第二章 接近する
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半助は縁側に座る茶々子を見つけ、傍に寄った。なにやら真剣な顔で古そうな小刀を見つめている。
「茶々子さん、休憩ですか?あれ、それは……」
半助に声をかけられ茶々子は上を向く。
「土井先生、お疲れさまです。この小刀、戸部先生にいただいたんです。研いで、自分の物にしろと」
「へぇ、戸部先生が」
半助は小刀をちらと見てから、茶々子の隣に座った。
「それで、茶々子さんは何かお悩みなんですか?」
「えぇっ?私ってそんなに顔に出るんでしょうか」
「それは、もう。茶々子さんはいつも笑顔を絶やさないので、そうじゃないときは何かあったのかなと思います」
「はぁー、さすが先生。よく人を見てるんですね」
茶々子さんは特につい目で追ってしまうんです。
と言えない代わりに半助は曖昧に笑った。
「茶々子さんも、よく人を見ていると思いますよ」
「私は……まだまだです」
「悩みの種はそれですか」
茶々子は黙って頷いて再び小刀に目を落とした。
「……私が研いだ刃物は、よほどの初心者でなければ誰でも斬れるんです」
「それではいけないのですか?」
「……私の祖父は、その人にしか扱えないような研ぎ方をします。新作刀ですら、作り手の想いや使い手の技量を見て研いでいます。よく"人を知れ"、"刃を通じて人を見よ"と言われてきましたが、なかなかその域には行けません。それが、ここ数日身に染みて分かったんです。私はまだ人を知らないんだと。見えていないものが多いんだなと」
茶々子は長いため息をつく。
それほど長い付き合いでもないのだが、普段明るい彼女の落ち込む姿を見ると、つい手を差し伸べたくなってしまう。
それに、彼女の悩みは自分にも覚えがあった。
「私も教師をしていて、何も見えていないんだと思うことはよくあります」
「土井先生でもですか」
茶々子は意外そうな顔をした。
「はは、子供なんてな何考えてるか分かりませんよ」
「そういうときは、どうされるんですか?」
「私は、自分を見直しますね。教師としては恥ずかしい限りですが、教えたはずのものが伝わってないことも多いので。声や伝え方、振るまいなど。あとは自身の理解が合っているのかどうか。先入観や偏見がないか。案外、生徒は自分の鏡だったりします」
「自分の鏡……」
「茶々子さんはひとりひとり丁寧に接していると思います。きっと悩みの根元はそこではないんですよ。戸部先生が貴女に小刀を渡した意味は、きっとそういうことでしょう」
茶々子は半助をじっと見つめた。
いつもそうだ。
彼女は人を見つめる癖がある。
彼女が人に対して真剣な証だが、こんなにも可憐な女性にこうも真っ直ぐ見つめられては恋に落ちるのは当然ではないか。自分とて例外ではない。生徒の心配をしている場合ではなかった。
「土井先生は、やっぱり先生ですね。やるべき方向が見えてきた気がします」
「それは良かった」
茶々子の目がきらきらと輝いている。
彼女は素直でひたむきで、芯の強さがある。
ことに彼女の研ぎに対する姿勢は尊敬に値する。そんな彼女に、自分は間違いなく彼女に惹かれている、と半助は思った。
「茶々子さん、いつか私の忍刀を研いでくれませんか」
「えっ!先生刀持ってるんですか?」
「私だっていつも文房具で戦うわけではないですよ」
「あはは、それはそうですよね。でも、私で良いのですか?」
「えぇ、もちろん」
私が尊奈門を相手にしているときの、貴女の熱心な視線をどう感じているか、貴女は知らないだろう。貴女のその勝負への関心を、私自身への興味へ変えられないだろうか……
半助は顔色ひとつ変えないまま、そんな打算をしていた。
「ただし、私をよく見て知ってから研いでくださいね」
そして、一言そう付け加えた。