第一章 出逢う
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「では、学園長先生。三日後向かわせますので宜しくお願いいたします」
「おう、まかせてくれぃ」
妙に眼光の鋭いきりりとした佇まいの白髪をひとつに束ねた老人が学園長の庵から出てきた。
確か、この人は刀などの武器の研ぎを仕事としている職人だ。この忍術学園からも度々仕事を依頼しており、以前から出入りがある。今回はなんでも、孫娘のことで何やら学園長に相談事があるとのことだった。
庵から出てきたこの研ぎ師を、半助は門まで送っていった。本来なら事務員の小松田秀作の仕事だが、彼は不幸な事故で全治三ヶ月ほどの怪我を負い休職中だった。
「土井先生、わざわざ見送りまでありがとうございます」
「いえいえ。悩みごとは解決されましたか?」
「まぁ、おかげさまで希望は見えた、というところでしょうか」
「それなら良かったです」
「では、土井先生も宜しくお願いします」
研ぎ師は丁寧に頭を下げて帰っていった。
"土井先生も"とはいったいどういうことだろうか。ひっかかりを残しつつ、見送った。
*****
茶々子はあまり乗り気ではなかった。
研ぎ師の家に生まれた茶々子は、幼い頃から祖父や父の仕事を間近に見てきた。
跡継ぎには兄がいたが、見る目があり、やりたいと言うのでやらせてみたらめきめきと才覚を現した。兄はそんな妹を見て嫉妬なのか元々向いていなかったのか、「研ぎより剣を振るう方がしたい」と家を出てしまったのだ。
茶々子は自分が後を継ぐと言うが、婿取り問題を先送りにし、今年二十歳になる。彼女は小柄で愛らしい顔立ちをしており、愛想も良いので依頼人から色めいた話をもらうことも多々あったが、本人は研ぎに夢中で恋人など作ったことがない。
両親が見かねて見合いを勧めるも断り続け、ついには「家を途絶えさせる気か!」と揉めに揉めた。茶々子を可愛がっている祖父が間に入ってなだめたが、根本的な解決には至らないので、古くからの知り合いに相談に行ったようだった。そして、帰ってきたと思ったら
「み月ほど、忍術学園の臨時事務員をしてこい」
と言われたのだ。
「茶々子は研ぎの才覚があるが、それしか知らなすぎる。人を知り、視野を広く持て。ついでに男も知ってこい」
ということだ。
両親からは
「み月経ったら誰か恋人と言える人を連れてこい。できなかったら強制的に縁談を組む」
と言われてしまった。
忍術学園には男が多い。とはいえ事務員の仕事をしに行くのに、婿候補でも探せというのはいささか不純ではないだろうか。しかしおじじ様も、ひいては忍術学園の学園長も承知のことらしく、茶々子は頷かざるをえないのだった。
茶々子はため息が出た。
家のためにも結婚をする気がないではないが、あと少し研ぎに集中していたかった。才覚はあると言われるが、まだ祖父や父には及ばない。結婚して子ができればどうしても研ぎの現場を離れざるを得ない。その前に研ぎとはなんたるかの片鱗だけでも掴みたかった。
とはいえおじじ様のお気持ちを無下にするわけにも、面目を潰すわけにもいかない。婿取り問題に関してはとりあえず考えないこととして、仕事はきっちりこなそうと茶々子は思った。
最悪、相手は忍者候補なのだし恋人のフリを依頼して間を持たすか、縁談相手の理解があることを願うしかない。
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