第四章(土井ルート)隠せりと為すか<完結>
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耳にまで心臓の音が聞こえた。
胸元にいる茶々子に聞こえないはずがなく、半助は恥ずかしかったが緊張を振り切って口を開いた。
「茶々子さん、私が貴女を好きなのは本当です。だから、貴女の前では格好良くいたかったんです。でもそれは、"私をよく知ってください"と言った自分の言葉と矛盾していました。私が見栄で本音を隠してしまえば、貴女は私の刀を研ぐことなどできないのに」
半助の言葉を聞いて、茶々子は少し黙った後静かに言った。
「……私も、すみませんでした」
「茶々子さんが何を謝るんです」
「土井先生の提案を受け入れたのは、最初打算が大きかったと思います。私にとってはとても都合が良いから」
でも、と茶々子は続けた。
「私、先生との結婚を何の迷いもなく想像してたんです。それから、好き合えたならとても素敵だなと思いました。なのに、好きになったら負けな気がするとか幼稚なことを言ってしまいすみません」
「いや、それは私の言い方が悪かったんです。つい試すような言い方を……」
半助はそこまで言って何かに気がついたようにふと言葉を止めた。
「茶々子さん、今なんと?」
「え?あ、幼稚なことを言ってしまって」
「その前です」
「……好き合えたらとても素敵だな、と」
「それは、私と?」
「土井先生以外いないじゃないですか」
「それで、どうですか?」
「どうって…」
「茶々子さんの気持ちです」
「……多分、好きです」
「多分って何ですか!」
「だって、初めてでよく分からないんです。でも、こうしているのは嬉しいと感じています」
茶々子はそう言って半助の胸元に手を置いて顔を見上げた。暗闇に目が慣れてきたのか、しっかりと目が合う。
「……それは、もう確実に私を好きだということでしょう?」
「そう言われると、そんな気がしてしまいます」
「ではそういうことにしましょう」
「ふふっ、そうですね」
茶々子が笑うと、半助は頬に手を添えた。
「茶々子さん、もう一度名を呼んで」
「はん、すけさん……」
「茶々子……」
半助はそのまま顔を近付けて茶々子に口付けた。緊張したのかぶつかった唇が硬い。口を離して顔を見ると暗闇でも分かる程に茶々子の顔が真っ赤になっている気がした。それが嬉しくて何度も口付けた。
「力抜いて。口、開けて」
「えっ、あ」
半助は茶々子が戸惑っているうちに茶々子の頭を抱えて深く口付けた。
「んんっ」
「……」
しばらくそうしていると茶々子がトントンと半助の胸を叩いた。
口を解放すると、茶々子がはあはあと苦しそうに息をする。
「……茶々子さん、もしかして息止めてました?」
こくこくと頷き、潤んだ目で見上げてくる彼女に愛おしさが込み上げてくる。
「……ふっ、ははっ」
「半助さん……っ」
「ごめんなさい。なんだか可愛くて。でも今日はここまでにしておきます。実はこのあと急な忍務が入ってしまい、数日学園を離れなくてはならないんです。だから、その前に気持ちを聞けて良かった」
「……そう、なんですね」
茶々子は気持ちを確かめ合ってすぐ離れなければならないことに寂しさを感じた。
「それは、寂しい顔ですか」
「そうです」
あまりに素直に言われて半助は少し驚いたがふわりと微笑んで言った。
「私も同じ気持ちです。この続きはまた帰ってからしましょう。あぁ、それと……」
意地悪な表情を見せ、半助は続ける。
「次口付けしたときは鼻で呼吸をしてくださいね」
茶々子の顔がさらに赤くなったような気がした。