第二章 接近する
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またも私は落とし穴に落ちている。
前と違うのは伊作くんに抱き締められているということ。意外にもと言ったら失礼だがしっかりと筋肉の付いた身体にがっちりと抱きすくめられ、身動きが取れない。
なぜこんなことになったのか……
*****
月見の翌日、茶々子は早くに目が覚めた。
やはりあまり眠れなかった。
五つも年下の子に想いを寄せられてしまった。
しかも自分が戸惑いの中にいるのを察して気を遣ってくれている。彼はどこまで優しいのだろう。それに、半助の態度も気になった。恐らくこうなることを分かっていて留三郎とふたりにしたのではないか。中途半端に放り投げられたような気分だ。
それから「親しくなりたい」と言ってくれた利吉との次の約束がいまだされてないことも、落ち着かない。
それぞれ恋なのか違うのか、茶々子には分からなかった。
人と深く関わろうと決めたものの、適正な距離が分からない。嫌われるのも怖いけど、好かれることも怖い。自分の心が何かに支配されるようで不安だ。
自分がこんなにも臆病だったなんて知らなかった。
茶々子は着替えた後、新左ヱ門からもらった小刀を持って外に出た。
振ってみたがやはり上手く振れない。ぶれてしまって、これでは何も斬れないような気がした。
ふと、遠くに目をやると伊作の姿が見えた。
大きな籠を背負っているが、どこに行くのだろう。
「伊作くん、おはようっ!」
少し声を張り上げて呼ぶと、伊作は嬉しそうに駆け寄ってきた。
「茶々子さん、早いですね。おはようございます!昨日はすみません。僕途中で寝てしまったみたいで」
「ううん、体調悪くないなら良かった。今日お休みでしょ?伊作くんこそ早くからどこいくの?」
「目が覚めてしまったので、裏山に薬草を取りに行こうかと」
「私も行く!仕事までまだ時間あるし、手伝うよ」
考えすぎて気が滅入ってしまいそうなので、何か作業がしたかった。
「良いんですか?ありがとうございます」
そうしてふたりして裏山まで行ったは良いが……
猪が出たり山賊から逃げたりで、挙げ句の果てに落し穴に落ちるという不運が重なったのだった。落ちるときに伊作が庇って抱き止めてくれたのだが、なぜかずっとそのままなのだ。
最初は、山賊が近くにいるから大人しくさせるためとか落ち着かせるためかと思っていたが、時間が経てども変わらず伊作は茶々子を離さないままだった。そしてゆっくりと話し始めた。
「茶々子さん、昨日留三郎に何か言われましたか?」
「えっ!えと……」
「僕は……大人しく引けません。好きなんです。僕の不運を笑い飛ばしてくれる貴女が。いつも笑顔で頑張ってる貴女が。みんなに優しい貴女が。僕は誰よりも貴女の傍にいたい」
伊作の胸元からもぞもぞと顔を上げると、顔を赤くして今にも泣きそうな表情の彼がいた。いつも穏やかな笑顔の彼の、見たことのない表情だった。
なんだか自分が泣かせてしまったみたいで胸がちくりと痛んだ。