第二章 接近する
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「茶々子さん」
急に名を呼ばれて茶々子は、「あっ」と口に手を当てた。
「すみません、私自分の話ばかりしてしまって……」
見ると、茶々子は恥ずかしそうに笑っていた。
「いえ、良いんです。それより、先程は失礼な物言いをしてしまい申し訳ありませんでした」
「えっ?あぁ、なにも失礼なことなんてないですよ。私が世間知らずなのは本当のことで。事務員のお仕事もその為に受けたのですし、はっきりと言っていただけるのはありがたいことです」
茶々子にそう言われ、利吉はホッとする。
本当に傷つけたわけではなさそうだった。
「……私は、茶々子さんとは逆で人に対して警戒心を持ちすぎるんです。仕事は問題ないですが、どうにも人と深く関わることが苦手で。父によく『いつもそんなんじゃ恋人もできない』などと言われます」
最後のは余計なことだったか、と恥ずかしさが込み上げてきたところで茶々子が言った。
「では私たち、足して割るとちょうど良いですね」
茶々子が目を合わせて笑いかけてくる。
利吉はそのとき彼女を"可愛い"ではなく"綺麗だ"と思った。
「……はは、なるほど確かに、そうかもしれません」
「でも『恋人もできない』は一緒かも」
茶々子がぽつりと言う。
「それは、意外です」
「そうでしょうか?」
そうしている間に学園が見えてきた。
利吉は茶々子とこのまま別れるのは惜しい、と思った。知り合って間もない人にこんなことを思うのは初めてだ。
「[あの……茶々子さん。後日、改めて非礼のお詫びをさせてください」
「えぇっ!?お詫びなんていらないです。私の方こそ助けていただいたお礼をしなくちゃならないのに」
「ではお礼で良いので、一日私に付き合ってくれませんか。ちょっと仕事が立て込んでいるのですぐは難しいのですが」
「あ……はい……」
「良かった」
そう言った利吉の柔らかな笑顔に、茶々子はどきっとした。この人にこんな顔を向けられたのは初めてだ。
「ではまた学園に寄りますので、日程はそのときに」
「え?利吉さん、今日学園に用事があるんじゃ…‥」
「用事なら済みました」
学園の前から颯爽と立ち去る利吉を、茶々子は呆然と見つめていたが、頭の中は忙しく混乱していた。
あの人、わざわざ私を送るために「用事」などと言ってくれたのか……
そして
初めて"殿方からのお誘い"を了承してしまった。
これは南蛮の言葉でいうところの"でぇと"なのだろうか。いやいや、お詫びと言っていたし……こちらもお礼として行くならきちっとしなければならないだろうか……
茶々子は経験のないことに、戸惑うしかなかった。
