第二章 接近する
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夜、半助に案内されたのは今は使っていないという空き教室だった。
「ここはあまり人が通りませんし、月がよく見えるんです」
半助が格子を上げると綺麗なまんまるとした月が見えた。
「わぁ、今日は月だけでも明るいですね」
「良い場所でしょう?」
「はい」
半助は机を挟んで茶々子の向かい合って座ると酒を置いた。
「さて、この時期は温かいのが良いかと思い、燗酒にしてきました」
「わ、嬉し」
互いに酒を注ぎ合い、口に運ぶ。
濃厚な甘さと香りが口内を満たし、腹に入るとぶわっと温かさが広がった。
「「美味しい……」」
ふたり同時に呟き、茶々子と半助は目を合わせて笑った。
「これは本当に美味しいですね。茶々子さん、ありがとうございます」
「喜んでいただけて良かったです。それにしても使われてないとはいえ教室でお酒飲むなんて悪いことしてるみたいでどきどきします」
茶々子の緊張の種はそれだけではなかった。
半助と研ぎの約束をして以来、妙に意識してしまいふたりきりというこの状況に戸惑っていた。ただそれは酒が曖昧にしてくれている。
「それで茶々子さん、利吉くんとのでぇとはどうでしたか?」
「えっ!で、でぇと……だったのでしょうか……でも、楽しかったです」
「それは良かった」
半助が微笑む。
茶々子には半助の思惑が全然分からなかった。どういうつもりで月見に誘ったのか、利吉の話を聞いたのか……
知ってくださいと言われて観察してみても、教師としての土井半助は見えても個人の彼は見えてこない。
「……隣に行っても良いですか?」
そう言って半助が立ち上がる。こうされては「はい」以外の選択肢はないだろう。
茶々子が頷くと、半助は移動してひとり分くらい空けて隣に腰かけた。
「利吉くんとの距離はどれくらいでしたか?」
「あ、えと……もう少し近かった、かと」
半助が半歩詰めてくる。
「これくらい?」
「は、はい」
「では、私はもう少し」
肩が触れると心臓が跳び跳ねた。
「嫌でしょうか?」
「い、嫌ではありませんが……その、恥ずかしいです」
間近に半助の目線を感じ、茶々子は下を向いた。
「それは、私を意識してくれているととって良いでしょうか」
心臓の音がばくばくと耳に響く。
半助に聞こえてはいないかと気になった。
「あの……私、こういうの慣れてなくて。ど、どうしたら良いのか……」
「……では、今日はここまでにします」
半助はそう言ってまた距離を空けた。
「飲みましょう。あ、月に薄雲が……これもまた風流ですね」
半助が何事もなかったかのように話題を変えるので、茶々子はなんだか肩透かしをくらったような気がした。
「せ、先生っ、私をからかっていらっしゃる……」
「いえ?正直に話しますが、私は茶々子さんと親しくなる利吉くんに嫉妬しているんです。できるなら貴女の興味を独り占めしたい」
茶々子は全身が熱を持つのを感じた。
「でも、貴女が嫌なら何もしません」
それは、全て私次第ということだろうか。
「先生、なんだかズルいです……」
「私はこういう男ですよ」
半助は爽やかに言ってのけると、ぐいと酒を呷った。