第一章
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
目が覚めると隣に陣内左衛門はいなかった。
華は慌てて起き上がり周りを見渡す。辺りはまだ薄暗く、夜が明けたばかりだ。夫はもう仕事へ行ったのだろうか。だとしたら、見送りもできず自分ばかりが眠りこけててしまっていたなんて情けない。
華がため息をついて視線を落とすと枕元に文が置いてあることに気が付いた。
『仕事に行って参ります。昨夜は無理をさせてしまったので、ゆっくり休んでください』
その文によって昨夜のことがありありと思い出され、華はひとり赤面した。
彼は、暗がりの中私が怖くないように慮ってかこれから口付ける箇所を指で触って教えてくれた。これでともかというくらい丁寧に時間をかけて触れて、口付けて、優しく私の身体を開いていった。
羞恥心で消えてしまうかと思った。けれど、昨夜は間違いなく幸せだったと思う。肌が触れ合うのがあんなに心地の良いものだったなんて…
華は昨夜陣内左衛門に触れられた箇所を自身で触れ、思い出しては幸せの吐息が洩れた。
しかしこうだらだらと思い出に耽っている場合ではない。
今日は雑渡家へ持参する土産物を探す為、実家に行くのだ。準備をしなければならない。
華はひとりで「よし!」と声を上げて朝の身支度を始めた。
*****
「ただいま戻りました」
家へ入ると母が驚きと喜びを同時にたたえながら出迎えてくれた。
「華、まぁどうしたの」
「突然ごめんなさい。明日雑渡様のところへ訪問することになったので、お土産を用意したいのです。やはりこのあたりだとうちが一番品が揃っているので…」
「雑渡様……」
華は母が一瞬妙な反応をした、と思った。けれども再び見るといつもと変わらぬ母なので思い違いかもしれない。
「華は志乃様にお会いになったことはあるの?」
「いいえ。明日が初めてです」
「そう……」
母はしばらく考えた後、流暢に話し始めた。
「お土産物……そうねぇ奥様産後間もないから栄養のあるものが良いかしら。卵なんかもあるけれど。それよりも南蛮菓子の方が良い?甘いものはお好きかしらね。そうだわ!ちょうど美味しいかすていらが入ってきているの。試食させてあげる。ここで待ってて」
そう言って母はバタバタと奥の部屋へ入っていった。
母は相変わらず忙しないが、優しい。末っ子で要領の悪い私をずっと心配してくれていた。今回の縁談を持ってきたのも母だ。父は私への関心が薄いので、私は根っからの母親っ子だった。
そんな昔のことを思い起こしていると、その父の声とお客様らしき人の声が複数聞こえてきた。
「あのお身体で子など……」
「……雑渡様の………が不義……」
「密通があったと……」
"不義"
"密通"
この穏やかならぬ言葉に華はどきりとした。しかもその話題の主は夫の上司たる雑渡昆奈門のようだった。
聞いてはいけないような気もするが、聞かなければならないことのような気もして耳をそばだてる。
「聞けば奥方は梅の香城の元くノ一だというではないか。結婚後もしばらく通っていたというし…」
「そうなのか?それじゃあ誰の子だか分かったもんじゃない。男子だというからいずれその子も忍軍に入るのだろう?それは大問題なのではないか」
「本当だよ。梅の香城主の血縁というから人質として嫁いで来られたと思っていたのが、まさかくノ一で間者とは…戦になりやしないか」
「まぁ、このまま城主様が放っておくわけもあるまいし、雑渡様とて不義を働く妻など側に置いてはおくまいよ。これを機に梅の香を取ってしまわれるかもしれないな」
耳に入ってくるただならぬ会話は華をその場に縛り付けてしまった。