第三章 選択する
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「こんにちは、茶々子さん」
利吉は開け放されたままの門から中に入って茶々子に声をかけたが、何かに気を取られて彼女は気がつかない。
視線の先を追うと、半助の後ろ姿があった。
「土井先生がどうかしましたか?」
「ひゃっ!?えっ、り、利吉さん!」
ようやく利吉が来ていることに気がついた茶々子は心底驚いた顔をしていた。
「すみません、ぼーっとしてしまって」
「……土井先生が気になっているのですか?」
利吉はつい、心のざわつきを確かめずにはいられず聞いてしまった。
「あ……その、忍刀を研ぐ約束をしているので、人となりを観察しているのですが、なんだか掴み所のないお方だなぁと」
そう言う彼女の表情からは、仕事とも恋情とも言えぬなにか複雑なものが見て取れる。
「……土井先生をそのように評する人は珍しいです」
「利吉さんは、土井先生をどのような人だと思っていますか?」
「まぁ、私にとっては兄も同然の人なので身内の贔屓目もあるのですが、優しくも厳しく、強くて格好良い人です」
「すごく慕ってらっしゃるんですね」
「はい、尊敬しています。だからこそ、茶々子さんが土井先生を気にしているとなると、気が気ではありません」
さすがに言っている意味が分からないほど鈍感ではないらしく、茶々子の頬がぽっと赤く染まる。
それを見て利吉は少し安堵し、続けた。
「今日は少し近くで仕事があったので貴女に会いに来ました」
今日の自分はいつになく素直だ、と思った。
「あ……あの、嬉しいです。ありがとうございます」
対して今日の彼女はよそよそしい。意識してくれているのなら嬉しいが、それだけではないように見える。
「……やはり、土井先生を気にしていますか?」
我ながら、そう聞いてしまう自分が悲しいと利吉は思った。彼女に近付きたいのになかなか会いに来られないという焦りと半助には敵わないという劣等感が胸中を支配している。
「いや、土井先生が特別だというわけではないんです……あの、本当に恥ずかしい話なのですが、この年で色恋など全くしたことがなく…そもそも殿方を意識したことすらなかったので、色々と戸惑ってしまっていて、ですね」
察するに、自分以外にも半助含む何人かから既に色恋の働きかけがあったのだろう。
「すみません、こんな話してしまって。あ、でも、利吉さんが会いに来てくださったことが嬉しいのは本当です」
彼女に真っ直ぐに見られると、もう目が離せなくなる。"知りたい"が"親しくなりたい"になって、"触れたい"に変わっていく。
仕事上、女性と触れ合うことはあっても自分からそのように思ったことはなかったというのに。これは、もう言い逃れできないほどの想いになってしまった。
利吉は伸ばしそうになる手を抑えた。
「……そう言ってもらえると嬉しいです。また、近々来ます。そのときに次の約束がしたいので、それまで私のことを考えていてください」
彼女は胸に手を当てて小さく頷いた。
やはりたまらなく可愛い、と思った。
(第四章利吉ルートへ続く)