第二章
夢小説設定
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開け放たれた戸から見るからに落ち込んでいる背中が見える。
陣内左衛門と尊奈門は昆奈門に呼び出されタソガレドキ城内の居室にやって来たが、入るに入れず入口でまごついていた。
「高坂さん、どうします?あの落ち込みよう、尋常じゃないですよ。例の件がかなり堪えているんですかね…」
尊奈門の言葉を陣内左衛門はただ黙って聞いていた。
昆奈門が志乃を信頼していないはずはないと理解しているが、どうしても"この身体で子ができるとは思わなかった"という昆奈門の言葉が陣内左衛門の脳内から離れなかった。
無論、志乃が不義を働くような女でないことは重々承知している。しかし、組頭自身がもしほんの少しでも疑念を持っているのだとしたら、それは……
「陣左、尊奈門、いつまでそこにいるの」
とっくに来ていることには気がついていたようで、昆奈門がくるりと振り返り言った。その表情は思いの外いつも通りだ。
ふたりは顔を見合わせた後、頭を下げて室に入った。
「急に呼び立ててすまない。ふたりに言っておくことがあってね」
「はっ」
「例の件は知っているだろう?その責任もあって私もしばらくおおっぴらに動くことができなくなってしまった。今は陣内が全体をまとめてくれてはいるけどね、殿の命があったとしても忍軍自体動かすのにちょっと手間が増えることになってしまったんだ」
これまでは城主命令に対して直接昆奈門の采配ひとつで忍軍を動かせたのが、そうはいかなくなったのだ。要は城主周辺のお偉方が中に入るということだった。
殿は面倒くさがっていたが、「今まで雑渡の手腕に頼り過ぎたやもしれん」と山本陣内に洩らしたとも陣内左衛門は聞いていた。
「それで、狼隊はしばらく陣内が忙しいから、陣左と尊奈門が中心となってまとめてもらいたいのだが、良いか」
昆奈門の命に陣内左衛門は即座に返事をしたが、尊奈門は黙って顔を上げていた。
「ん、尊奈門は承知しないか」
昆奈門が咎めるでもなく尊奈門の顔を見やる。
「いえ、承知しました。しかし……」
「どうした」
「私はてっきり秘密裏に例の噂の調査をせよと言われるかと」
昆奈門と陣内左衛門は軽く目を見開いた。
「尊奈門、噂というものは一度出てしまえば消し去ることなどできないよ」
「では、組頭はどのようにお考えでいらっしゃるのですか?この先、志乃をどうするおつもりで」
「尊奈門っ!」
陣内左衛門は咎めようとしたが、昆奈門に制されて黙るしかなかった。
「お前は素直だねぇ。陣左も、正直気にしていると見える。そうだなぁ…」
昆奈門は一度目を伏せてからまた二人に向き直り、言った。
「噂が本当であっても、私は志乃を手離すつもりはないよ。志乃の子は私の子だ。そうだね、相手の男を消したら不義など無かったことになるだろうか?それならば、その任を君らにお願いするとしようかな。本当は自らやらねば気が済まぬところだが、動けないから仕方がない。どうだ、やってくれるか?」
陣内左衛門は息を飲んだ。口調は穏やかだが殺気立っている。
雑渡昆奈門は、私情で部下を使うことは絶対にない。しかし志乃への執着ともいえる感情が見え、陣内左衛門は返答に戸惑った。
「冗談でしょう?志乃が組頭を裏切るわけないじゃないですか」
尊奈門があっけらかんと言うのを聞いて、力が抜けた。改めて組頭を見ると、先程出ていた殺気が消えている。
「ん、よく分かってるじゃないか。志乃は約束を違えるような女じゃない。ただ、私が個人的に動けない以上今は何もできない。お前たちに直接働きかけることはないよ。実質謹慎の身だからね」
昆奈門は穏やかにそう言うと、ふたりをあまり長居させるのも良くないからと、室から出した。
室を離れると、尊奈門がぽつりと言う。
「これは忍務ですよ、高坂さん。この噂の出所を探りましょう!組頭がわざわざ"直接働きかけることはない"と言ったんですよ?なら我々が勝手にやる分には問題ないということです」
「……それは、お前の勝手な解釈だ。組頭が隊をまとめろとおっしゃったのを忘れたか」
「"ふたり"でまとめれば良いんですから、交代で動けます。高坂さんは、組頭の名誉を傷つけられて何もせずにいるつもりですか」
尊奈門の挑発的な言葉に、陣内左衛門は沸き上がるものを抑えて長く息を吐いた。
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