第二章
夢小説設定
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タソガレドキ城に呼び出される三日前だった。
昆奈門は習慣のせいなのか赤子を気遣ってなのか妻を驚かせたいのか、いつも気配を消して静かに帰ってくる。それが珍しく慌てたような音を立てて戸を開けたことに志乃を驚いた。
「…!おかえりなさい」
「……志乃……今日、何もなかった?子は、無事?」
「何事もなく。子も無事ですが」
志乃がそう答えると、昆奈門は目の前に座り黙って背を抱いてきた。
「……妙な噂が出回っている…」
志乃は少し黙ってから、「はい」とだけ言った。
「……私は、共にタソガレドキを出ようとは言ってやれない」
「当然でしょうね」
「危険が及ぶかもしれないと分かっていても、君と子を逃がしてやることもできない」
「私はここを出るつもりはありませんよ」
「しばらく、不自由させるかもしれない」
「覚悟しましょう」
「…………君は昔から物分かりが良すぎて心配になるな」
「ではもっと我が儘を言っても?」
「うん、いいよ。もっと私を困らせてくれたって」
「では、ずっと私を貴方の妻でいさせてください」
「そんなのは我が儘に入らない」
「……でも、貴方のことだから何か手を打っているのでしょう?」
「それはそうだが……どうなるかは何とも言いがたい」
「でしたら私も努力します。何もせずに待つのは性に合いませんから」
「君は本当にかっこ良くて困る」
*****
さて…
一時期タソガレドキに匿われ稽古をつけてもらっていた志乃だが、接触したのは極一部の忍とくのいちであり、今回連れにきた忍に見知った者はいなかった。城内に入った際に陣内左衛門と尊奈門の姿が遠くにあるのを捉えたが、表情までは見えずこの件が知られているのかどうかまでは分からない。
「部屋に入り、頭を下げてお待ちください」
タソガレドキ忍者のひとりがそう言って中に入るよう促した。言葉は丁寧だが、決して心許さぬといった雰囲気を出している。
志乃は言われるまま、部屋の中に入って平伏した。中には御側衆が数人がいる。忍たちは一緒に入らず部屋の外で待っているようだった。
しばらくして黄昏甚兵衛が入ってきた。
ひとつ上の壇上に座ると、
「志乃、顔を上げよ」
と言ったが、志乃はそのまま平伏していた。
「聞こえなかったか?ん?」
「言われた通りにせぬか」
「不敬だぞ」
黄昏甚兵衛の後から御側衆が声を荒げる。
「……この度あらぬ噂で城内外を騒がせてしまっていることは、私の不徳の致すところでございます」
志乃は頭を下げたまま形式ばった物言いをした。
「発言を許されておらぬぞ」
と御側衆のひとりが言うのを黄昏甚兵衛が制した。
「ふむ。あらぬ噂とは……どのような噂かそなたの口から言うてみい」
「軽々しく口にできることではございません」
そう言って志乃は黙ると、周囲が騒ぎ立てた。
「殿に従えぬとは不敬なり!」
「立場を分かっておるのか!」
「己が不貞を働いたことであろう!」
矢継ぎ早に浴びせられる志乃を責め立てる言葉を黄昏甚兵衛は黙って聞いていた。志乃もまた、その言葉が尽きるのを待った。
「……私は己の立場をよく分かっております」
場が静まり返った一瞬、志乃は一言そう言った。黄昏甚兵衛は顎に手を当てると、御側衆に「席を外せ」と告げた。
御側衆がしぶしぶ席を外すと、黄昏甚兵衛は志乃の近くに寄る。
「これで良いか?そなたは案外に大胆よの。して、志乃。そなたはその立場を使って儂に何を話すつもりだ」
志乃はそれを聞いてようやく顔を上げた。
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