【短編】
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
「雷蔵、いつものやつ?」
退屈そうに床に転がっている三郎が、机に向かって筆を動かす雷蔵の背に声をかけた。
雷蔵は一言「うん」とだけ答えるとさらさらと迷うことなく筆を動かす。そんな彼を三郎は不思議そうに見た。
「迷い癖のある君が、筆の墨が乾かないうちに人への文を書き上げるなんて奇妙なことだな」
「あはは、何でだろうね。習慣かなあ。これだけはいつも迷わずできるんだ」
雷蔵は筆を置き、書き終えた文を眺めた。
文を書いた相手とは、もうしばらく顔を合わせていない。雷蔵は彼女のいる郷里へと想いを馳せた。
彼女、茶々子とはいわゆる許婚という関係だ。
元々互いの親同士が親しくしており、幼い頃から見知ってはいる。ただ彼女は身体が弱くてあまり外に出ることができず、共に遊んだという記憶はほとんどない。ただ、外に出られない彼女に何度か本を読んでやったり話し相手をしたことがあるだけだった。
だから忍術学園入学直前に将来の結婚相手になどという話を聞かされたときはかなり驚いた。正直親同士が盛り上がっているだけだと思っていたのだが、茶々子からは「兄様」などと呼ばれ、入学してからも文が何度も来るものだから、彼女は自分の許嫁なのだと認識せざるを得なかったのだった。
「それにしても雷蔵に許嫁か。どうりでそういった話に興味がないわけだ」
「興味がないというわけでもないけど、彼女に失礼かなと思って」
「帰省しても会ってくれないのに?」
「はは、それを言うなよ。彼女は少し身体が弱くて、伏せってしまいがちなんだ。無理させるわけにはいかないよ」
雷蔵は長期休みに必ず郷へ帰っていて、三年生のときくらいまでは会えていたのだが、ここ二年ほどは全く顔を見ていない。
茶々子に会おうとすると、大抵伏せっていて「見苦しいから」「移してしまうと悪いから」と断られていた。もしやかなり悪い状態なのでは思うが、家族曰く「これでも昔より体力がついてきたのだ」そう。
忍術学園に戻ればこうして文のやり取りもできているのだから少なくともずっと伏せっているということはないのだろうことは分かる。
「さて、墨も乾いたし、小松田さんにお願いしてくるよ」
「はーい」
三郎の欠伸が混ざった返事を聞きながら部屋を出た。夏が近いというのに肌寒い。薄暗くて雨が降りそうだ。そういえば雨の日は好きだと彼女は昔言っていた。皆外に出られないから、家の中が賑やかで嬉しいと。けれど、雨音が耳に気持ち良くてつい寝てしまうのだとか。
「はは、なんだか僕も眠たくなってきたよ」
雷蔵はまるで彼女がここにいるかのように呟いた。
*****
「母様っ、それ兄様からっ?」
茶々子は母が手にしている紙を見付けて足早に駆け寄った。
「はいはい」
幼子を相手するように返事をする母から文を受け取ると茶々子は目を輝かせながら大事に開いた。
「雷蔵兄様の手跡…」
最初の一文字を見ただけでうっとりとする茶々子に母は呆れながら言う。
「あなたそんなに好きなのに何故いざご本人が戻って来られたら会おうとしないの」
「だって……」
「だいぶ起きていられるようになって、お医者様から外出も許可されてるというのに」
……本当はお会いしたい。そう思っているのに私はいつも貴方が帰ってくると勇気が出ない。
母の言う通り昔よりずっと起きていられるようになった。元気なときは外を散歩することだってできる。でも、でも外に出ると周りの女の子はとっても可愛くて素敵で…それに比べて私は細っこくて蒼白くて、流行にも疎くて何だか恥ずかしくなってしまった。兄様は忍の学校や外でたくさんの素敵な女性に会うんだろうなと思ったら、とたにんお会いするのが怖くなってしまう。そうしているうちに熱を出してしまって、ただでさえ情けないのにこんな病弱な姿を見せたらきっと見放されてしまうのではないかと不安で堪らない。
「……今年も帰って来られるのでしょ?今度こそ顔見せられると良いわね」
母がそう言うと、茶々子は文を大事に胸に抱きながらこくりと頷いた。
(多分、続く)
ーーーーーーーー
あとがき
実はずっと書いてみたかった雷蔵の話。
私は雷蔵が特に好きであるがゆえに彼の夢が書きにくかったんですが、やっとできました。
短編に入れてますが、中途半端なので多分続き書きます。
6/6ページ