第二章 接近する
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いよいよこの日がやってきた。
いわゆる"でぇと"なのかわからないが、茶々子は緊張していた。
小袖に手を通し、いつもより髪を整え、ここ数日くのいち教室の子達に教えてもらった化粧をした。皆褒めてくれたが、どのような反応をされるだろう。
「茶々子さん!」
学園の門前で待っていると、利吉が走ってくるのが見えた。
「お待たせしました。おや、今日はいつもより大人っぽい」
反応をくれたことが嬉しくて、茶々子はぱっと顔を明るくした。
「最近化粧を覚えたんです。少しは年相応に見えますか?」
「はい。十五だったのが十六くらいには見えます」
「あんまり変わってない……」
「はは、冗談です。お綺麗ですよ、茶々子さん」
面と向かって"綺麗"だなんて言われたことがなく、茶々子は赤面した。それに、利吉がさらりとこんなことを口にするなんて驚いた。恋人ができないなんて嘘だろうと思える。
「あ、ありがとうございます」
「では、行きましょうか」
利吉は柔らかく微笑むと、歩き出した。
「利吉さん、今日はどこへ行くんですか?」
「一度町に出ます。茶々子さん、普段はあまりゆっくり見て回れないでしょう?今日は私がいますので、好きなように見てください」
なんだかすごく気を回してくれている。
この人きっとすごく仕事できる人だ、と感じた。そしてやはりこれは彼にとっての"お詫び"なのだろうかとも思った。
だとしたらこちらも"お礼"のつもりでいなければと気を引き締める。
「あの、私に付き合っていただくのではお礼になりません」
「あぁ、これは私からのお詫びですので気になさらず。あ、でも後ほど行きたいところもあるのでそれに付き合ってください。それで貸し借りなしにしましょう」
「わかりました」
*****
町に着いて見て回っていると、やはり利吉がいるからか客引き以外で声をかけられることはない。お言葉に甘えて見たいものを見ていると、利吉がぽつりと言った。
「茶々子さんはやはり職人ですね」
「え?」
「先程から、見るものが品そのものよりも奥で作業をしている人を見ています。もの作りの過程に興味があるんですね」
「あ……品が出来上がっていく様が好きで、つい見てしまうんです」
「良いですね。普段こういうものはあまり見ませんか?」
そう言って利吉が促したのは、櫛や簪を扱う見世だった。
「わ、綺麗……普段着飾る機会がほとんどなくて、あまり見たことありませんでした。でも、素敵です。これとか……こんな細かい細工、どうやって作ってるんだろ」
桔梗が彫られた簪を見ていると、利吉がす、とそれを取り上げて売り子に声をかけた。
「すみません、これいただけますか」
「まいどぉ」
手早く勘定が済まされて行く。茶々子は呆気にとられて口を挟めなかった。
「どうぞ。差し上げます」
「り、利吉さん」
「受け取っていただけませんか?今日の茶々子さんに似合うと思うのですが」
少し寂しそうに言う利吉に、茶々子は頷かざるを得なかった。
「……こんなにしていただいてすみません……」
頭を下げると、利吉は茶々子のまとめた髪にすっと簪を刺した。
「ほら、似合いますよ。私がそうしたいだけなので、謝られると困ります」
「あ、では……ありがとうございます」
贈り物も髪に触れるのも、利吉があまりに躊躇いがなく手慣れているようで、茶々子は少し複雑な気持ちになった。