第一章
夢小説設定
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雑渡昆奈門の妻の志乃とはどういう人物だろうか。
陣内左衛門からは「組頭に似合いの人だ」としか聞いておらず、その組頭の人柄もよく分かっていない華には皆目検討がつかなかった。ただ結婚祝いの礼文を送った後に来た返事を見るに、とても律儀で真面目な方なのではないかと想像しただけだ。だから噂のような人物像が合致しない。
現梅の香城主の血縁で、元梅の香くノ一。
その美しさで、あらゆる敵を惑わし成果を上げてきた。血筋を利用して雑渡様に近づき、結婚にこじつけたと、そんな噂だった。そして不義を働き……
「華さん、大丈夫ですか?」
突然陣内左衛門に声をかけられ、華の思考は途切れた。
「あっ、はい!」
慌てて返事をすると陣内左衛門がふわりと笑った。ふと、こんな柔らかな笑顔をする方だっただろうか、と思った。
「初対面ですが緊張せずとも良いですよ。志乃は畏まられるのを嫌いますから」
これから噂の張本人に会いに行く。陣内左衛門は、妻の顔が浮かないのは上司夫婦に会う緊張が為だと思っているようだった。確かにそれも大いにあるので、華はそういうこととして話を合わせることにした。
「しかし、雑渡様の奥様であり梅の香城主様の血縁でいらっしゃる方に失礼があっては…」
「血縁なのは確かですが…彼女はそれを知らずに育ったとのことで、あまり実感がないと言っていました」
「そう、なのですか」
「私も詳しくは知りません。組頭はご存知かと思いますが。あぁ、それから前に"奥方"と呼んだことがあるのですが止めてくれと言われました。なので名前で呼んでやると喜ぶと思います」
「えっと……陣内左衛門様と志乃様は前々からのお知り合いで?」
華はこれを質問するに少々勇気を要した。これは、きっと……
「……特別親しいというわけではないですが、以前槍術の稽古を見てやったことがあります」
それを聞いて華はホッとした。陣内左衛門の言い方から考えると師弟関係のようなものなのだろうか。この安心した気持ちは、自分がきっと志乃に対して嫉妬の気持ちが芽生えていたからだと華は自覚していた。
陣内左衛門の横顔をちらと見ると、何故か少し口角が上がっている。
「陣内左衛門様?」
「……すみません。貴女の意外性を見たというか…」
「意外性?………………あっ」
きっと顔に出ていたのだと気がついて顔に熱が上る。嫉妬など、幼い女だと思われただろうか、醜い女と思われはしなかったろうか…
そもそも私などが雑渡様の奥様に嫉妬などおこがましいことだ。
そんなことを思いながら改めて陣内左衛門の方を窺うと彼は我慢ができなくなったように声を上げて笑った。
「ははっ、貴女は存外分かりやすいのですね。表情がくるくると変わるから面白い」
「……そんなこと今まで言われたことがありません」
どちらかというと、表情が分かりにくい、何を考えているのか分からないと子ども頃からよく言われてきたというのに。
「私には分かりますよ」
そう言って彼は嬉しそうに笑った。
「……本当に可愛い人だ貴女は」
華はその言葉で何故か目に涙が溜まるるのを感じた。