第二章
夢小説設定
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志乃がタソガレドキ城内に軟禁されたという話は梅の香城にまで届いていた。
梅の香城主直属の忍衆のひとりとして働く立花仙蔵はいち早くこの情報の詳細を得ていたが、どうも釈然としなかった。
「仙蔵、お前はどう思う?」
忍衆を束ねる頭、つまりは仙蔵の上司にあたる男がうっすらと生えた顎髭を気にするように撫でながら仙蔵を見た。
仙蔵の知る限り、志乃がこの城で働き始めてから浮いた噂はひとつとしてなかった。同僚も上司も志乃を女として扱うことなどなかったし、どちらかというと男より女の視線を集めるようなやつだ。
「……志乃が不義はあり得ないでしょう」
「まあ、そうだろうよ」
頭は仙蔵に同意しつつも、しかし、と続けた。
「志乃は美人だし中には目を付けていた者もあったのではないか?お前はどうだ、仙蔵」
からかう様な、しかし決して見逃してはくれない鋭い目で捕らえられる。妙に年寄りくさい物言いや雰囲気を出すこの人は、齢三十という頭としては若いと言える年齢だ。しかしこの人が上司になって以来、仙蔵はこの人には絶対に嘘は通用しないということを経験していた。
「志乃は学園からの後輩なのでそれなりの情はあります。しごきがいのある可愛いやつでしたが、色恋を持ちかけようと思ったことは一度もありません」
仙蔵は正直な気持ちを述べると、頭は少しだけつまらなそうに口を尖らせて「そうか」と言った。
「まあ自ら望んでタソガレドキの雑渡に嫁いだ女だ。手を出す馬鹿はおらんだろう」
「志乃の……雑渡昆奈門への並々ならぬ想いは見れば分かります。かつて志乃は"タソガレドキに恩人がいる"と言っておりましたが、やつのことでしょう。だから、あいつが裏切ることなどあり得ません」
「…となると、だ。タソガレドキが志乃を切り捨てたということかな」
「これを口実に梅の香を動かして戦でも起こすつもりでしょうか」
「黄昏甚兵衛ならやりかねないが、うちの殿はそう簡単には動きはせんだろう」
「もしくは、第三者。タソガレドキと梅の香の同盟を崩したい勢力。ドクタケなどはずっとこちらを窺っているでしょう」
「あり得るな」
納得しているような態度を取りながらも頭はまだ続きを待っているように見えた。
「あと、考えられるのは……タソガレドキの内輪の問題でしょうか。タソガレドキは忍軍の力が圧倒的です。特に雑渡昆奈門の発言力は強い。城内にはそれを不満に思う者もおりましょう」
「なるほど。そうさな、あれほど存在感のある忍もいないだろう」
先ほどから仙蔵は妙にそわそわとした気分になっていた。どうも、頭の考えを喋らされているような感じがする。この人のこういうところが苦手だ。当の本人はうっすら笑みを浮かべながらこちらを見ていた。
「もしくは」
と、ふたりの言葉が重なったところで仙蔵は詰まり、頭がその先を続ける。
「志乃を取り戻したいうちの者が仕掛けたことか」
仙蔵は息を飲んだ。
正直、この件を聞いてから腹が立っていた。
"うちの志乃"をタソガレドキ城内に閉じ込めておくなど、なんてことをしてくれるんだと。仮にも梅の香城主の姪、公にしていないとはいえ、血筋であることは伝わっているはずである。同盟をなんだと思っているのか。いっそのこと、これを機に志乃を梅の香に取り戻せないかと思っていた。それが、他でもない梅の香の手の者の仕業であるとしたら……
「あれは良い女で、良い忍だ。手放すには惜しい人材よ。殿が承知の上とはいえ、正直タソガレドキにくれてやるのは勿体無い。そうは思わんかったか」
「頭……」
「しかしなぁ、うちの者ではないだろう。タソガレドキとの同盟の必要さは理解させているし、その同盟において志乃の役割は重い。そもそも私の目を掻い潜って動くのは至難の技だろう?」
頭がにやりと笑って見せた。
「その通りです」
仙蔵がそう答えると、室の外に気配があり、目を向けた。
「頭、殿からお呼びがかかっております」
その声に、頭はすぐに立ち上がり、仙蔵もそれに続いた。