第四章(土井ルート)隠せりと為すか<完結>
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それからというもの、半助は茶々子と顔を合わせられずにいた。
彼女の前では余裕ある大人の男でありたかった。
それなのに雑渡昆奈門の煽りに乗せられ六つも下の尊奈門に嫉妬したあげく、茶々子にあんなあからさまな態度を見せてしまった。格好悪い。自分の中であれは完全なる醜態と言えた。
彼女はどう思っただろうか。
そもそもなぜ、こちらの提案を受けてくれたのか。正直断られると思っていた。彼女を想う男は多いし、中でも利吉は彼女に真剣な様子だった。彼女の中でも彼は結構存在感が大きかったように思う。
それでもやはり彼女は研ぎの仕事や家を優先したということなのか。それで、仕方なく……
そう考えると気が滅入る。
覚悟してくださいと、言ったわりに自分の方が覚悟ができていない。
風呂に浸かりながらため息をつくと、ちょうど伝蔵が入ってきた。
「山田先生、お疲れ様です」
「お疲れさん。土井先生、失礼するよ」
並んで湯に浸かっていると、伝蔵が唐突に話を振ってきた。
「土井先生、茶々子さんから逃げ回ってるんだって?」
「逃げていると言いますか……少々気まずくなりまして」
「ん?お前さんの方が茶々子さんに想いを寄せていたと思ったのだが勘違いだったかな」
にやにやと笑う伝蔵に、この人には誤魔化しはきかないと半助は思った。
「勘違いではないです」
「"子曰く、二三子、我をもって隠せりと為すか。吾は爾に隠す無きのみ。"」
「……論語ですか」
「隠してなんぼの忍だが、教育者として私が心がけていることだ。人と深い関係を築こうという上で大事なことだと思うが、土井先生はどう思うかな?」
"私が隠し事をしていると思うか。私は君たちちに隠していることなど何もない。"
「まぁ他人なんぞどんな人間でも全てが理解できる訳ではないが、こちらが閉じてしまっては見えるものも見えまい。私から見ると彼女は心の開いた子だと思うがね」
「私も、そう思います」
茶々子の本質は心の開いた人だ。
彼女を真っ直ぐに見られないのは彼女の本心を知ってしまうのが怖いからだ。偽りの関係が本当に偽りだと実感してしまいたくはない。
「自信がないのか」
伝蔵が半助の表情を伺いながら言う。
「はい……」
「このような半助は初めて見たな」
伝蔵は項垂れる半助を見て目を細めると、頭をがしがしと少し乱暴に撫でた。
「一度手を付けようとしたからには最後まで責任取りなさいよ」
そう言うと、そっと肩に触れて
「フラれたらアタシが慰めてあげるから安心なさい♡」
と付け加えた。
「あは、は……」
それは遠慮しておきます、と半助は聞こえないように呟いた。