はない。
タソガレドキは組頭率いる忍軍あってこそだ。組頭無くしては、この城はもたない。殿もそれはご存知のはずだ。
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