第四章(留三郎ルート)波打ち際<完結>
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留三郎と向かい合った茶々子は、少しばかり雰囲気の違いを感じてどきりとした。でもそれは自分が緊張しているからそう感じるだけなのかもしれない。
「外は少し冷えるので中で話せるところ探しましょうか」
そう言った留三郎はいつも通りのようにも見える。
「あのね……できれば、他の人に聞かれたくないんだけど」
「んー、では…」
「あっ」
と茶々子が声を上げたところで
「「月見の…!」」
ふたりの言葉が被り、思わず笑ってしまった。
他の人に気が付かれないように、いつか月見をした教室に二人でこっそり入る。格子を開けると沈みかけた日の光が鮮やかに教室内を照らした。
「ちょっと眩しいね」
「そうですね」
ふたりは格子側を背にして壁に横並びで座った。表情は見えない。
「留三郎くん」
「はい」
「急に名前で呼んでごめんね」
茶々子は意を決して話し始めた。
「呼んでみたかったの。反応が見てみたくて」
留三郎は何を思っているのか、何も言わない。そのまま茶々子は続けた。
「少し、私の家のことを話すね。いいかな」
そこで「はい」と留三郎から返事があった。
「私は祖父の紹介で学園に来たの。社会勉強の為でもあるんだけど、もうひとつ企みがあってね…結婚適齢を過ぎた私に殿方と接する機会を作るため、とでも言ったら良いかな。私、研ぎに夢中で縁談ずっと断わってたから。跡継ぎの問題があって、年齢的に限界だろうって」
ちらと横にいる留三郎を見るとこくんと頷いた。どうやら知っているらしい。兄が来たことでちょっとした騒ぎになったので、どこからか漏れたのだろう。
「それでね…この仕事が終わって、実家に恋人と呼べる人を連れて来いと言われているんだ。それができなければ両親が結婚相手を決めるって。夫になる人を親が決めるなんて当たり前だけど、私は結婚するなら自ら好きになった人が良いなんて夢を見てて。けれどそんなこと難しいのは分かってるから、せめて自分が決めた人と少しの時間だけでも恋がしてみたいと思ったの」
ここから先を言うのに、茶々子は特に勇気を要した。先程から留三郎の表情がピクリとも動かない。さすがに引かれただろうか。結婚適齢過ぎた女がはしたなく恋に恋してみっともないと思っただろうか。けれど、ここまで言ってしまったらもう茶々子は今さら引けなかった。
「それで……留三郎くんが私との仲を進展させる気がないのは分かってる。でも、まだ私のことを憎からず想ってくれているなら、その…………私の恋人として私の家の事情に少しだけ付き合ってくれませんか?」
言い終わると茶々子は答えを求めてじっと留三郎の目を見つめた。