第二章 接近する
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「よし、墨買えた。早く帰ろっと」
事務員の仕事のひとつとして、茶々子は町に買い出しに行くことがある。
初めのうちは誰かと一緒に行っていたが、道も店もだいたい覚えたので最近はひとりだ。
ひとりだとけっこうな頻度で声をかけられる。
客引きもあるが、一緒に茶でもどうかとか、息子の嫁に、などもある。
その都度多少の方便で躱しているが、さすがに多くて辟易していた。
「お嬢さん、ちょっと道教えてくれない?」
今度は旅人風の男が声をかけてきた。
「宿屋を探しているんだが、このへんにあるかな?」
少し警戒したが、道案内くらいならと、相手をすることにした。
「それなら向こうの通りの……」
「口じゃ分からないから連れて行ってよ」
男が茶々子の手首を掴む。
「あの、でもすぐそこなので」
さすがに危険を感じて手を引っ込めようとするが、掴まれた手首を強引に引かれ、肩を抱かれる。ぞわっと鳥肌が立った。
助けを呼ぼうにも、人通りが少ない。
どうしようと途方に暮れたところで、
「茶々子さん」
と背後から聞いた声がした。
この声は……
突然の気配に男は、慌てて振り向く。
「私の連れになにかご用ですか?」
明らかに殺気を含んだ笑みを見せた利吉がそこにいた。
「み、道案内を頼んだだけだよ」
男がぱっと茶々子から手を離すと、利吉は茶々子の肩を抱き引き寄せた。知り合いだからなのか今度は不思議と嫌な気持ちはしなかった。
「それなら私がご案内しましょう」
「だ、大丈夫大丈夫!もう分かったから!」
男が逃げるように走り去ると、利吉はためいきをついた。
「まったく……茶々子さん、なにもされていませんか?」
「はい……大丈夫です……」
利吉はいつも人の目を見て話す彼女が、うつむき加減なのを不思議に思ったが、自分が肩を抱いたままなのに気がつき、慌てて手を離した。
「失礼……」
「いえ、助かりました。ありがとうございます」
今度は目を見てくれたので、嫌だったわけではないのだなと安堵する。
「茶々子さんは人が良くて心配になります。ただでさえ小柄で年若に見えますし。町に出るとたくさん声をかけられるでしょう?この辺りでも質の悪い者もいますから気を付けてくださいね。人さらいにでもあったら大変だ」
「あ、はい」
なんだか母親みたいなことを言うなと、茶々子はさほど歳の変わらぬ青年を見つめた。
「……学園まで送ります。あ、私も用事がありますのでお気になさらず」
大丈夫と言いかけたが、遠慮を受け付けない理由を先に言われたので、茶々子は利吉の言葉に甘えることにした。
