第四章(伊作ルート)蕾<完結>
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「茶々子さん、入っても良いですか?」
伊作の声がしたので茶々子は驚いて返事が遅れた。伊作に再び声をかけられ、慌てて戸を開けに行く。
目が合うと伊作は少し照れながら笑う。
それを見ると、先ほど娘さんが言ったことを思い出して苦しくなった。
ー私、伊作くん好きなので、彼には幸せになって欲しいんですよね
こんな年上の私なんかより、あの子の方がよっぽどお似合いだ。
そんなことが頭を過っては、それを否定したくなる。頭と心が矛盾して、争って消耗して、もう考えることを放棄したくなった。
「茶々子さん?あの、大丈夫ですか?なんか顔色が…」
そう言って伊作が茶々子の顔に手を伸ばすと、茶々子は反射的に避けるように下がってしまった。
「あ……」
伊作は一瞬悲しそうな顔をしたかと思うとすぐいつもの笑顔を見せ、茶々子に白湯を差し出した。
「少し冷えましたよね。白湯を貰ってきました」
「あ、ありがとう」
「……あの、僕ここにいない方が良いですか?」
茶々子はハッとしてぶんぶんと首を横に振った。
「ううん、そんなことない」
なぜ、気の利いたことが言えないのだろう。
さっきの態度は良くなかった。彼に嫌な気持ちをさせてしまったかもしれない。
そう思いつつも、薬屋の娘さんと伊作の関係が気になってフォローするような言葉が出てこない。
「何か気になることでも?」
二十歳の自分が十五歳の子に気を遣われ、茶々子は情けなくなりつつも、会話を繋いだ。
「……えっと、さっきの彼女は……」
「あぁ、仕事に戻るからと言っていました。それで、僕が白湯を持ってきたんです」
伊作はそう言うと、
「隣、座っても良いですか?」
と茶々子に座るよう促した。
「う、うん」
しばらく二人は黙っていた。
いつもどちらともなく会話が始まるので、こんなに長い沈黙は初めてだ。
茶々子は何を話したら良いか分からなくなった。しまいには緊張して鼓動が速くなりいたたまれなかった。
「あの、茶々子さん」
沈黙を破ったのは伊作の方だった。
「何か、怒ってます?」
「えっ!?何で?」
「いや、何だかさっきから険しい顔しているので。具合が悪くないのなら怒っているのかなぁと」
「違うよ!えっと……その」
聞いて良いものかと気が引ける。
「気になることがあったら言ってください」
そっと伊作を窺い見ると、心配そうにこちらを見ていた。
「あの、娘さんと伊作くん、仲が良いのかなって……」
伊作はきょとんとした。
「あ、えと、歳も近そうで親しげに見えたからっ」
茶々子が続けて言うと、伊作は笑って説明し始めた。
「あぁ…彼女は薬売りに学園にもちょくちょく顔を出すんです。かなり前から親父さんと一緒に来ていて歳も同じなので、僕ら六年生は皆馴染みなんですよ」
「…でも、伊作くんは特別なんじゃない?彼女言ってたよ。"伊作くん好きだから幸せになってもらいたい"って」
「あー…そんなふうに言ってました?」
何故か伊作は口許に手を当てて笑いを堪えているようだった。
「伊作くんは、彼女みたいな子の方がお似合いだよ。しっかりしてて綺麗な子じゃない?」
「茶々子さん」
伊作が茶々子の手を包み言葉を止めた。
「なんで、そんな顔してるんですか」
「えっ」
「……あの、もしかしてヤキモチですか?」
ヤキモチ……
茶々子はそれを聞いて顔に熱が上るのを感じた。
「ふふ、そうだったら嬉しいです。一応言っておきますが、僕が好きなのは茶々子さんですからね。それに、彼女の"好き"は恋情とは別物ですよ。彼女、他に想う人がいるの知ってますし」
「そ、そうなんだ…」
「それで、どうなんですか?」
彼には珍しい、意地悪な笑顔を向けられて茶々子は驚く。
「ヤキモチで、合ってますか?」
茶々子の心の中には否定できるものがなかった。