第二章
夢小説設定
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志乃軟禁の件は瞬く間に城内外に知れ渡った。当然、華の耳にも入ってきている。それ以来、陣内左衛門は家に戻ってきていない。
華は夫不在の不安もあるが、何かせずにはおられず、情報を得られないかと再び実家であるアカツキ屋へ赴いた。
志乃不義の噂を初めて聞いたのが実家であるアカツキ屋であったということ、それからタソガレドキ城と取引があり商家は人の出入りが多いという点で、詳細まで伝わっているのではないかと考えた為である。
そして何よりも、志乃の名を出したときの母の反応に感じた違和感がずっと引っ掛かっている。それを確かめようとせずにはいられなかった。
「父上様、母上様、お時間をいただきありがとうございます」
華は丁寧過ぎるほどの礼を尽くし両親に向かい合った。
「この度の件について…」
「お前の耳に入れることは何もない」
華が言い終わる前に父がぴしゃりと遮った。それでも華は引かなかった。
「し、しかし私はタソガレドキ忍軍の高坂様に嫁いだ身であるので、何かできることを」
「何を探りに来たのか、お前なぞにできることなどないわ。ただタソガレドキに害をなす女が捕えられただけのこと」
父の言い方には悪意がある。
華はふと雑渡家を訪問したときのことを脳裏に思い浮かべた。そしてふたりを信頼し敬愛する陣内左衛門を。
「……志乃様は不義を働くような御方ではありません」
華はこう、両親に向かってはっきりとした口調で言った。
すると母は、珍しく意見する娘に驚きの表情を見せたが、父は立ち上がり冷たい目で見下ろし、口を開いた。
「ただ一度会っただけで何を知ったように」
「それならばっ、父上様は志乃とお会いになったことはないでしょう?それに…私が噂を初めて耳にしたのはこの場所でした。二月ほど前…まだ噂が町に出回るより前です」
華は両手を握りしめて睨み付けるように父を見上げた。初めての反抗ともいえる自分の態度に華自信が驚いていた。
「…………この件、我が家が噛んでいるとでも思っているのか」
それはゾッとするほど低い声だった。
華は、父が今まで自分に無関心だったと思っていただけに、今初めて向けられた父からの関心が"憎悪"の感情であることに身が竦んだ。怖い。
縋るように母の方を見ると、母は表情もなくこちらと目を合わせることなくただ父を見ていた。
「この件、今後一切口にすることは許さぬぞ。できぬのなら娘と言えど」
「あなた…」
父の言葉の続きを母が制し、
「華、もう帰りなさい」
と華を出口へと促した。
「勘助、華を近くまで送っていって」
「かしこまりました」
母に呼ばれ、 浅黒い肌に短い黒髪の使用人が出てきて頭を垂れた。
「勘助と申します。華お嬢様、参りましょう」
手を引かれ言われるがまま連れられて家を出た。華は勘助と名乗った男をちらと見る。この使用人は見覚えがない。家の者とはいえ見ず知らずの人に送られるのは気が引けた。
「あ、あの、勘助さん…私はひとりで帰れますので……」
「大丈夫ですよ。私は最近入ったばかりの新人ですが、こう見えて腕っぷしはありますので護衛くらいはできます。それに奥様の命でございますから」
勘助は華の顔をじっと見た。
「お顔色が良くない」
そう言うと声を潜めた。
「……しばらくの間あの家には近付かぬ方がよろしいですよ。今は兄君も遠方に出ておりご不在ゆえ」
勘助はそれきり口を閉ざした。
華も言われたことの意味を考えながらも口を開くことはしなかった。
しばらく歩くと、山本家の子どもたちが見えた。すると勘助は立ち止まり華の歩みが止まるのを待った。
「ご自宅が見えてきましたゆえ、私はこれにて失礼しましょう。お嬢様、どうぞその身をお大事になさってください。貴女様のことを想っている者がいることを忘れずに」
華は深々と頭を下げる勘助を見て、「ありがとう」と言ってから歩を進めたが、ふと思い立って後ろを振り返ると、もうそこに勘助の姿は無かった。